現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

予想問題『日本文化の論点』宇野常寛/2014早大社会現代文

(1)なぜ、この記事を書くのか?

 

 評論家・宇野常寛氏は、最近の入試頻出著者です。

 宇野氏は継続的に、「3・11東日本大震災、福島原発事故」について、深い考察をしています。

 「3・11東日本大震災、福島原発事故」は、最近の流行論点・頻出論点であり、当ブログにおける中心テーマになっています。


 以下に、当ブログの第1回の記事「開設の言葉」の概要を引用します。

 

「入試現代文(国語)・小論文の最新傾向として、注目するべきポイントとしては、2つの大きな柱があります。

【1】1つの柱は、「IT社会の光と影と闇」です。

【2】もう1つの柱は、「3・11東日本大震災の各方面に対する影響」です。

 「各方面」は、実に多方面にわたっています。入試現代文(国語)・小論文の問題を読んでいると、現代文明論、科学批判(近代科学論・現代科学論)以外に、自己論(アイデンティティ論)・環境論・人間関係論・人生論・政治論(民主主義論)等、「影響」が思いもしない方面にまで及んでいる事に、驚かされます。

 「影響」は、「単なる影響」のレベルでは、ありません。
 今までないくらいに大きく、底知れぬほど深く、長期的なものと言えます。

 最近の入試現代文(国語)・小論文にも、その影響は続いています。」

 

gensairyu.hatenablog.com

 

 今回の宇野氏の論考(『日本文化の論点』)は、「3・11東日本大震災、福島原発事故」と「世界観・終末観の変化」という、入試国語(現代文)・小論文における、頻出で重要なテーマを論じているので、予想問題記事として取り上げることにしました。

 

 今回の記事の項目は、以下の通りです。

(2)予想問題『日本文化の論点』宇野常寛/2014早稲田大学(社会)過去問

(3)本問のポイントの解説→「宇野氏の問題意識」の解説

(4)宇野常寛氏の紹介

(5)当ブログの「東日本大震災・福島原発事故」関連記事の紹介

(6)当ブログの最近の「予想問題」記事の紹介

 

日本文化の論点 (ちくま新書)

 

(2)予想問題『日本文化の論点』宇野常寛/2014早稲田大学(社会)過去問

 

(引用部分は概要です)

(【1】・【2】・・・・は当ブログによる段落番号です)(

(赤字は当ブログによる「強調」です)

(青字は当ブログによる「注」です) 

【1】円谷英二が始めた日本の特撮は、精巧なミニチュアで作られた町や山や海を舞台に、怪獣やヒーローやスーパーマシンたちが活躍し、見る者をワクワクさせてきました。しかし現在、特撮は、デジタル技術の発展と共に形を変え、その価値を見直す岐路に立たされていると言えます。本展覧会は、特撮のこうした状況を何とかしたいとかねてから考えてきた庵野秀明が、「館長」となって「博物館」を立ち上げた、というコンセプトのもとで開催します。
(「館長 庵野秀明 特撮博物館」東京都現代美術館公式ホームページより)

【2】展示の初日に行こう、と決めていました。2012年7月のこの週は息抜きしよう、遊ぼうと心に決めて、この日を待っていたくらいです。

【3】実を言うと、その日まで僕はひどく落ち込んでいました。理由は他愛もないことです。その前々日の日曜日、僕は国際展示場で催されたあるアイドルグループの握手会でちょっとした失敗をしてしまっていました。握手のスケジュールを甘く見積っていて、時間内に複数のメンバーのブースを回ることができずに握手券を二枚を無駄にしてしまったのです。僕の見積りが甘くなったのは、僕も運営側も予測できなかったレベルでの混雑です。予想外の数のファンが殺到した結果、会場で小さな混乱が起こっていたのです。僕は正直、落ち込んだけれど、その一方であの空間に満ちていた混沌とした圧倒的な力には、やはり何かを期待させるものを感じていました。

【4】そして訪れた7月10日、すでに清澄白河の会場は混雑していて、平日の昼間、それも午前中にどこから湧いて出たんだろうというくらい、そこには大人たちが、いや「おおきなおともだち」がいっぱい集まっていました。平均年齢も高くて、33歳の僕はあの中ではたぶんかなり若い方だったと思います。僕らはそんな状況がもたらす奇妙な居心地に少し戸惑いながら、この博物館の奥へ、奥へと入っていきました。

【5】特撮の歴史とは戦後日本の精神史でもあります。『ウルトラ』シリーズの生みの親として知られる「特撮の父」円谷英二は独自の特撮技術を開発し、戦前から映画界で活躍していましたが、その技術を政府に評価され戦時中は当時所属していた東宝の社員として数多くの戦意高揚映画の制作に関わりました。後に円谷が怪獣映画などで駆使する特撮技術の多くが、この時期の戦意高揚映画の制作の中で培われたと言われています。そして終戦後、公職追放で一時期東宝を追われた後に復帰し、戦争映画などの特技監督を務めました。そのかたわら、日本初の本格特撮映画『ゴジラ』を発表し、国内に「怪獣映画」というジャンルを確立することになります。

【6】広く知られているように、怪獣ゴジラはアメリカの核実験によって怪獣に変異した古代生物で、1945年の公開当時、東京を焼け野原に変えるその衝撃は空襲の再来として受け止められました。その来歴から明らかなように、円谷的な想像力とは少なくとも「政治の季節」と呼ばれた1960年代までは国家や軍隊といった ① 大文字の「政治」性と密接な関係を持ち、そこで描かれる巨大なもの(怪獣など)による都市破壊は、国家による暴力ーーつまり、戦争による社会破壊が重ね合わされています。

【7】『ウルトラマン』(1966~1967年)、『ウルトラセブン』(1967~1968年)の2作は、サンフランシスコ体制の比喩として繰り返し読解されてきた歴史があります。すなわち、いや高度成長期の日本の街並みを襲う怪獣や宇宙人は東側諸国の侵攻軍であり、それを撃退すべく組織されながらも見るからに戦力不足の「科学特捜隊」や「ウルトラ警備隊」といった防衛組織は日本の自衛隊、そして防衛組織に代わって侵略者を退治してくれるウルトラマンやウルトラセブンは在日米軍、という見たてになります。

【8】20世紀という「戦争の世紀」の表舞台で活躍した、国民国家による暴力装置=〔 A 〕へのおそれと憧れが複雑に入り混じった感情が、子ども番組という不自由な枠組みに軟着陸したときに生まれた奇形的な想像力ーーそれが戦後日本のミニチュア特撮の本質です。それは強大なものへの憧れと、それをストレートに表現することを許してくれない敗戦の傷跡ーー自分たち日本こそが悪の侵略者だったという歴史の呪縛ーーが複雑に絡み合うことで生まれた、永遠の「12歳の少年」の自画像です。怪獣映画やウルトラマンはあらゆる意味において戦争映画のアイロニカルな代替物=〔    B    〕であったと言えるでしょう。

〔  1  〕

【9】そして、映画の代替物として発展した戦後怪獣映画は、戦後社会の変化とともにゆるやかに終焉していきました。それは奇しくもミニチュア特撮という文化の勃興と衰退の歴史に重なります。21世紀の日本の「特撮」の主流は、むしろチャンバラ劇の流れをくむ東映系の等身大ヒーロー、つまり、『仮面ライダー』シリーズや『スーパー戦隊』シリーズで、怪獣映画の類の人気は下火はになって久しいものがあります。これらの番組においてはいわゆる「殺陣(たて)」を中心としたアクションが中核にあり、ミニチュア特撮は補助的な要素でしかありません。物語的にも1970年代の勃興期から、怪獣映画や『ウルトラ』シリーズが否応なく孕(はら)んでいた戦後的政治性の呪縛から解放された、自由で政治性の希薄な、痛快娯楽劇が展開されることが多かったのです。

〔  2  〕

【10】展示のクライマックスは、庵野秀明と樋口真嗣によおる短編映画『巨神兵東京に現わる』でした。宮崎駿の映画/漫画『風の谷のナウシカ』に登場する巨大人型兵器「巨神兵」が現代の東京に襲来し、街々を一瞬で灰塵(かいじん)に帰するその過程を、今失われつつあるミニチュア特撮技術の粋を凝らして撮影した9分間の短編映画です。

【11】半世紀以上の時間をかけて積み重ねられ、伝えられてきた技術を惜しみなく投入したその映像は、特撮ファンの僕のひいき目を差し引いても、最新のコンピューター・グラフィックス技術を駆使したハリウッド映画と比べても遜色がないように見えました。

【12】その日、巨神兵のフィギュアと図録を買い込んで帰路についた僕たちは、氷イチゴを食べました。まだ午後の早い時間だったけれど、いい一日だったと思いました。すばらしい展示だったし、すばらしい映画だっ

【13】でも・・・・崩れ落ちそうになる氷の山をストローでつつきながら、同行した友人が遠慮がちに述べたのです。「展示も映画も素晴らしい。あの映画の映像で用いられていたミニチュア特撮もすごい職人芸だと思う。しかし上上映会直後後、 ② 隣に座ってた中学生くらいの女の子が『CGみたいですごいね』と感想を漏らしたのを聞いたか」と。

〔  3  〕

【14】『巨神兵東京に現わる』を観ると、そこに描かれた20世紀後半的(冷戦期的)な終末観がすでに過去のものでしかないことを痛感させられます。︎映像に添えられた舞城王太郎の「詩」を、林原めぐみが読み上げることで語られる終末観(ある日、空から巨大なもの=核兵器が降ってきて、世界が一瞬で終わる)にせよ、スタッフたちがメイキングで語る「こんな時代だからこそミニチュア特撮を」という自意識=アイロニーにせよ、すべてノスタルジーとしてしか機能しないことを改めて思い知らされてしまいます。

〔  4  〕

【15】福島の原子力発電所の問題ひとつとっても、それは明らかでしょう。人類の傲慢=〔 C 〕が僕たちの世界を変えるとき、それはかつて冷戦時代に夢想された核戦争のように一瞬ですべてをリセットするのではなく、何十年もの時間をかけてゆっくりと、蝕むように少しずつ日常の中から僕らの世界的変えていきます。あるいはどれほど作中で「いま」の東京をミニチュアで再現し、シナリオに携帯電話の出てくるシーンを組み込んだとしても、その一方で電柱や東京タワーといった「昭和」的アイコンの力を借りなければ彼らは表現を構築できません。

〔  5  〕

【16】この映画はコンセンプチュアルであるがゆえに、20世紀後半的(冷戦期的)な世界観/終末観と、ミニチュア特撮の育んできた③ アイロニカルな想像力では(物語的にも手法的にも)現代を描くことができないことを決定的に告白してしまっています。怪獣映画もミニチュア特撮も戦後的アイロニーも、20世紀後半的(冷戦期的)な終末観も、すべて過去のもので、もはや④ ノスタルジィしかもたらしません。だからこそ、これらは博物館で展示されるものに相応しいのです。そこには過去しかありません。よって今やそれらは誰も傷つけません。安全な表現だからです。冷戦下に育まれた「世界の終わり」のイメージ、そして戦後的想像力はいよいよ「終わり」を迎えてしまったのだ、と僕は確信しました。とくに「あの日」からは。(宇野常寛『日本文化の論点』より)

 

ーーーーーーーー

 

(設問)

 

問1 次の段落が入る位置として最適な箇所を空欄1~5の中から一つ選べ。

 すなわち、冷戦が終結し、戦後的な社会構造がゆるやかに解体されてゆく中で、戦後的な政治性に強くその精神性を依存していたミニチュア特撮は、技術的にも物語的にも衰微していくことになったわけです。そして、その衰微があったからこそ、これらの文化の「遺産」は博物館に収められることになった、と言えるでしょう。

 

問2 空欄A~Cに入る言葉として最適なものを、次の中から一つ選べ。

A  1 空襲  2 軍隊  3 戦争  4 破壊  5 侵略

B  1 ヒーロー  2 特撮  3 ミニチュア  4 こども番組  5 傷跡

C  1 怪獣ゴジラ  2 核兵器  3 核実験  4 核の力  5 原爆

 

問3 傍線部①「大文字の「『政治」』性」という表現の説明として適切でないものを、次の中から一つ選べ。

1  戦後日本の精神史を代表するもの

2  20世紀の表舞台で活躍した装置

3  自分たちが侵略者だったという歴史の呪縛

4  おそれや憧れの対象となる強大なもの

5  戦後的な社会構造を構築してきたもの

 

問4 傍線部②「隣に座ってた中学生くらいの女の子が『CGみたいですごいね』と感想を漏らしたのを聞いたか」という友人の発言は何を意味しているか。その説明として最適なものを、次の中から一つ選べ。

1  中学生の言葉から、ミニチュア特撮技術を結集して撮影した映像が、最新のCG技術を駆使したハリウッド映画と比べても遜色がないほど優れていることが確認できてうれしい。

2  中学生の言葉から、精巧なミニチュアで作られた町や山や海を舞台に、怪獣やヒーローやスーパーマシンたちが活躍する特撮は今なお、見る者をワクワクさせていることが分かる。

3 『巨神兵東京に現わる』を現在のCGになぞらえる中学生の言葉は、どんなに優れた映像でも、ミニチュア特撮がすでに過去のものでしかないことを物語っている。

4 『巨神兵東京に現わる』は「いま」の東京を再現した優れた映像だとしても、中学生の言葉は、ミニチュア特撮のリアリティがCGに及ばないことを示している。

5  宮崎駿の映画/漫画に登場する「巨神兵」が現代の東京に襲来し、街々を一瞬で破壊するテーマは、本来アニメやCGに相応しいことを、中学生の発言は明らかにしている。

 

問5 傍線部③「アイロニカルな想像力」と同じ意味で用いられている言葉として最適なものを、次の中から一つ選べ。

1  おそれと憧れが複雑に入り混じった感情

2  戦後的政治性の呪縛からの解放

3  舞城王太郎の「詩」が語る終末観

4  スタッフたちがメイキングで語る自意識

5  一瞬ですべてをリセットするという夢想

 

問6 傍線部④「ノスタルジィ」の例として挙げられている文中の語句として適切でないものを、次の中から一つ選べ。

1  巨大なもの(怪獣など)による都市破壊

2『仮面ライダー』シリーズや『スーパー戦隊』シリーズ

3  ある日、空から巨大なもの=核兵器が降ってきて、世界が一瞬で終わるという終末観

4  「こんな時代だからこそミニチュア特撮を」という自意識

5  電柱や東京タワーといった「昭和」的アイコン

 

問7 本文の内容と一致するものを、次の中から二つ選べ。

1  怪獣やヒーローやスパーマシンたちが活躍し、見る者をワクワクさせてきたミニチュア特撮は、デジタル技術の発展とともに形を変え、その価値を見直す岐路に立たされている。

2  ミニチュア特撮は見る者の多くをワクワクさせてきたが、過去のものとなりつつある。それは、アイドルグループの握手会が未来に向けて期待を感じさせるのと対照的である。

3  ミニチュア特撮は戦後的政治性を孕んできたが、『仮面ライダー』シリーズや『スパー戦隊』シリーズなどの等身大ヒーローに淘汰されて、その役割を果たせなくなった。

4  ハリウッド映画と比べても遜色がない『巨神兵東京に現わる』は、ノスタルジィにほかならないが、同時にミニチュア特撮がこれから生き残っていく可能性の方向を示唆している。

5  アメリカの核実験によって怪獣に変異したゴジラが東京の街々を破壊する恐怖は、まったく現代的なものに姿を変え、福島原発事故の恐怖として今日の社会に甦った。

6  ミニチュア特撮が繰り返し描いてきた都市破壊や世界の終わりは、戦後的政治性の呪縛を内包していたが、最終的には誰も傷つけない安全な表現になってしまった。

7  地震と原発事故の「あの日」があったことによって、徹底的な都市破壊といった「世界の終わり」を繰り返し描いてきたミニチュア特撮は「終わり」を迎えてしまった。

 

ーーーーーーー

 

(解説・解答)

問1 (脱文挿入問題) 

→本文を読む前に、脱文のポイントをチェックするべきです。

 「脱文」冒頭の、「言い換え」の接続語「すなわち」に注目してください。
 つまり、以下の文脈に着目する必要があります。

直前の【9】段落「そして、映画の代替物として発展した戦後怪獣映画は、戦後社会の変化とともにゆるやかに終焉していきました。それは奇しくもミニチュア特撮という文化の勃興と衰退の歴史に重なります。」


【脱文】「すなわち、冷戦が終結し、戦後的な社会構造がゆるやかに解体されてゆく中で、戦後的な政治性に強くその精神性を依存していた。ニチュア特撮は、技術的にも物語的にも衰微していくことになったわけです。」

 

 次に、「脱文」後半部の
「その衰微があったからこそ、これら(→「ミニチュア特撮」)の文化の「遺産」は博物館に収められることになった、と言えるでしょう。」

直後の【10】段落「展示のクライマックスは、庵野秀明と樋口真嗣による短編映画『巨神兵東京に現わる』でした。宮崎駿の映画/漫画『風の谷のナウシカ』に登場する巨大人型兵器「巨神兵」が現代の東京に襲来し、街々を一瞬で灰塵(かいじん)に帰するその過程を、今失われつつあるミニチュア特撮技術の粋を凝らして撮影した9分間の短編映画です。」

(解答)2

 

問2 (空欄補充問題)

 →すぐに、選択肢をチェックしてください。

A 【6】段落の「国家による暴力ーーつまり、戦争による社会破壊」、空欄直前の「20世紀という『戦争の世紀』の表舞台で活躍した」、「国民国家による暴力装置=」に注目して2の「軍隊」を選択してください。 

B   空欄直前の「怪獣映画やウルトラマン」、「戦争映画のアイロニカルな代替物=」に着目してください。

C   空欄直前の「原子力発電所」の問題ひとつとっても」、空欄直後の「核戦争」、「人類の傲慢」に注意して、4の「核の力」を選択してください。

(解答)A=2 B=3 C=4

 

問3 (傍線部説明問題)

 傍線部直前の「国家や軍隊といった」に注目して、「適切でないもの」を選択してください。

(解答)1

 

問4 (傍線部説明問題)

「展示も映画も素晴らしい。あの映画の映像で用いられていたミニチュア特撮もすごい職人芸だと思う。しかし上映直後、②隣に座ってた中学生くらいの女の子が『CGみたいですごいね』と感想を漏らしたのを聞いたか」の文脈に注意するべきです。

 「しかし」以下には、「ミニチュア特撮」をマイナス評価するニュアンスの表現が来るはずです。

 本文における、「ミニチュア特撮をマイナス評価する記述」に注目すると、以下のものが挙げられます。

【9】段落「そして、映画の代替物として発展した戦後怪獣映画は、戦後社会の変化とともにゆるやかに終焉していきました。それは奇しくもミニチュア特撮という文化の勃興と衰退の歴史に重なります。」

【10】段落「展示のクライマックスは、庵野秀明と樋口真嗣による短編映画『巨神兵東京に現わる』でした。宮崎駿の映画/漫画『風の谷のナウシカ』に登場する巨大人型兵器「巨神兵」が現代の東京に襲来し、街々を一瞬で灰塵(かいじん)に帰するその過程を、今失われつつあるミニチュア特撮技術の粋を凝らして撮影した9分間の短編映画です。」

【16】段落「怪獣映画もミニチュア特撮も戦後的アイロニーも、すべて過去のもので、もはや④ ノスタルジィしかもたらしません。だからこそ、これらは博物館で展示されるものに相応しいのです。そこには過去しかありません。」

 以上の文脈に着目してください。

(解答)3

 

問5(傍線部説明問題)

 傍線部直前の「ミニチュア特撮の育んできた」に着目したうえで、

【8】段落「20世紀という『戦争の世紀』の表舞台で活躍した、国民国家による暴力装置=〔A=軍隊]へのおそれと憧れが複雑に入り混じった感情が、子ども番組という不自由な枠組みに軟着陸したときに生まれた奇形的な想像力ーーそれが戦後日本のミニチュア特撮の本質です。」のポイントを読み取ってください。

(解答)1

 

問6(傍線部説明問題)

 傍線部を含む一文より、「ノスタルジィ」の対象は、

「怪獣映画」・「ミニチュア特撮」・「戦後的アイロニー」・「20世紀後半的(冷戦期的)な終末観」であることは明らかです。

 そして、

【9】段落の「これらの番組(→「『仮面ライダー』シリーズや『スーパー戦隊』シリーズ」) においてはいわゆる「殺陣(たて)」を中心としたアクションが中核にあり、ミニチュア特撮は補助的な要素でしかありません。物語的にも1970年代の勃興期から、怪獣映画や『ウルトラ』シリーズが否応なく孕(はら)んでいた戦後的政治性の呪縛から解放された、自由で政治性の希薄な、痛快娯楽劇が展開されることが多かったのです。」という記述から、2(「『仮面ライダー』シリーズや『スーパー戦隊』シリーズ」)が不適切です。

(解答)2

 

問7(趣旨合致問題) 

→本文を読む前に、設問のポイントをチェックすることにより、効率的に処理することができます。

 

1【1】段落(「館長 庵野秀明 特撮博物館」東京都現代美術館公式ホームページより」)の文章なので、不一致です。

2  全体の文脈に合致しています。

3  「『仮面ライダー』シリーズや『スパー戦隊』シリーズなどの等身大ヒーローに淘汰されて、その役割を果たせなくなった。」の部分が誤りです。本文に、このような記述はありません。

4  「同時にミニチュア特撮がこれから生き残っていく可能性の方向を示唆している。」の部分が誤りです。

5  本文には、このような記述はありません。

6【16】段落より合致しています。

7【16】段落の最終の二文より、誤りです。

(解答)2・6

 

ーーーーーーーー

 

(3)本問のポイントの解説→「宇野氏の問題意識」の解説

 

 本問の重要段落は、【14】・【15】・【16】段落です。

 以下に、各段落のポイントを再掲します。

 

【14】段落「『巨神兵東京に現わる』を観ると、そこに描かれた20世紀後半的(冷戦期的)な終末観がすでに過去のものでしかないことを痛感させられます。︎映像に添えられた舞城王太郎の「詩」を、林原めぐみが読み上げることで語られる終末観(ある日、空から巨大なもの=核兵器が降ってきて、世界が一瞬で終わる)にせよ、スタッフたちがメイキングで語る「こんな時代だからこそミニチュア特撮を」という自意識=アイロニーにせよ、すべてノスタルジーとしてしか機能しないことを改めて思い知らされてしまいます。」

【16】段落「この映画はコンセンプチュアルであるがゆえに、20世紀後半的(冷戦期的)な世界観/終末観と、ミニチュア特撮の育んできた③ アイロニカルな想像力では(物語的にも手法的にも)現代を描くことができないことを決定的に告白してしまっています。怪獣映画もミニチュア特撮も戦後的アイロニーも、20世紀後半的(冷戦期的)な終末観も、すべて過去のもので、もはや④ ノスタルジィしかもたらしません。だからこそ、これらは博物館で展示されるものに相応しいのです。そこには過去しかありません。よって今やそれらは誰も傷つけません。安全な表現だからです。冷戦下に育まれた「世界の終わり」のイメージ、そして戦後的想像力はいよいよ「終わり」を迎えてしまったのだ、と僕は確信しました。とくに「あの日」からは。

【15】段落「福島の原子力発電所の問題ひとつとっても、それは明らかでしょう。人類の傲慢=〔C=核の力〕が僕たちの世界を変えるとき、それはかつて冷戦時代に夢想された核戦争のように一瞬ですべてをリセットするのではなく、何十年もの時間をかけてゆっくりと、蝕むように少しずつ日常の中から僕らの世界的変えていきます。」

 

 これらのポイントは、問5・問6・問7に関連しています。

 今回の入試問題の作成者は、宇野氏の意図を見事に読み取っているようです。難関大学の入試問題をチェックすると、その読解の正確さに感心することが多いのです。この点から、私は、入試問題演習の重要性を力説しています。

 模擬試験は、サラッと復習するだけにしてください。

 

「東日本大震災」・「福島原発事故」と「世界観」・「終末観」の密接な関係性について、宇野氏は、他の本で以下のような重要な指摘をしています。

 入試頻出論点なので、熟読してください。

「『風の谷のナウシカ』『北斗の拳』ーーたしかにこの国の物語的想像力は、豊かで平和な消費社会を終わらせる決定的な非日常を『最終(核)戦争後の未来』への願望というかたちで表現してきた。かつて存在した東西冷戦を背景に、『終わりなき日常』を断絶させる力の象徴として『核』というイメージは機能してきたのだ。」(『リトル・ピープルの時代』)

 

 上記は、「これまでの核のイメージ」についての記述です。これまでは、「核」は、「核=核戦争=最終戦争」というイメージで機能してきたのです。このイメージは、今なお、人々の心に強く根を張っているはずです。

 しかし、福島原発事故以降、「核の力」について、新たなイメージが発生してきていることが、問題なのです。このことに関して、宇野氏は、以下のように、鋭い指摘をしています。

それ(原発)は人間が生み出したものでありながら、今や人間のコントロールを離れ、私たちの生活世界を内部から蝕み始めている。私たちのすぐそばに、生活空間の〈内側〉にありながらも、もはや誰にも制御できないものがある。おそらくは私たちの無意識に刷り込まれていくであろうこの感覚が、どんな想像力を生むのか。文化批評の担い手としての私の関心はこの一点にあると言っていい。」(『リトル・ピープルの時代』)

 

 上記の最後の二文は、「これからも福島原発事故の影響を注視し、考え続けていく、それこそが私のライフワークである」とする、宇野氏の批評家としての、高らかな宣言と言うべきものです。このような宣言をする批評家が日本にいるということは、日本の誇りであり、救いです。

 確かに、福島原発事故以降、何やら薄気味の悪い雰囲気が日常を覆ってきています。その雰囲気は、終末観・死の匂いを漂わせています。原子力発電所を、昔のように見ることは、できなくなっているのです。

 良き小説・評論は、「私たちに、物事や人生の本質を気付かせてくれる」と言われていますが、上記の論考を読むと、そのことを実感します。

 

 以下の宇野氏の見解も、なかなかの内容です。

「『Show must go on』という副題が添えられたこの映画のコンセプトは、単純かつ明快だ。それは震災(及びそれに伴って発生した原子力発電所事故)を AKB48 それ自体(→「AKB48現象」は、現代文明論・消費社会論・現代文化論・日本文化論・日本人論・現代若者論として、軽視できない現象です。特に、宇野氏の論考においては、重要な論点になっています)と重ね合わせること、だ。共にもはや人間の手では制御できないもの、もはやコントロール不可能な圧倒的かつ自律的な存在として両者を重ね合わせること、それだけだ。」(『原子爆弾とジョーカーなき世界』)

「この映画が、そしてAKB48という存在が体現する肯定性は、あるいは被災地に響く『ヘビーローテーション』のもつ肯定性は、そんな制御不可能なものを受け入れた上ではじめて成立する。それはたぶん、目に見えない力が少しずつ浸食していくことで変化していくあたらしい世界を受け入れることを意味するだろう。」(『原子爆弾とジョーカーなき世界』) 

 

 最新刊の 『母性のディストピア』発刊に際しての、宇野氏の発言も深い考察で、味わいがあります。熟読してください。

 「かつての敗戦が1945年8月の前と後ですっぱりとこの国を書き換えたのに対して、この震災は決定的な変化を社会にもたらすことはないが、しかしその前後では確実に変化が起こっている、といった奇妙な状態を僕たちにもたらしています。長く続く余震や、長期化する被災地復興、特にその処理に数十年を要する原発事故の性質もあり、日常の中に非日常的なものがランダムに現れるような感覚が常態化しています。」(宇野常寛書き下ろし『「母性のディストピア2.0」へのメモ書き』第1回:「リトル・ピープルの時代」から「母性のディストピア2.0」へ  ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆2015.1.6 vol.234)

 

 「非日常的なもの」、しかも、「致命的なそれ」が「日常」に混在していることの真の意味。このことを考えると、宇野氏の問題意識の重さが理解できるはずです。

 宇野氏は、これからも、注目するべき評論家の一人でしょう。

 

(4)宇野常寛氏の紹介

 

宇野常寛(うの つねひろ)

評論家。1978年生。批評誌〈PLANETS〉編集長。

 

著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、

『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、

『日本文化の論点』(筑摩書房)、

石破茂との対談『こんな日本をつくりたい』(太田出版)、

『静かなる革命へのブループリント この国の未来をつくる7つの対話』(河出書房新社)、

『母性のディストピア』(集英社)など多数。

 

企画・編集参加に「思想地図 vol.4」(NHK出版)、

「朝日ジャーナル 日本破壊計画」(朝日新聞出版)など。

 

京都精華大学ポップカルチャー学部非常勤講師、立教大学兼任講師など、その活動は多岐に渡る。

 

(5)当ブログの「東日本大震災・福島原発事故」関連記事の紹介

 

 「東日本大震災・福島原発事故」関連の論点は、流行論点・頻出論点です。

 

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(6)当ブログの最近の「予想問題」記事の紹介

 

 各記事は、約1万字です。じっくり、取り組んでください。

 

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ーーーーーーーー

 

今回の記事は、これで終わりです。

次回の記事は、約1週間後に発表の予定です。

ご期待ください。

 

    

 

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日本文化の論点 (ちくま新書)

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原子爆弾とジョーカーなき世界 (ダ・ヴィンチブックス)

原子爆弾とジョーカーなき世界 (ダ・ヴィンチブックス)

 

 

母性のディストピア

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頻出難関私大の現代文 (αプラス入試突破)

頻出難関私大の現代文 (αプラス入試突破)

 

 

5週間入試突破問題集頻出私大の現代文―30日間スーパーゼミ (アルファプラス)

5週間入試突破問題集頻出私大の現代文―30日間スーパーゼミ (アルファプラス)

 

 

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