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現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

予想論点ー労働観・自己・『人はなぜ働かなくてはならないのか』

小浜逸郎 『人はなぜ働かなくてはならないのか』 労働問題 雇用問題 自己 自我 アイデンティティ 関係性 人間関係 労働の意義 労働観 近代的労働観 長時間労働 過労 労働の本質 入試頻出著者 小論文対策 個人主義 IT化社会 IT化社会の影・闇 孤立感 個性尊重 「個性崇拝」批判 人生 職業 小論文 2003早稲田大学教育学部国語解説 2003早稲田大学教育学部現代文解説 早大教育学部現代文解説 早大現代文解説 早大現代文 早大教育現代文

最近、様々な労働問題・雇用問題が注目されています。そこで、入試現代文(国語)・小論文予想論点として、「労働の意義」・「労働観」について解説します。

 

 (1)なぜ、この記事を書くのか?

 

 かつて、日本は先進国でも低失業率を誇ってきましたが、最近では、経済のグローバル化、不景気、デフレ経済を背景にして、雇用環境・労働環境は著しく悪化しています。
 その中でも、若者の雇用が厳しさを増しています。 フリーターやニート(無業者)の増加も、若者の労働の意欲の弱体化というよりも、正社員として安定的に働ける機会が減少したことの影響が大きいのでしょう。
 また、2000年代に入ってからは、特に、苛酷な「長時間労働」や「過労」が社会問題化しています。

 このように、様々な労働問題が注目されている時期には、「労働の本質」を問われる問題が、よく出題されます。

 そこで、今回は、現代文(国語)・小論文対策として、「労働観」・「労働の意義」について解説することにします。

 

 

 (2)『人はなぜ働かなくてはならないのか』(小浜逸郎)を解説する理由

 

 小浜逸郎氏が入試頻出著者であり、『人はなぜ働かなくてはならないのか』が入試頻出出典であり、「近代的労働観」について、分かりやすく説明しているからです。

 また、本書が「アイデンティティ」・「自己」に関する重要論点について、分かりやすい解説が、なされているからです。

 

 ここで、小浜逸郎の紹介をします。

小浜 逸郎(こはま いつお、1947年4月15日生まれ)は日本の評論家。国士舘大学客員教授。

 

 主な著書は、以下の通りです。主な出題校を付記します。

『大人への条件』(ちくま新書)、

『なぜ人を殺してはいけないのか-新しい倫理学のために』 (洋泉社、新書y)・(のちPHP文庫)→2008愛媛大学

『人はなぜ働かなくてはならないのか 新しい生の哲学のために』(洋泉社、新書y)→2003早稲田大学教育学部、2007山口大学

『エロス身体論』(平凡社新書)→2009早稲田大学スポーツ科学部

『「責任」はだれにあるのか』(PHP新書)、 

『言葉はなぜ通じないのか』(PHP新書)→2008岡山大学、2010明治大学政経学部

『人はひとりで生きていけるか 「大衆個人主義」の時代』(PHP研究所)、

『日本の七大思想家 丸山眞男/吉本隆明/時枝誠記/大森荘蔵/小林秀雄/和辻哲郎/福澤諭吉』(幻冬舎新書)

 

 人はなぜ働かなくてはならないのか―新しい生の哲学のために (新書y)

 

 

 

 

 

(3)2003早稲田大学教育学部・『人はなぜ働かなくてはならないのか』(小浜逸郎)の解説

 

 

(問題文本文)(概要です)

(青字は当ブログによる注です)

【1】労働が私たちの社会的な存在のあり方そのものによって根源的に規定されてあるということには、三つの意味が含まれている。一つは、私たちの労働による生産物やサービス行動が、単に私たち自身に向かって投与されたものではなく、同時に必ず、「だれか他の人のためのもの」という規定を帯びることである。 


【2】自分のためだけの労働もあるのではないか、という反論があるかもしれない。なるほど、ロビンソン・クルーソー的な一人の孤立した個人の自給自足的労働を極限として思い浮かべるならば、どんな他者のためという規定も帯びない生産物やサービス活動を想定することは可能である。じっさい、私たちの文明生活においても、〔 1 〕など、部分的にはこのような自分の身体の維持のみに当てられたとしか考えられない労働が存在しうる。 

 

…………………………… 

 

(設問)

問1 空欄1に当てはまる最適なものを次の中から選べ。

ア  ボランティア活動への参加

イ  夫婦二人からなる共同生活

ウ  身近な存在への看護や介護

エ  一人暮しにおける家事活動

オ  インターネットによる学習

 

……………………………

 

(解説・解答)

 すぐに選択肢を見てください。まず、自分で、記述式問題を解く感じで解答を作り、それから選択肢を見るという、手間のかかる不思議な解法があるようですが、すぐに選択肢を見る方が効率的です。

 次に、消去法を積極的に活用してください。難関大学入試においては、消去法を活用しなければ、高得点は取れません。

 

 空欄直後の「部分的にはこのような自分の身体の維持のみに当てられたとしか考えられない労働」に注目するとよいでしょう。

 ア・イ・ウでは、「自分」以外が加わるので、誤りです。

 オは、全くの論点ズレです。

 正解は、エです。

 

 ーーーーーーーー 

 

  (問題文本文)(概要です)

【3】しかし、そのようにして維持された自分の身体は、ほとんどの場合、今度はそれ自身が他の外的な活動のために使用されることになる。また自分自身を直接に養う労働行為といえども、そこにはそれをなし得る一定の能力と技術が不可欠であり、それらを私たちは、ロビンソン・クルーソー的な孤立に至るまでの生涯のどこかで、「人間一般」に施しうるものとして習い覚えたのである。自分自身を直接に養う労働行為において、私たちは、「未来の自分」「いまだ自分ではない自分」を再生産するためにそれを行うのであるから、いわば、自分を「他者」であるかのように見なすことによってそれを実行しているのだ。2 自分一人のために技巧を凝らした料理を作ってみても、どこかむなしい感じがつきまとうのはそのゆえである。 

 

 ……………………………

 

 (設問)

問2  傍線部2とは、どういうことか。最適なものを次の中から選べ。

ア  自分一人のために自身で作る料理は、料理をするという社会的行為と、それを食べるという生命維持のための行為が同一人物のなかで行われるために、その技巧についての判断が不能になり、自分が「他者」であるという錯覚に陥ってしまうということ。

 

イ  自分一人のために自身で作る料理は、それをなし得る一定の能力と技術が必要となるために、人生において事前に学習や修練が不可欠になり、その成果として料理がとらえられてしまうので、味わうことに集中できないということ。

 

ウ  自分一人のために自身で作る料理は、自分自身を直接に養う労働行為であり、自己の料理に対する技能についていちばんよく承知している本人としては、ことさらに技巧を凝らすことに対して無意味さを感じるということ。

 

エ  自分一人のために自身で作る料理は、人間のみが可能に文明の産物であり、単なる生命維持のための行為ではなく、社会的な労働行為への端緒となるので、そこに必要以上の技巧が凝らされると「本来の自分」がおおい隠されてしまうということ。

 

オ  自分一人のために自身で作る料理は、自己を「他者」と見なして行われるが、労働行為の主体とその生産物の受益者が完全に一致しているので、技巧を凝らしても新たな価値を見出し得ないということ。

 

…………………………… 

 

(解説・解答)

 この問題でも、すでに選択肢を見てください。。

 傍線部の「どことなくむなしい感じ」とは、「どんな料理を作っても、やりがいがない」ということです。

ア  「自分が『他者』であるという錯覚に陥ってしまう」の部分が誤りです。

イ 全くの論点ズレです。

ウ  「ことさらに技巧を凝らすことに対して無意味さを感じるということ」の部分が誤りです。

エ    「『本来の自分』がおおい隠されてしまうということ」の部分が誤りです。

 本文の文脈に沿って、傍線部の「どことなくむなしい感じがつきまとう」の説明をしています。

 

 正解は、オです。

 

 ーーーーーーーー

 

  (問題文本文)(概要です)

【4】さらに、私たちは、資本主義的な分業と交換と流通の体制、つまり商品経済の体制のなかで生きているという条件を取り払って、たとえば原始人は、閉ざされた自給自足体制をとっていたという「純粋モデル」を思い描きがちである。だが、いかなる小さな孤立した原始的共同体といえども、その内部においては、ある一人の労働行為は、常に同時にその他の成員一般のためという規定を帯びていたのである。つまり、ある一人の労働行為は、彼が属する社会のなかでの一定の役割を担うという意味から自由ではあり得なかった。 


【5】労働の意義が、人間の社会存在的本質に宿っているということの第二の意味は、そもそもある労働が可能となるために、人は、他人の生産物やサービスを必要とするという点である。これもまた、いかなる原始共同体でも変わらない。一見一人で労働する場合にも、その労働技術やそれに用いる道具や資材などから、他人の生産物やサービス活動の関与を排除することは難しい。すっかり排除してしまったら、3 猿が木に登って木の実を採取する以上の大したことはできないであろう。 

 

 ……………………………

 

(設問) 

問3 傍線部3とは、どういうことか。最適なものを次の中から選べ。

ア  どんな他者のためという規定も帯びない、独立したサービス活動を行うこと。

イ  人手を借りず、道具も使わないで自分の身体のみを用いて活動すること。

ウ  孤立した原始共同体の構成員として、自給自足の生活に徹すること。

エ  資本主義的な分業と交換と流通の体制の中で、限定された単純作業を行うこと。

オ  社会的な人間関係から隔絶し、いかなる人からも認識・評価されないこと。

 

 …………………………… 

 

(解説・解答)

「猿」が本文で、どのような文脈で使われているかを考えてください。

ア 「独立したサービス活動」の部分が誤りです。

イ    傍線部の直前の文脈に沿っています。

ウ  「孤立した原始共同体の構成員」の部分が誤りです。

エ    全体が誤りです。

オ    「いかなる人からも認識・評価されない」の部分が誤りです。

 

正解は、イです。

 

ーーーーーーーー

 

 (問題文本文)(概要です)
【6】そして第三の意味は、労働こそまさに、社会的な人間関係それ自体を形成する基礎的な媒介になっているという事実である。労働は人間〔  X  〕の、〔  Y  〕を介してのモノや行動への外化・表出形態の一つであるから、それははじめから〔  Z  〕的な行為であり、他者への呼びかけという根源的な動機を潜ませている。 

 

…………………………… 

 

(設問) 

問4 空欄X・Y・Zに当てはめる言葉として最適なものを次の中から選べ。

ア  X 存在  Y 言語  Z 個別

イ  X 精神  Y 身体  Z 関係

ウ  X 世界  Y 疎外  Z 中心

エ  X 関係  Y 精神  Z 身体

オ  X 中心  Y 世界  Z 疎外

カ  X 個別  Y 存在  Z 言語

 

……………………………

 

(解説・解答)

 直前の「労働こそまさに、社会的な人間〔X〕関係それ自体を形成する基礎的な媒介になっているという事実」、直後の「他者への呼びかけという根源的な動機を潜ませている」という記述より、Zに、イの「関係」が入ることが分かります。

  「人間〔X〕」から、Xに、イの「精神」が入ることが分かります。

 

 正解は、イです。

 

ーーーーーーーー

 

 (問題文本文)(概要です)
【7】人はそれぞれの置かれた条件を踏まえて、それぞれの部署で自らの労働行為を社会に向かって投与するが、それらの諸労働は、およそ、ある複数の人間行為の統合への見通しと目的とを持たずにばらばらに存在するということはあり得ず、4 だれかのそれへの気づきと関与と参入とをはじめから「当てにしている」。そしてできあがった生産物や一定のサービス活動が、だれか他人によって所有されたり消費されたりすることもまた「当てにしている」。そこには、労働行為というものが、社会的な共同性全体の連鎖的関係を通してその意味と本質を受け取るという原理が貫かれている。労働は、一人の人間が社会的人格としてのアイデンティティを承認されるための、必須条件なのである。 

(小浜逸郎「人間はなぜ働かなくてはならないのか」)

 

……………………………

 

 (設問)

問5 傍線部4「だれかのそれへの気づきと関与と参入をはじめから『当てにしている』」とは、どういうことか。最適なものを一つ選べ。

ア  労働とは、個人的行為ではなく、他者の働きかけでどのようにも変質し得る他者依存型の行為であるということ。

イ  労働とは、それを行う者と享受する者とがその価値と目的を認め合い共有することによって、はじめて有益なものとなる行為となるということ。

 ウ  労働とは、ともすると社会的行為と理解されやすいが、実はつねに他者の行為を当てにしている利己的行為であるということ。

エ  労働とは、自己と他者という社会性の中で発生してきたものであるので、他者の関わりを想定しない労働はあり得ないということ。

オ  労働とは、他者への呼びかけという本質を持つ行為であり、呼びかける対象のない労働は無意味な行為になるということ。

 

 問6 本文の内容と合致するものを、次の中から二つ選べ。

ア  自身を維持するための労働は、社会的な評価にさらされることを免れる場合が多いために、外界に働きかけるものに比べて惰性に陥りがちである。

イ  労働とは本来、他人の生産物やサービスを前提にしているものであり、自己の働きかけは常に他者の働きかけと結びついている。

ウ  資本主義的な分業と交換と流通の体制にあっては、労働の成果が他人の手に落ちるあり方は、必ずしも一定していないので平等にすべきである。

エ  労働とは、必ずしも人間行為の統合への見通しと目的をもって行われるものではなく、いかなる場合でも他人との協業や分業のあり方が前提になっていない。

オ  労働とは、人間精神の表れであり、たとえそれが自己に向けられたものであっても社会的な行為と関係することを免れない。

 

 ……………………………

 

 (解説・解答)

問5

「だれかのそれへの気づきと関与と参入とをはじめから『当てにしている』」とは、「他者を意識している」ということです。

ア  「他者依存型の行為である」の部分が、誤りです。

イ  「それを行う者と享受する者とがその価値と目的を認め合い共有することによって、はじめて有益なものとなる行為となる」という限定的な解釈は、本文とズレています。

ウ    全体的に論点ズレで、誤りです。

エ    この選択肢が正解です。

オ    全体的に論点ズレで、誤りです。

 

 正解は、エです。

 

問6

→問題文本文を読む前に、この「趣旨合致問題」を見ておくと、効率的です。

ア  「惰性に陥りがちである」という表現は、本文にありません。

イ【4】段落に合致しています。→正解です。

ウ  「労働の成果が他人の手に落ちるあり方は、必ずしも一定していないので平等にすべきである」の部分が誤りです。

エ   全体として、「本文の内容」に反しています。

オ   本文の内容に合致しています。→正解です。この選択肢は問4と関連していることに注意してください。

→入試本番では、よく、あることです。

→難関・国公立・私立大学の入試問題においては、本文のキーポイントを、表から、裏から、斜めから、何度も聞いてくるのです。この点は、模擬試験と大きく違う所です。大学の優秀な教員は、時間をかけて問題文本文をじっくり読むことで、本文のキーポイントを見抜くことができます。そして、自信をもって、大胆に何度でも、受験生に、そのポイントを理解できているかを聞いてくるのです。私が今まで見た中で、一番すごかったのは、一橋大学です。一つのポイントを4回(しかも、全て記述式で!)聞いてきたことがありますした。

→本問のキーポイントについては、この後に、すぐ解説します。

 

 正解は、イ・エです。

 

ーーーーーーーー

 

(4)本問・本文の要約

 

 労働が私たちの社会的な存在のあり方そのものによって根源的に規定されてあるということには、三つの意味が含まれている。

 一つは、私たちの労働による生産物やサービス行動が、単に私たち自身に向かって投与されたものではなく、同時に必ず、「だれか他の人のためのもの」という規定を帯びることである。

 労働の意義が、人間の社会存在的本質に宿っているということの第二の意味は、そもそもある労働が可能となるためには、人は、他人の生産物やサービスを必要とするという点である。

 そして、第三の意味は、労働こそまささに、社会的な人間関係それ自体を形成する基礎的な媒体になっているという事実である。

 労働は、一人の人間が社会的人格としてのアイデンティティを承認されるための、必須条件なのである。

 

 

 (5)本問のキーポイント・論点の解説

 

 本問で重要なのは、問4・問6です。

 まず、問題4・問6に関連する本文を、ポイントをしぼって再掲します。

【6】そして第三の意味は、労働こそまさに、社会的な人間関係それ自体を形成する基礎的な媒介になっているという事実である。労働は人間〔  X=精神  〕の、〔  Y=身体  〕を介してのモノや行動への外化・表出形態の一つであるから、それははじめから〔  Z=関係  〕的な行為であり、他者への呼びかけという根源的な動機を潜ませている。 

 

【7】人はそれぞれの置かれた条件を踏まえて、それぞれの部署で自らの労働行為を社会に向かって投与するが、それらの諸労働は、およそ、4  だれかのそれへの気づきと関与と参入とをはじめから「当てにしている」。そしてできあがった生産物や一定のサービス活動が、だれか他人によって所有されたり消費されたりすることもまた「当てにしている」。そこには、労働行為というものが、社会的な共同性全体の連鎖的関係を通してその意味と本質を受け取るという原理が貫かれている。労働は、一人の人間が社会的人格としてのアイデンティティを承認されるための、必須条件なのである。 

 

 この二つの段落が、ほぼ同じ内容を強調していることを、確認してください。

 さらに、分かりやすくするために、キーセンテンスだけを抜き書きすると、以下のようになります。

 

労働こそまさに、それははじめから〔 Z=関係 〕的な行為であり、他者への呼びかけという根源的な動機を潜ませている。 

それらの諸労働は、だれかのそれへの気づきと関与と参入とをはじめから「当てにしている」。

労働は、一人の人間が社会的人格としてのアイデンティティを承認されるための、必須条件なのである。 

 

 つまり、「人間が自分のアイデンティティを承認されるためには、労働が必須条件、言い換えれば、必要条件だ」と言うことです。

 「労働」は、賃金を得るためだけのものではないのです。

 自分の、人間としての「アイデンティティ」を他者に承認してもらうために、あるのです。

 逆に言えば、自分の「アイデンティティ」を、他者に承認され、尊重されるためには、自分の労働を丁寧に遂行する必要がある、ということになります。

 

 この論理は、「近代的人間観」・「アイデンティティ」・「自己」と、「関係性」・「人間関係」の関連を、スムーズに説明することを可能にします。

 それどころか、両者の、相互補完的な、密接な関連を、私たちに、知らせてくれます。

 

 私たちの今まで常識の中では、本来、「近代的人間」・「近代的人間観」とは、宗教的・封建主義的な拘束から解き放たれた自由な人間でした。

 すなわち、自我を確立して、自立性を保持し、理性・自己責任に基づいて行動できる人間。

 そして、「自分自身のみ」を自己の存在根拠とする人間。

 

 しかし、現代になり、極端な個人主義、IT社会、個性尊重の果ての「個性崇拝」などの中で、他者との人間関係に思い悩み、孤立感、虚無感に苦しむ人間が多くなりました。

 このような状況において、この小浜氏の論考は、対策論として、かなり有用だと思います。   

 

 この論理の流れは、よく理解しておいてください。

 類似の論考が、入試頻出です。(小浜氏の論考のように簡潔で分かりやすくは、ありませんが)

 また、自分の「アイデンティティ」について、悩みのある人は、この論理の流れを、よく噛み締めるとよいでしょう。

 

 本問は良問です。

 小浜氏の論考が、入試現代文(国語)・小論文の頻出論点・テーマである「アイデンティティ」・「自己」に関して、分かりやすく、簡潔に説明しているからです。

 これだけ、簡潔に分かりやすく、解説がなされていれば、高校生・受験生にも、充分に理解できるでしょう。

 しかも、早稲田大学教育学部の設問が、小浜氏の見解のポイントを、的確に設問化しているからです。問4・6の解説を、よく読んでください。特に、問6の青字の解説を。

 

  『人はなぜ働かなくてはならないのか』は、まさに良書と言えるでしょう。

  「高校生・受験生の必読書」とも言えます。

 入試だけではなく、人生に役に立ちます。

 

 

 (6)本書の構成の解説

 

 小浜氏は、以下の問題提起から、今回の論考を始めています。

「私は、どんな実力者やヒーローの中にも、彼らがすぐれていればいるほど、自分の資産がこれくらいになったからというだけの理由で、仕事への情熱を投げ捨ててしまわない「何か」があり、その「何か」にこそ、凡人の営々たる勤労意欲と相通ずるものがあるということを指摘したいのである」

 

 そして、小浜氏は、「なぜ人は働くのか?」という問いに対して、成立可能な、

「好きな仕事に就くことで人生の充実を味わえるから」、

「労働の意義はモラルに関連するから」、

という理由付けを否定する論証を、以下のように、展開しています。

 つまり、「好きな仕事に就くことで人生の充実を味わえるから」は、誰もが好きな仕事に就ける訳ではないので、これは不適当です。

 次に、「労働の意義はモラルに関連するから」は、道徳の強制は人を遠ざけるので、これも成り立ちません。

 

 最後に、本問の本文の論考を展開し、結論として、小浜氏は以下のように述べています。

「労働の意義を根拠づけているのは、私たち人間が、本質的に社会的な存在であるという事実そのものにある」と。

 

 もともと、人生には、自分のアイデンティティを承認されるために生きている側面があります。
 そう考えると、全ての労働・職業は、自分のアイデンティティの承認につながるのでしょう。
 そこには、「他者との関係性」の中に生きていく、人間の存在の「けなげさ」が感じられます。

 

 『人はなぜ働かなくてはならないのか』は、評判になった、『なぜ人を殺してはいけないのか』の続編です。
 『なぜ人を殺してはいけないのか』も根源的な考察に満ちた名著でしたが、『人はなぜ働かなくてはならないのか』は、さらに、じっくりとした明察を示した一冊になっています。小浜氏の代表作の一つに挙げられると思います。

 小浜氏も本書の中で「人間というこの不可思議な存在に対する解明の糸口だけはつかんでいるという、ささやかな自負がないわけではない。」と述べています。

 

 なお、 『人はなぜ働かなくてはならないのか』の目次は、以下のようになっています。

 どの項目も、入試頻出論点に関連しています。

第1問    思想や倫理は何のためにあるのか

第2問    人間にとって生死とは何か

第3問  「本当の自分」なんてあるのか

第4問    人はなぜ働かなくてはならないのか

第5問    なぜ学校に通う必要があるのか

第6問    なぜ人は恋をするのか

第7問    なぜ人は結婚するのか

第8問    なぜ「普通」に生きることはつらいのか

第9問    国家はなぜ必要か

第10問  戦争は悪か

 

 最近の小浜氏の著書の中では、本書のほかに、入試頻出出典である『言葉はなぜ通じないのか』(PHP新書)、『日本の七大思想家 丸山眞男/吉本隆明/時枝誠記/大森荘蔵/小林秀雄/和辻哲郎/福澤諭吉』 (幻冬舎新書) が、特に、おすすめです。

 

 ーーーーーーーー

 

今回の記事は、これで終わりです。

次回の記事は、約1週間後に発表の予定です。

 

  

 

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