現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

現古融合対策・解法ー2016早大文化『地獄変』『宇治拾遺物語』

(1)なぜ、この記事を書くのか

 

 現古融合問題、現古漢融合問題を不得意とする受験生が多いようです。

 高校でも塾・予備校でも、現古融合問題、現古漢融合問題を演習・指導する機会が少ないことが、その理由でしょう。 

 一般的には、現代文・古文・漢文を解く実力があれば、現古融合問題、現古漢融合問題を解くことに問題はないと思われているようです。

 しかし、入試本番では、単純な現代文問題よりも、現古融合問題、現古漢融合問題の方が、問題文本文の字数が、はるかに多い場合も珍しくありません。

 そのために、意識して対策をしておいた方が賢明です。

 従って、今回は、その対策記事を書くことにしたのです。


(2)現古融合問題、現古漢融合問題の解法

 

 今回の記事では、漢文問題は省略します。 

 漢文問題を省略しても、問題文本文、設問の字数が約8000字もあります。

 この問題を20~30分でやるためには、効率性を重視する必要があります。

 そこで、以下に効率的に処理するポイントを列挙していきます。

 

①  本文より先に設問を見て、問われていることを意識して本文を読むべきです。効率的に解答しなければ、時間内に解くことは不可能でしょう。本文の要約を書いている時間などは、ないことは言うまでもありません。特に、今回の現代文は小説なので、要約は全く不要です。


②  現古融合問題には、現代文・古文が独立している場合と、現代文の引用部分に古文が含まれている場合がありますが、解き方は同じです。共に、現代文が中心になっています。そして、現代文に関連する古文が出題されるのです。設問数、配点は現代文が古文より大の場合がほとんどです。現代文を中心にやっていくべきでしょう。

 

③  しかも、現代文が古文のヒントになる場合が多いのです。現代文自体が古文の解説になっていることが、つまり、現代文に古文の訳が含まれていることが多いので、このことを意識してください。

 

④  古文の設問は、基本的な文法問題、大まかな筋を聞くだけの、アッサリした問題が出題されることが多いのです。その点からも、設問から読むべきです。つまり、入試問題は、時間内に合格点が取れるように作られているのです。

 

⑤  注はヒントになります。すなわち、古文の訳が提示されている場合が多いのです。入試は案外に親切に作成されている、ということを意識してください。

 

⑥  現古融合問題においては、現代文問題よりも、設問自体が親切なヒントになっていることが多いようです。問題文本文は、もちろんですが、設問も丁寧に読んだ方がよいでしょう。

 

⑦  現古漢融合問題も、現代文が中心で、現代文に関連する古文、古文に関連する漢文が出題される場合が多いようです。比重としては、現代文>古文>漢文、となります。現代文・古文自体が漢文の解説になっているので、つまり、現代文・古文に漢文の訳が含まれていることが多いので、現代文・古文を特に重点的に精読してください。
 他の点については、現古融合問題についての上記の解説を参考にしてください。

 

 

地獄変・偸盗 (新潮文庫)

 

 

 (3)2016早稲田大学・文化構想学部の解説

 

(問題文本文)(青字は当ブログによる「注」です) 

甲A〔次の文章は、芥川龍之介『歯車』の一節である。〕

 僕は丸善の二階の書棚にストリントベルグの「伝説」を見つけ、二三頁ずつ目を通した。それは僕の経験と大差のないことを書いたものだった。のみならず黄いろい表紙をしていた。僕は「伝説」を書棚へ戻し、今度は殆(ほとん)ど手当り次第に厚い本を一冊引きずり出した。しかしこの本も挿(さ)し画(え)の一枚に僕等人間と変りのない、目鼻のある歯車ばかり並べていた。(それは或独逸(ドイツ)人の集めた精神病者の画集だった)僕はいつか憂鬱(ゆううつ)の中に反抗的精神の起るのを感じ、やぶれかぶれになった賭博狂(とばくきょう)のようにいろいろの本を開いて行った。が、なぜかどの本も必ず文章か挿し画かの中に多少の針を隠していた。どの本も?――僕は何度も読み返した「マダム・ボヴァリイ」を手にとった時さえ、畢竟(ひっきょう)僕自身も中産階級のムッシウ・ボヴァリイに外ならないのを感じた。・・・・
 日の暮に近い丸善の二階には僕の外に客もないらしかった。僕は電燈の光の中に書棚の間をさまよって行った。それから「宗教」と云う札を掲げた書棚の前に足を休め、緑いろの表紙をした一冊の本へ目を通した。この本は目次の第何章かに「恐しい四つの敵、――疑惑、恐怖、驕慢きょうまん、官能的欲望」と云う言葉を並べていた。僕はこう云う言葉を見るが早いか、一層〔 ① 〕精神の起るのを感じた。それ等の敵と呼ばれるものは少くとも僕には感受性や理智の異名に外ならなかった。が、〔 ② 〕精神もやはり〔 ③ 〕精神のようにやはり僕を不幸にするのはいよいよ僕にはたまらなかった。僕はこの本を手にしたまま、ふといつかペン・ネエムに用いた「寿陵余子(じゅりょうよし)」と云う言葉を思い出した。それは邯鄲(かんたん)の歩みを学ばないうちに寿陵の歩みを忘れてしまい、蛇行匍匐(だこうほふく)して帰郷したと云う「韓非子(かんぴし)」中の青年だった。今日(こんにち)の僕は誰の目にも「寿陵余子」であるのに違いなかった。しかし まだ地獄へ堕ちなかった僕もこのペン・ネエムを用いていたことは、――僕は大きい書棚を後ろに努めて妄想を払うようにし、丁度僕の向うにあったポスタアの展覧室へはいって行った。が、そこにも一枚のポスタアの中には聖ジョオジらしい騎士が一人翼のある竜を刺し殺していた。しかもその騎士は兜(かぶと)の下に僕の敵の一人に近い、しかめ面を半ば露(あらわ)していた。僕は又「韓非子」の中の屠竜(とりゅう)の技の話を思い出し、展覧室へ通りぬけずに幅の広い階段を下って行った。

 僕はもう夜になった日本橋通りを歩きながら、屠竜と云う言葉を考えつづけた。それは又僕の持っている硯(すずり)の銘にも違いなかった。この硯を僕に贈ったのは或若い事業家だった。彼はいろいろの事業に失敗した揚句、とうとう去年の暮に破産してしまった。僕は高い空を見上げ、無数の星の光の中にどのくらいこの地球の小さいかと云うことを、――従ってどのくらい僕自身の小さいかと云うことを考えようとした。しかし昼間は晴れていた空もいつかもうすっかり曇っていた。僕は突然何ものかの僕に敵意を持っているのを感じ、電車線路の向うにある或カッフェへ避難することにした。
 それは「避難」に違いなかった。僕はこのカッフェの薔薇(ばら)そう色の壁に何か平和に近いものを感じ、一番奥のテエブルの前にやっと楽々と腰をおろした。そこには幸い僕の外に二三人の客のあるだけだった。僕は一杯のココアを啜(すす)り、ふだんのように巻煙草をふかし出した。巻煙草の煙は薔薇色の壁へかすかに青い煙を立ちのぼらせて行った。この優しい色の調和もやはり僕には愉快だった。けれども僕は暫(しば)らくの後、僕の左の壁にかけたナポレオンの肖像画を見つけ、そろそろ又不安を感じ出した。ナポレオンはまだ学生だった時、彼の地理のノオト・ブックの最後に「セエント・ヘレナ、小さい島」と記していた。それは或は僕等の言うように偶然だったかも知れなかった。しかしナポレオン自身にさえ恐怖を呼び起したのは確かだった。・・・・
 僕はナポレオンを見つめたまま、僕自身の作品を考え出した。するとまず記憶に浮かんだのは「侏儒(しゅじゅ)の言葉」の中のアフォリズムだった。(殊に「 人生は地獄よりも地獄的である」と云う言葉だった)それから   「地獄変」の主人公、――良秀と云う画師の運命だった。それから・・・・僕は巻煙草をふかしながら、こう云う記憶から逃れる為にこのカッフェの中を眺めまわした。僕のここへ避難したのは五分もたたない前のことだった。しかし 2  このカッフェは短時間の間にすっかり容子(ようす)を改めていた。就中(なかんずく)僕を不快にしたのはマホガニイまがいの椅子やテエブルの少しもあたりの薔薇色の壁と調和を保っていないことだった。僕はもう一度人目に見えない苦しみの中に落ちこむのを恐れ、銀貨を一枚投げ出すが早いか、匆々(そうそう)このカッフェを出ようとした。

「もし、もし、二十銭頂きますが、・・・・」

 僕の投げ出したのは銅貨(→銅貨には、一銭・五銭・十銭の三種類がありました)だった。

 

 (注)  銀貨・・・・当時流通していた、五十銭銀貨

 

ーーーーーーーー

 

(設問)

 →以下の3問は、実際の入試では、漢文の問題文本文「丙」の後ろに提示されていますが、「甲A」を読みつつ、すぐに解くべきなので、今回のこの記事では、この場所に提示しています。問題文本文より先に設問を見ておけば、「甲A」を初めて精読しながら設問を解くことができます。

 

問1  甲Aの文章における空欄①~③に入る語句の組み合わせとして、最適なものを次の中から一つ選べ。


イ 1 伝統的  2 近代的  3 反抗的

ロ 1 伝統的  2 反抗的  3 近代的

ハ 1 近代的  2 伝統的  3 反抗的

ニ 1 近代的  2 反抗的  3 伝統的

ホ 1 反抗的  2 伝統的  3 近代的

ヘ 1 反抗的  2 近代的  3 伝統的

 

問2  甲Aの文章における傍線部1「まだ地獄へ堕ちなかった僕もこのペン・ネエムを用いていた」と記す背景に、筆者のどのような考えがあったのか。最適なものを次の中から一つ選べ。

 

イ  書棚にあった目鼻のある歯車の画集にはさまっていた針に指を傷つけられたことと、「韓非子」の青年の愚かさを重ね合わせた。

ロ  憂鬱の中に反抗的精神を呼び覚まされた際、中国故事の邯鄲一炊の夢のような白日夢を見たと感じ、陶然とした気持ちになった。

ハ  「宗教」の札を掲げた書棚にある本に、「恐ろしい四つの敵」とあるのを見て、現在の自分が地獄に堕ちているかのように感じた。

ニ  歩みを忘れて蛇行匍匐して帰郷した青年と自分を重ね合わせたペン・ネエムだが、そこに龍を殺すという真意を発見して驚いた。

ホ  現在の地獄のような状況を伝統的精神で解決しようとしたが、近代的精神に邪魔されて、かえって不幸になってしまうと感じた。

ヘ  若いころには、さして深い考えもなく用いたペン・ネエムが、のちの自らの運命を予言していたかのように感じて、慄然とした。

 

問3甲Aの文章における傍線部2に「このカッフェは短時間の間にすっかり容子(ようす)を改めていた」とあるが、それはどうしてか。最適なものを一つ選べ。

 

イ ナポレオンが記した運命の予言を思い起こし、思わずセエント・ヘレナ島にいるような錯覚を起こしたから。

ロ  短時日のうちに改装工事を行ったためか、以前来たときに比べて薔薇色の壁の色の調和が一新していたから。
ハ  昼間から夕刻にいたる太陽光線の変化によって、壁と椅子とテエブルの色が、以前とは異なって見えたから。

ニ  何ものかの敵意から避難したはずなのに、巻煙草の煙や肖像画によって恐ろしい記憶を呼び覚まされたから。

ホ  薔薇色の壁と、マホガニイまがいの椅子やテエブルの調和が保たれていないため、幸福感が増してきたから。

ヘ  カッフェの店員の勘違いにより、銀貨と銅貨を間違えられ、すぐに勘定を済ませることができなかったから。

 

 ……………………………

 

(解説・解答)

問1(空欄補充問題)

①  直前の「一層」を押さえたうえで、第一段落の「反抗的精神」に注目してください。
②  第一段落に着目する必要があります。「僕」はストリントベルグの「伝説」にも「反抗的精神の起るのを感じ」ていることに、注意してください。

(解答)  ホ

 

問2(傍線部説明問題)

 傍線部自体を、よく考えてください。そこにヒントがあります。(→本番特有の問題です。)それを意識したうえで、傍線部の直前・直後の、不吉な雰囲気に満ちた記述に着目してください。

(解答)  ヘ

 

問3(傍線部説明問題・理由説明) 

  「消去法」を使用しなければ、解答不能です。そのことを前提にして、各選択肢の傷の大小を比較する必要があります。

 ニ以外は、大きな傷があります。ニについては、「このカッフェは短時間の間にすっかり容子(ようす)を改めていた」理由の一つとして、「自分の巻煙草の煙」を挙げることは可能です

(解答)  ニ

 

ーーーーーーーー

 

(問題文本文)

 甲B〔次の文章は、甲A傍線部 b のもとになった、芥川龍之介『侏儒の言葉』「地獄」の全文である。〕
 人生は地獄よりも地獄的である。地獄の与える苦しみは一定の法則を破ったことはない。たとえば餓鬼道の苦しみは目前の飯を食おうとすれば飯の上に火の燃えるたぐいである。しかし人生の与える苦しみは不幸にもそれほど単純ではない。目前の飯を食おうとすれば、火の燃えることもあると同時に、又存外楽楽と食い得ることもあるのである。のみならず楽楽と食い得た後さえ、腸加太児(カタル)の起ることもあると同時に、又存外楽楽と消化し得ることもあるのである。こう云う無法則の世界に順応するのは何びとにも容易に出来るものではない。もし地獄に堕(お)ちたとすれば、わたしは必ず咄嗟(とっさ)の間に餓鬼道の飯も掠(かす)め得るであろう。況や針の山や血の池などは二三年其処に住み慣れさえすれば格別跋渉(ばっしょう)の苦しみを感じないようになってしまう筈(はず)である。

 

(注)  腸加太児・・・・炎症を伴う腸の病気。

  

甲C〔次の文章は、甲A傍線部 c が踏まえている、芥川龍之介『地獄変』の末尾の部分である。〕
 その夜雪解(ゆきげ)の御所で、大殿様が車を御焼きになつた事は、誰の口からともなく世上へ洩(も)れましたが、それに就(つ)いては随分いろいろな批判を致すものもおったようでございます。先(まづ)第一に何故(なぜ)大殿様が良秀の娘を御焼き殺しなすったか、――これは、かなわぬ恋の恨みからなすったのだと云う噂が、一番多うございました。が、大殿様の思召しは、全く車を焼き人を殺してまでも、屏風の画を描こうとする絵師根性の曲(よこしま)なのを懲(こ)らす御心算(おつもり)だったのに相違ございません。現に私は、大殿様が御口ずからそう仰有(おつしゃ)るのを伺った事さえございます。
 それからあの良秀が、目前で娘を焼き殺されながら、それでも屏風の画を描きたいと云うその木石のやうな心もちが、やはり何かとあげつらわれたようでございます。中にはあの男を罵(ののし)って、画の為には親子の情愛も忘れてしまう、人面獣心の曲者(くせもの)だなどと申すものもございました。あの横川の僧都様などは、こう云う考えに味方をなすった御一人で、「如何に一芸一能に秀でようとも、人として五常を弁(わきま)えねば、地獄に堕ちる外はない」などと、よく仰有ったものでございます。
 ところがその後一月ばかり経(た)って、いよいよ地獄変の屏風が出来上りますと良秀は早速それを御邸(おやしき)へ持つて出て、恭しく大殿様の御覧に供えました。丁度その時は僧都様も御居合わせになりましたが、屏風の画を一目御覧になりますと、流石(さすが)にあの一帖の天地に吹き荒(すさ)んでいる火の嵐の恐しさに御驚きなすったのでございましょう。それまでは苦い顔をなさりながら、良秀の方をじろじろ睨(ね)めつけていらしったのが、思わず知らず膝を打つて、「出かしおった」と仰有いました。この言を御聞きになつて、大殿様が苦笑なすった時の御容子も、未だに私は忘れません。
 それ以来あの男を悪く云うものは、少くとも御邸の中だけでは、殆ど一人もいなくなりました。誰でもあの屏風を見るものは、如何に日頃良秀を憎く思っているにせよ、不思議に厳(おごそ)かな心もちに打たれて、炎熱地獄の大苦艱(だいくげん)を如実に感じるからでもございましょうか。
 しかしそうなった時分には、良秀はもうこの世に無い人の数にはいっておりました。それも屏風の出来上った次の夜に、自分の部屋の梁(はり)へ縄をかけて、縊(くび)れ死んだのでございます。一人娘を先立てたあの男は、恐らく安閑として生きながらえるのに堪えなかったのでございましょう。屍骸は今でもあの男の家の跡に埋まって居ります。尤も小さな標(しるし)の石は、その後何十年かの雨風に曝(さら)されて、とうの昔誰の墓とも知れないように、苔蒸(こけむ)しているにちがいございません。

 

乙 〔次の文章は、甲C芥川龍之介『地獄変』のもととなった『宇治拾遺物語』該当説話の全文である。〕

 これも今はむかし、絵仏師良秀と云ありける。家の隣より火出きて風をしおほひてせめければ、逃出て大路へ出にけり。人のかかする仏もおはしけり。又、衣きぬ妻子なども、さながら内に有りけり。それもしらず、ただ逃いでたるをことにて、むかひのつらにたてり。
 みれば、すでに我家にうつりて、煙、炎くゆりけるまで、おおかたむかひのつらに立てながめければ、「あさましきこと」とて、人ども、きとぶらひけれど、さはがず。「いかに」と人いひければ、むかひにたちて、家の焼くるを見て、うちうなづて、時々わらひけり。 「あはれ、しつるせうとくかな。年ごろはわろく書きたる物かな」と云ふ時に、とぶらひにきたる者共、「こはいかに、かくては立ち給へるぞ。あさましき事かな。のつき給つるか」といひければ、「なんでう、物のつくべきぞ。年ごろ、不動尊の火焔をあしく書ける也。今みれば、かうこそ燃えけれと、心えつるなり。これこそ、せうとくよ。この道をたてて、世にあらんには、仏だによく書たてまつらば、百千の家も出来なん。わたうたちこそ、させる能もおはせねば、をもおしみ給へ」と云ひて、あざ笑ひてこそ立てりけれ。

 其後にや、良秀がよぢり不動とて、今に人々めであへり。

 

 (注) せうとく・・・・所得。利益のこと。

         わたうたち・・・・お前たち。

 

ーーーーーーーー

 

(設問)

問4  乙の文章における傍線部3に「家の焼くるを見て、うちうなづて、時々わらひけり」とあるが、良秀はなぜ家が焼けるのを見て笑ったのか。その説明として、最適なものを一つ選べ。

イ  これまで見たことのないような炎を見て、新しい境地を発見した喜びと、高みに達したという満足感を得たから。

ロ  車に閉じ込められ焼き殺された娘の苦しみを思い合わせ、安閑として生きながらえない自らの運命を悟ったから。

ハ  火事見舞いにかけつけた者たちに妻子を焼き殺したことを告白したことによって、自責の念がより強くなったから。

ニ  怨霊にとりつかれ、意識せずに火を付けてしまったことにより、あらゆる罪悪感が喜びに変わってしまったから。

ホ  どうしても描けなかった不動尊の火炎を表現できたことにより、家などは今後何軒でも建てられると思ったから。

ヘ  人面獣心と非難されながら絵を描き続けてきたものの、唯一の拠り所であった妻子を失ったことに気付いたから。

 

問5乙の文章における傍線部4・5の意味として、最適なものを、それぞれ次の中から一つ選べ。

イ 動作   ロ 楽器   ハ 財産
ニ 言葉   ホ 悪霊   ヘ 食物


問6  乙の文章に用いられている敬意を表す活用語をすべて取り出し、敬語の種類と活用形を確認した上で、その組み合わせが本文にみえるものを次の中から二つ選べ。

イ 尊敬・未然形    ロ 尊敬・連用形
ハ 尊敬・終止形    ニ 謙譲・連体形
ホ 謙譲・已然形    ヘ 謙譲・命令形

 

問7  甲A~C・乙の文章の、いずれかの内容と合致するものを次の中から選べ。

イ  芥川龍之介は、『荘子』の「屠龍」の語に、自分の名前に含まれる龍を屠るという寓意を感じたので、死への恐れを克服するために地獄を描く作品を次々と執筆した。

ロ  芥川龍之介は、『侏儒の言葉』において、人生の苦しみに比べれば地獄はたいした存在ではなく、住み慣れれば特別な苦しみなど感じなくなってしまうだろうと説いた。

ハ『地獄変』において、横川の僧都様は数少ない良秀の庇護者であり、完成した地獄絵の屏風を見てあまりの出来の良さに感動したため、大殿様に笑われてしまった。

ニ  芥川龍之介は、『宇治拾遺物語』を換骨奪胎して、『地獄変』を芸術至上主義的な作品に昇華し、自死した良秀を炎熱地獄から極楽に往生した人物とした。

 

  ……………………………

 

(解説・解答)

問4(傍線部説明問題・理由説明)(解説・解答)

 「乙の文章」については、問4~6の3問しかないことを確認してから、本文を読んでください。この設問を意識して本文を読むことこそ、効率性重視です。

 本質的・中心的理由が正解になります。イが正解になります。なお、甲C『地獄変』第一段落の「大殿様の思召しは、全く車を焼き人を殺してまでも、屏風の画を描こうとする絵師根性の曲(よこしま)なのを懲(こ)らす御心算(おつもり)だった」の部分がヒントになることを確認してください。

 ホのような、表面的・物質的理由は、本質的・中心的理由に劣ります。

(解答)イ

 

問5(傍線部説明問題・意味説明)

  傍線部の直前・直後の精読が不可欠です。特に、直後の動詞がポイントになります。

(解答)4=ホ5=ハ

 

問6(古文文法問題・敬語)

(解答)イ・ロ


問7(趣旨合致問題)

 趣旨合致問題も、まず、設問の選択肢を見てから本文を読むようにすると効率的です。

 

 ロについては、乙の文章の最終文に注目してください。他の選択肢は、本文に記述のない表現を含んでいます。

 なお、問題文本文の甲Bに関する設問は、これのみです❗ 設問を問題文本文より先に見て、効率的に処理するべきです

 

 また、甲Cについての設問は、問7のハ・ニだけです❗ あとは、問4のヒントになっているだけです

 

 甲B・甲Cを精読する前に、このことを知っておくべきです。設問を先に見ないで、問題文本文を闇雲に精読することは、実に愚かなことです。

 

 現古融合問題、現古漢融合問題は、問題文本文の総字数は5000~8000字に及ぶ場合が多いのですが、効率的に対応すれば、20~30分で処理することは、充分に可能です。くれぐれも、このことを意識しておいてください。

 
(解答)ロ

 

 乙(『宇治拾遺物語』)の現代語訳(口語訳)

 これも今となっては昔の話ですが、仏画の絵師で良秀という者がいました。家の隣から火が発生して、風が(火に)おおいかぶさって(火が)迫ってきたので、(良秀は)逃げ出して、大通りに出てきました。(家の中には、)人が(依頼して)描かせている仏様もいらっしゃいました。また衣服を着ていない(良秀の)妻や子なども、そのまま家の中にいました。(良秀は)それを認識することなく、ただ(自分が)逃げ出したことをよしとして、(家の)向かいの側に立っていました。 
 見ると、すでに我が家に燃え移っており、煙や火が立ち上ったときまで家の向かいに立って総じて(その様子を)眺めていたので、 
「大変なことですね。」
と言って、人々が見舞いに来たのですが、(良秀は)動じていません。 
「どうしたのか。」
と(ある人が)言ったところ、(良秀は燃え上がる家の)向かいに立って、家が焼けるのを見て、うなずいて、時々笑っていました。 
「ああ、もうけものをしたよ。長い間(私は背景の炎を)下手に描いてきたものだよ。」
と(良秀が)言うので、見舞いに来た人々が、 
「これはどうして、このようにしてお立ちになっているのですか。驚きあきれたことだよ。霊が取り付いていらっしゃるのですか。」
と言ったところ、(これを聞いた良秀は、) 
「どうして霊がとりつくことがあろうか。(いや、ない)。長い間、不動尊の(背景の)炎を下手に描いていたのだ。今見ると、(火は)このように燃えるのだったなあと納得したのだ。これこそもうけものだよ。この道(絵を描く職業)で生きていくならば、仏様さえうまく描き申し上げていれば、100軒1000軒の家もきっと建つだろうよ。お前たちこそ、これといった才能もお持ちでないから、物を惜しみなさるのだ。」
と言って、馬鹿にして笑って立っていました。 
 その後のことでしょうが、良秀のよじり不動として、今でも人々が(彼の絵を)称賛し合っています。 

 

 ーーーーーーーー

 

今回の記事は、これで終わりです。

次回の記事は、約1週間後に発表の予定です。

ご期待ください。

  

  

 

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