現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

予想問題/『白』原研哉/世界生成の原像/早大文学部過去問

(1)はじめに  

 

 原研哉氏の論考は、国語(現代文)・小論文における入試頻出著者です。

 最近では、東大、信州大、高知大、群馬大、早稲田大、明治大、立命館大、学習院大、法政大等の現代文・小論文で出題されています。

 今回解説する『白』は、東大、早稲田大、学習院大、成蹊大、学習院女子大、フェリス女学院大等で出題されています。

 

 芸術論、日本文化論は、入試頻出論点です。

 これからも、原研哉氏の論考は、要注意です。

 

 なお、今回の記事の項目は、以下の通りです。

(2)予想問題/『白』原研哉・2009早大文学部過去問・解説

(3)本問の補充説明

(4)原研哉氏の紹介

(5)当ブログにおける「芸術論」・「日本文化論」関連記事の紹介

(6)当ブログにおける「早大現代文」関連記事の紹介

 

 

白

 


(2)予想問題/『白』原研哉/2009早大文学部過去問・解説

 

(問題文本文)(概要です)

(【1】・【2】・【3】・・・・は当ブログで付記した段落番号です)

(赤字は当ブログによる「強調」です)

(青字は当ブログによる「注」です) 

 

【1】日本の伝統色における白は、古代に生まれた「あかし」「くらし」「しろし」「あをし」という四つの色の形容詞の一つ「しろし」に由来する。しろしとは「いとしろし=いちじるし」であり、顕在性を表現している。純度の高い光、水の雫にたたえられる清澄さのようなもの、あるいは、勢いよく落ちる滝のような鮮烈な輝きを持つものなど、いちじるしきものの様相は、変転する世界の中にくっきりと浮かび上がる。そういうものに意識の焦点を合わせ、感覚の琴線を震わせる心象が「しろし」である。それを言葉で捕まえ、長い歴史の中でひとつの美意識として立ち上がってきた概念が「白」である。

【2】伝統色とは単に物理的な光の属性を言うものではなく、A それ以外の多くの質や感受性を同時に運ぶものだが、この「白」という言葉に潜在する「いちじるし」という特性は白を読み解いていく上で大切な手がかりになる。

【3】一方で、白は『色の不在』を表現している点でひときわ特殊な色である。

【4】光の色を全て混ぜあわせると白になり、絵の具やインクの色を全て引いていくと白になる。白はあらゆる色の統合であると同時に無色である。〔 ① 〕である点で特別な色である。別な言い方をすれば、その分だけ、より強く物質性を喚起させる質感であり、間や余白のような時間性や空間性をはらむものであり、不在やゼロ度のような抽象的な概念をも含んでいる。ここで述べる白はb 流行色のように消費される色の属性でないことは言うまでもなく、c 色彩理論の対象となるものでもない。さらに言えば伝統色の系譜で語りつくせる性質でもない。そんな白に意識を通わせているうちに、ひとつの問いが浮かび上がってきた。白は単なる色ではなく、むしろd 表現の「コンセプト」として機能しているのではないかという問いである。

 

……………………………

 

(設問)

問1の(1)  空欄①に入る最適な語句を、それぞれ次の中から選べ。

イ    色に寄り添う色

ロ    色を生み出す色

ハ    色をのがれた色

ニ    色に歯向かう色

 

問2 傍線部A 「それ以外の多くの質や感受性を同時に運ぶもの」の説明として最適なものを次の中から選べ。

イ 人の心情にさまざまなイメージを喚起し、言葉を通して対象を絶妙に輪郭づけるもの。

ロ 混沌としたものを視覚的にまとめあげ、一つの秩序の中にしっかりと整えるもの。

ハ この世界にはさまざまに名づけられる事象があるということを、教えてくれるもの。

ニ 客観性と主観性の融合した、新しいものの性質を捉える手立てを創造するもの。

 

問3 傍線部a~dのうち、一つだけ他の三つと性格的に違うものがあるとすれば、それはどれか。最適なものを選べ。

 

……………………………

 

(解説・解答)

問1(1)(空欄補充問題)

「〔①〕である点で特別な色」は、直前段落の「白は『色の不在』を表現している点でひときわ特殊な色である。」「白は『色の不在』点特殊な色」と対応しています。

(解答) ハ

 

問2(傍線部説明問題)

    傍線部の「それ」は、直前の「物理的な光の属性」を指しています。

 傍線部の「それ以外の多くの質や感受性を同時に運ぶもの」の説明は、直前の段落の後半部分に、「いちじるしきものの様相は、変転する世界の中にくっきりと浮かび上がるそういうものに意識の焦点を合わせ、感覚の琴線を震わせる心象が『しろし』である。それを言葉で捕まえ、長い歴史の中でひとつの美意識として立ち上がってきた概念が『白』である。」と説明されています。

 従って、イ(→「人の心情にさまざまなイメージを喚起し、言葉を通して対象を絶妙に輪郭づけるもの」)が正解になります。

(解答) イ


問3(傍線部説明問題)

 dだけが「白」の説明になっています。

 a・b・cは、「白の対極のイメージ」の説明になっています。

(解答) d

 

ーーーーーーーー


(問題文本文)(概要です)

【5】世界は色彩の饗宴である。〔  甲  〕芽吹いた若葉がやがて紅葉し、ついには枯れ葉になるように、まさに「土に帰る」という比喩のごとく。しかし混沌は死ではない。そこには、めくるめく色彩のエネルギーが保存されて胎動し、その中から再び、まっさらな色が生まれてくるのである。


……………………………


(設問)

問4 次の4つの文を並べ替えて、空欄〔甲〕に入るようにした時、3番目に来るものは、どれか。最適なものを選べ。

イ めくるめく自然は色のせめぎあいであり、まるで印象派の画家のパレットのように騒がしい。

ロ しかし、無数の営み、無数のときめきは移ろう時間の中で混ぜあわされ、大きな時間の中では褐色へと流転する。

ハ しかし、ひとたび混ぜあわされると、生気に満ちていた個性の饗宴はたちどころにグレーの混沌へと変転するのである。

ニ 木々の瑞々(みずみず)しさや水面のきらめき、果実の凝縮感に満ちた色合いや、めらめらと燃え上がるたき火の色など、僕らはそのひとつひとつをいとしいと思う。

 

……………………………


(解説・解答)
問4(文章並べ替え問題・空欄補充問題)

 空欄直前の「世界は色彩の饗宴」から、ニの「木々の瑞々(みずみず)しさや水面のきらめき、果実の凝縮感に満ちた色合いや、めらめらと燃え上がるたき火の色など」が、導かれます。

 そして、ニの「木々の瑞々(みずみず)しさや水面のきらめき、果実の凝縮感に満ちた色合いや、めらめらと燃え上がるたき火の色など」と、ロの「無数の営み、無数のときめき」に着目すると、「ニ→ロ」のセットが導かれます。

 

 次に、空欄直後の「芽吹いた若葉がやがて紅葉し、ついには枯れ葉になるように、まさに「土に帰る」という比喩のごとく。しかし、混沌は死ではない。そこには、めくるめく色彩のエネルギーが保存されて胎動し、その中から再び、まっさらな色が生まれてくるのである。」から、

 最後に来るものは、ハ(→「しかし、ひとたび混ぜあわされると、生気に満ちていた個性の饗宴はたちどころにグレーの混沌へと変転するのである。」)と分かります。


 イの「めくるめく自然は色のせめぎあいであり、まるで印象派の画家のパレットのように騒がしい。」と、

 ハの「しかし、ひとたび混ぜあわされると、生気に満ちていた個性の饗宴はたちどころにグレーの混沌へと変転する」を比較すると、「イ→ハ」のセットが導かれます。

 以上より、「ニ→ロ→イ→ハ」が確定します。

(解答) イ

 

ーーーーーーーー

 

(問題文本文)(概要です)

【6】そんな生成と流転のイメージの中に白を置いてみる。白は混沌の中から立ち上がってくる最も鮮烈なイメージの特異点である。混じりあうという負の原理を逆行し、グレーに回帰しようとする退行の引力を突破して表出する。白は特異性の極まりとして発生するのだ。それはなんの混合でもなく、色ですらない。

【7】エントロピーという概念がある。熱力学の第2法則の中で語られるこの概念は、混沌の度合いを示している。熱力学の第2法則とは、あらゆるエネルギーは平均化されていく方向で保存されるという物理法則である。東京の気温、シベリアの気温、コンゴ盆地の気温は、生命のような地球の活動のおかげでそれぞれ異なるが、巨大なスケールの時間の中では、やがて同じ温度になっていく。地球の温度も、いつかは周辺宇宙と入り交じって宇宙の平均温度に無限に接近していく。エントロピーの増加とは、特異性を減じて平均の果てへと帰趨することを意味している。全ての色が混じりあってグレーになるように、エントロピーが増大する果てには巨大なエネルギーの混沌世界がある。ただ、この混沌は死でも無でもない。何ものでもなくなったエネルギーは、同時に何にでもなりうる保存された可能性そのものであり、その大いなる無限の混沌からエントロピーを減じながら突出してくるものこそ「生」であり「情報」ではないか。エントロピーの引力圈をふりきって飛翔することが生命である。混沌の無意味から屹立(きつりつ)してくるものが意味であり情報である。その視点において生命は情報と同義である。

【8】白は、混沌の中から発生する生命あるいは情報の原像である。白はあらゆる混沌から潔癖にのがれきろうとする負のエントロピーの極みである。生命は色として輝くが、白は色をものがれて純粋に混沌の対極に達しようとする志向そのものである。
生命は白をまといながら生まれてくるが、具象的な生命は地に足がついた瞬間から色を帯びている。卵から黄色いヒナという生命が現れるように。白は現実の世界で実現されるものではない。僕らは白を見、白に触れたように感じているかもしれないが、それは錯覚である。現実世界の白は必ず汚れている。それは〔 ② 〕としての存在でしかない。白は繊細で壊れやすい。それは誕生の瞬間ですら完璧な白ではなく、触れるとすぐに、そうとは感じられない程度に汚れている。しかし、そうであればこそ白は意識の中にくっきりと屹立する。


……………………………

 

(設問)

問1の(2) 空欄②に入る最適な語句を、それぞれ次の中から選べ。

イ    白が消失した証し

ロ    白になるのを回避した亜流 

ハ    白に引き戻す作用

ニ    白を目指した痕跡

 

……………………………

 
(解説・解答)

問1(2)(空欄補充問題)

 【8】段落の設問部分までの論理展開、つまり、

白はあらゆる混沌から潔癖にのがれきろうとする負のエントロピーの極みである」、

「生命は色として輝くが、白は色をものがれて純粋に混沌の対極に達しようとする志向そのものである」から、

ニ (→「白を目指した痕跡」)が正解と判断できます。

(解答) ニ


ーーーーーーーー


(問題文本文)(概要です)

【9】象形文字研究の第一人者、白川静博士によると、「白」という漢字は頭蓋骨の象形文字であるという。象形文字が発明された時代に人の心をとらえる白の印象は、野に放置され、風雨や陽光にさらされ漂白された頭蓋骨であったという。その忽然たる白骨の印象は痛いほど明確にイメージできる。砂漠を歩けば獣の骨が、海辺を歩けば貝殻が点々と砂の上に発見できたであろうが、これらは生の痕跡としての白の印象である。

【10】白は生命の周辺にある。骨は死に接した白であるが、生に接する「乳」や「卵」も白い。授乳は動物にとって重要な営みであり、親の生命を子に渡していくような行為である。この乳が動物も人間も共通して白い。その中には命を育む豊富な滋養が含まれているわけで、僕らが「乳白」と呼ぶ時の白には混濁した有機物のイメージがある。乳の味は「乳白」の味であり有機物の味である。乳首からしたたり落ちる生命の糧が白いということは実に興味深い。

【11】卵もその多くは白い。その白の中に現実の生命が宿り、それがあの世とこの世の境界としての皮膜である卵の殼を割って出てきた時には、もはや白ではなく動物の色をしている。生命としてこの世に誕生した動物は既にカオスに向かって歩み始めているということだろうか。

【12】白は大いなる混沌から突出してきた情報、すなわち〔 乙 〕のイメージの際にある。混沌は「地」、白は「図」である。地から図を生み出す営みが創造ではないか。混沌たるグレーから白が立ちあがってくるイマジネーションに、〔  ③  〕が重なって見えるのである。
(原研哉『白』)

 

ーーーーーーーー

 

(設問)

問1の(3) 空欄③に入る最適な語句を、それぞれ次の中から選べ。

イ    芸術存在の危機

ロ    世界生成の原像

ハ    物理的光への回帰

ニ    理想概念への超克

 

問5 空欄乙に入る最適な漢字二字の語を、本文中から抜き出して記せ。

 

問6 本文の論旨に合致しないもの二つある。それらを選べ。

イ 白の持つ多様な世界に眼を向けることは、この世界に潜む新しい意味合いに出合うことにつながるはずである。

ロ 白いと感じる感受性を磨くためには、全感覚を一気に発揮するより、伝統を学びつつ一つ一つの感覚を研ぎ澄ますのが必要である。

ハ 人が自然の輝きや移ろいに向き合った時に生れる心象が少しずつ堆積し色の名前になるのであり、白も同じなのである。

ニ 白はすべての色であると同時に無色でもあり、そうした特性の中に物理的色彩概念を超えた、人間の心と感情に直接触れ合う稀有な世界が生まれる。

ホ 個々の現象が輝きを持つのは、エントロピーが増大し、世界がすべて一つとなった宇宙の存在との対比で意味づけることが可能であるからである。

 

ーーーーーーーー

 

(解説・解答)

問1(3)(空欄補充問題)

 空欄直前の「混沌たるグレーから白が立ちあがってくるイマジネーション」が、さらに直前の二文「地から図を生み出す営みが創造ではないか」に対応しています。

 「地から図を生み出す営みが創造ではないか」における「創造」がヒントになります。 

 ロ(→「世界生成の原像」)が正解になります。

(解答) ロ


問5(空欄補充問題)

 直前の「すなわち」に注目してください。

 直前文の「白は大いなる混沌から突出してきた情報」が根拠になります。

 さらに説明を探すと、この根拠と【8】段落第1文「白は、混沌の中から発生する生命あるいは情報の原像である」が対応していることが、分かります。

(解答) 生命


問6(趣旨合致問題)

イ 【4】段落の「白はあらゆる色の統合であると同時に無色である。〔①=色をのがれた色〕である点で特別な色である。別な言い方をすれば、その分だけ、より強く物質性を喚起させる質感であり、間や余白のような時間性や空間性をはらむものであり、不在やゼロ度のような抽象的な概念をも含んでいる。」、

「そんな白に意識を通わせているうちに、ひとつの問いが浮かび上がってきた。白は単なる色ではなく、むしろ表現の「コンセプト(→当ブログによる「注」→「概念。全体を貫く基本的な発想」という意味)」として機能しているのではないかという問いである。」の部分が根拠になります。

 

 本文にない記述になっています。本文に合致していません。


 「白も同じ」の部分が誤りです。

  【3】段落「白は『色の不在』を表現している点でひときわ特殊な色である」、     

  【6】段落「白は混沌の中から立ち上がってくる最も鮮烈なイメージの特異点である。」で述べているように、

「白」は「特殊」で、「特異」です


 ニの前半は、【4】段落前半部分「光の色を全て混ぜあわせると白になり、絵の具やインクの色を全て引いていくと白になる。白はあらゆる色の統合であると同時に無色である。」に対応しています。

 ニの後半は、【1】段落第2文以下「しろしとは『いとしろし=いちじるし』であり、顕在性を表現している。純度の高い光、水の雫にたたえられる清澄さのようなもの、あるいは、勢いよく落ちる滝のような鮮烈な輝きを持つものなど、いちじるしきものの様相は、変転する世界の中にくっきりと浮かび上がる。そういうものに意識の焦点を合わせ、感覚の琴線を震わせる心象が『しろし』である。」に対応しています。

 

ホ  【7】段落の後半部分「全ての色が混じりあってグレーになるように、エントロピーが増大する果てには巨大なエネルギーの混沌世界がある。ただ、この混沌は死でも無でもない。何ものでもなくなったエネルギーは、同時に何にでもなりうる保存された可能性そのものであり、その大いなる無限の混沌からエントロピーを減じながら突出してくるものこそ『生』であり『情報』ではないか。エントロピーの引力圈をふりきって飛翔することが生命である。混沌の無意味から屹立(きつりつ)してくるものが意味であり情報である。」、

【1】段落の第3文「純度の高い光、水の雫にたたえられる清澄さのようなもの、あるいは、勢いよく落ちる滝のような鮮烈な輝きを持つものなど、いちじるしきものの様相は、変転する世界の中にくっきりと浮かび上がる。」

が根拠になります。 

(解答) ロ・ハ


ーーーーーーーー

 

【出典】

『白』原研や哉〈第1章 白の発見《いとしろし》《色をのがれる》《生命と情報の原像》〉の一節

 

【要約】

日本の伝統色における白は、「いとしろし」=「いちじるし」に由来して、顕在性を表現している。白は、特異性の極まりとして発生している。なんの混合でも、色でもない。白は、混沌の中から発生する生命あるいは情報の原像なのである。混沌たるグレーから白が立ち上がってくるイマジネーションに、世界生成の原像が重なって見える。

 

(3)本問の補充説明


 原研哉氏は本書の【まえがき】で、「白」という概念に、たどり着いた「きっかけ」について、以下のように述べています。

「  人と意思の疎通を行う時には、一方的に情報を投げかけるのではなく、むしろ相手のイメージを受け入れる方が有効である場合が多い。
 つまり、いかに多く説得したかではなく、いかに多く聞けたかが、コミュニケーションの質を左右する。
 だから、人々は、歴史の中では、時に意図的に空っぽの器のようなものを作って、コミュニケーションを図ってきた。
 当初は『空(うつ)』について書こうとしていた。しかし、書き進むうちに『白』にたどり着いた。『空』を掘り進むスコップの先に『白』という概念がこつんとあたったのである。」

 

 「意思の疎通」、「(相手の意見を)いかに多く聞けたかが、コミュニケーションの質を左右する」、「コミュニケーションの質」が、思考のスタートであったということは、本書を理解する上で重要なポイントでしょう。

 ここでは、「受け身的姿勢」の「再評価」・「見直し」の視点が強調されている点に注目してください。

 デザイナーである原氏の独自性が、感じられます。

 

 以下の原氏の見解は一見、難解ですが、私たちを立ち止ませる内容を含んでいる、と私は思います。

「  白があるのではない。白いと感じる感受性があるのだ。だから白を探してはいけない。白いと感じる感じ方を探るのだ。白という感受性を探ることによって、僕らは普通の白よりも、もう少し白い白に意識を通わせることができるようになる。そして、日本の文化の中に、驚くべき多様さで織り込まれている白に気付くことができる」(P2)


「  白という感受性を探ることによって、僕らは、日本の文化の中に、驚くべき多様さで織り込まれている白に気付くことができる」と原氏は述べています。

 ここで言う「白という感受性を探ること」は、どういうことか。

 このことを考えることが、そのまま、日本の文化、日本人、そして、自分自身を考えることに繋がることを意識してください。

 

 さらに、原氏は、「『白=空白』の意味」、「空白の無限の可能性」について、以下のように記述しています。

「  白は時に『空白』を意味する。色彩の不在としての白の概念は、そのまま不在性そのものの象徴へと発展する。しかし、この空白は、『無』や『エネルギーの不在』ではなく、むしろ未来に充実した中身が満たされるべき『機前の可能性』(→当ブログによる「注」→ここにいう「機」とは 「物事の起こるきっかけ」という意味)として示される場合が多く、そのような白の運用はコミュニケーションに強い力を生み出す。空っぽの器には何も入っていないが、これを無価値と見ず、何かが入る『予兆』と見立てる創造性がエンプティネスに力を与える。このような『空白』あるいは『エンプティネス』のコミュケーションにおける力と、白は強く結びついている。」(P38)


 「白」は時に「空白」を意味する。しかし、この空白は、未来に充実した中身が満たされるべき『機前の可能性』として示される場合が多く」、「何かが入る『予兆』」になるという、逆説的状況が、ここでは問題になるわけです。

 

 次に、本書における以下の説明は、「本問の本文の内容」を発展的に詳説したものと言えるでしょう。

「  未知化は白に通じている。白とは混沌に向かう力に逆行し、突出してくるイメージの特異点である。それは既知の混濁から身をよじり、鮮度のある情報の形としてくっきりと僕らの意識の中に立ち上がる。白とは、汚れのない認識である。いとしろしき様相の具現、情報の屹立した様を言う。いとしろしき様相はいとしろしき認識を呼び起こす。『分かる』とは『いとしろしき認識』そのものではないか。既知化し、惰性化することは、意識の屹立がおさえられ認識の泥沼に沈むことである。その泥沼から、まっさらの白い紙のような意識を取り出してくることが『分かる』ということである。僕らは世界に対して永久に無知である。そしてそれでいいのだ。世界のリアリティに無限のおののき続けられる感受性を創造力と呼ぶのだから。」(P76)

 

 原氏は、「白」を以下のように表現しています。

混沌に向かう力に逆行し突出してくるイメージの特異点、

鮮度のある情報の形、

汚れのない認識、

いとしろしき様相の具現、

情報の屹立した様。

 以上の指摘は、本問の理解を助けてくれるでしょう。


さらに、上記の原氏の記述は、重要な内容を主張しています。

「『分かる』とは『いとしろしき認識』そのものではないか」、

「その泥沼から、まっさらの白い紙のような意識を取り出してくることが『分かる』ということである」、

これらの論考は、「分かる」を「白」から分析した卓見だ、と私は思います。

 

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(4)原研哉氏の紹介

 

デザイナー。1958年生まれ。

「もの」のデザインと同様に「こと」のデザインを重視して活動中。

 2000年に「RE-DESIGN─日常の21世紀」という展覧会を制作し、何気ない日常の文脈の中にこそ驚くべきデザインの資源があることを提示した。

 2002年に無印良品のアドバイザリーボードのメンバーとなり、アートディレクションを開始する。長野オリンピックの開・閉会式プログラムや、 2005年愛知万博の公式ポスターを制作するなど日本の文化に深く根ざした仕事も多い。

 2007年、2009年にはパリ・ミラノ・東京で「TOKYO FIBER─SENSEWARE展」を、2008年から2009年にかけては「JAPAN CAR展」をパリとロンドンの科学博物館で開催するなど、産業の潜在力を展覧会を通して可視化し、広く世界に広げていく仕事に注力している。

 2011年には北京を皮切りに「DESIGNING DESIN 原研哉2011中国展」を巡回するなど、活動の幅をアジアへと拡大。

 著書「デザインのデザイン」や「白」はアジア各国語版をはじめ多言語に翻訳されている。

 

 日本デザインセンター代表取締役。武蔵野美術大学教授。日本デザインコミッティー理事長。日本グラフィックデザイナー協会副会長。原デザイン研究所。 

 


【著作】

『ポスターを盗んでください』(新潮社、1995)

『マカロニの穴のなぞ』(朝日新聞社、2001/のちに文庫) 『デザインのめざめ』(河出書房新社、2014)

『原研哉』(ギンザ・グラフィック・ギャラリー〈ggg Books〉、2002)

『デザインのデザイン』(岩波書店、2003)

『FILING─混沌のマネージメント』(宣伝会議、2005)

『TOKYO FIBER'07 SENSEWARE』(朝日新聞社、2007)

『デザインのデザイン Special Edition』(岩波書店、2007)

『白』(中央公論新社、2008)

『ポスターを盗んでください+3』(平凡社、2009)

『日本のデザイン - 美意識がつくる未来』(岩波書店〈岩波新書〉、2011)

『デザインのめざめ』 (河出書房新社〈河出文庫〉2014)

『HOUSE VISION 2 CO-DIVIDUAL 分かれてつながる/離れてあつまる』 (美術出版社、2016)

『Ex-formation』(平凡社、2017)

『百合』 (中央公論新社、 2018)

『白・百合(2冊セット)』(中央公論新社 、2018)

  

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ーーーーーーーー

 

 今回の記事は、これで終わりです。

 次回の記事は、約1週間後に発表の予定です。

 ご期待ください。

 

   

 

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