現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

2017センター試験国語第1問・的中報告・問題解説・科学論

(1)当ブログの予想論点記事が2017センター試験国語[1]に的中(著者・論点)しました。

2016東大・一橋大・静岡大ズバリ的中(3大学ともに全文一致→下にリンク画像があります)に続く快挙です。うれしいことです。

 

 2016・12・13に発表した当ブログの記事(「国語予想問題『プロの裏切り・プライドと教養の復権を』神里達博」→下にリンク画像を貼っておきます)が、2017センター試験国語(現代文)問題[1](「科学コミュニケーション」・小林傳司)に、的中(著者・論点→科学論→科学コミュニケーション)しましたので、この記事で報告します。

 

 つまり、2017センター試験に、下の記事の中で紹介・解説した小林傳司氏のインタビュー記事(朝日新聞2016年3月10日(東日本大震災5年 問われる科学)「7:教訓を生かす 科学技術、社会と関わってこそ 専門家に任せすぎるな」)に強く関連した、小林氏の論考が出題されたのです。

 

 

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 下の鷲田清一氏の論考は、2016年度・静岡大学国語にズバリ的中しました。

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 「2017センター試験国語[1]の『要旨』」と「当ブログ記事・的中」の説明

 

 2017センター試験に出題された小林氏の論考の「要旨」は、以下の通りです。

 科学社会学者(コリンズ、ピンチ)の見解を引用しつつ、その主張を考察する論考です。

 現在、科学の様々なマイナス面が明らかになるにつれて、「科学が問題ではないか」という問題意識が生まれてきている。しかし、科学者は、このような問題意識を、科学に対する無知・誤解から生まれた反発とみなしがちである。

 だが、科学社会学(コリンズ、ピンチ)は、従来の科学者が持つこのような発想を批判する。科学は全面的に善なる存在ではないし、無謬の知識でもない、という。現実の科学は人類に寄与する一方で、制御困難な問題も引き起こす存在である(→科学の「両面価値的性格」)、と主張した。

 そして、科学社会学は、一般市民への啓蒙について「科学の内容ではなく、専門家と政治家やメディア、われわれとの関係について伝えるべき」と言う。
 科学社会学は、一般市民を科学の「ほんとうの」姿を知らない存在として見なしてしまっている。この「大衆に対する、硬直した態度」は、科学社会学も、従来の科学と同様である。科学社会学は、科学を正当に語る資格があるのは科学社会学としてしまう点に限界がある。

 

 センター試験の問題文本文(小林氏の論考)は、

①「科学社会学者(コリンズ、ピンチ)が科学の両面価値的性格を認めている点」は賛成していますが、

 

「『科学と一般市民の関係』についての科学社会学者の主張」については、厳しく批判しています。そして、その批判で終わっています。

 「では、どうしたら良いのか」という筆者の主張・結論が不明確なのです。

 この点で、今回のセンター試験の第一問は、一見、読みにくい問題でした。

 

 この②の問題の筆者(小林氏)の主張・結論は、まさに、朝日新聞のインタビュー記事の小林氏の見解だと思います。(以下で紹介します)


 この記事の、『(東日本大震災5年 問われる科学)「7:教訓を生かす 科学技術、社会と関わってこそ 専門家に任せすぎるな」』という見出しだけでも、ある程度のヒントになります。

 

 以下は 2016・12・13に発表した当ブログの記事(「国語予想問題『プロの裏切り・プライドと教養の復権を』神里達博」)からの引用、つまり、朝日新聞のインタビュー記事の小林氏の見解です。

 

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(以下は、当ブログの前掲の記事からの引用)

専門家に望まれる態度・心掛け

「専門家主義」からの脱却

①専門家たちは、「総合的教養」・「生きた教養」を身に付ける→「専門家の相互チェック」のために

②さらに、専門家も、国民も、「民主的コントロール」を意識する→(まさに、今回のセンター試験に出題された「科学コミュニケーション」です!)

 

 ここで参考になるのは、科学哲学者である小林傳司氏の意見です。以下に、概要を引用します。

 (小林傳司氏の意見)(概要です)

(赤字は当ブログによる「強調」です。青字は当ブログによる「注」です)

震災(→「東日本大震災」)により科学者への信頼は大きく失墜した。学界などから様々な反省が言われたが、今では以前に戻ったかのように見える。

一つは、日本社会が「専門家主義」から脱却できないことだ。「科学と社会の対話が大切」と言いながら、原発再稼働などの政策決定過程をみると「大事なことは専門家が決めるから、市民は余計な心配をしなくてよい」という姿勢が今も色濃い。震災で専門家があれほど視野が狭いことが露見したにもかかわらずだ。

 これらの課題にどう対応すればよいか。まずは、市民が意思決定を専門家に任せすぎず、自分たちの問題ととらえることだ。科学技術は、それがなければ私たちは生活ができないほど重要で強力になっている。原子力のような巨大技術ほど「科学技術のシビリアンコントロール(→民主的コントロール)」が必要だ。

 専門家は、市民が基礎知識に欠ける発言をしてもさげすんではならない。専門家は明確に言える部分と不確実な部分を分けて説明する責務があり、最終的には「社会が決める」という原則を受け入れなければいけない。

 日本社会は「この道一筋何十年」という深掘り型は高く評価してきたが、自分の専門を超えて物事を俯瞰(ふかん)的に見られる科学者を育ててこなかった。広い意味での「教養」が重要だと思う。」

(朝日新聞 2016年3月10日 (東日本大震災5年 問われる科学)「7:教訓を生かす 科学技術、社会と関わってこそ 専門家に任せすぎるな」)

 ーーーーーーーー

(ここも当ブログの前掲の記事からの引用です)  

(当ブログによる解説) 

 ここで、小林傳司氏は、まず、「震災(→「東日本大震災」)専門家の視野の狭さが露見したこと」を指摘しています。

 そして、専門家も、市民も、「専門家主義」から脱却し、「科学技術のシビリアンコントロール」を実現することの必要性を強調しています。

 小林氏の言うように、「この道一筋何十年」という深掘り型の専門家の意見のみを重視する「日本型の専門家主義」では、「視野の狭さ」という欠陥をカバーすることは、不可能でしょう。

 対策としては、小林氏の言う「自分の専門を超えて物事を俯瞰(ふかん)的に見られる科学者」、つまり、「総合的教養」・「生きた教養」を持つ科学者の養成・育成が必要です。

 それとともに、科学技術のシビリアンコントロール」が必要なことは、言うまでもありません。

 

(「2016・12・13に発表した当ブログの記事(「国語予想問題『プロの裏切り・プライドと教養の復権を』神里達博」)からの引用終わり)

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 (今回の記事の、本来の記述に戻ります)

 言ってみれば、要するに、このインタビュー記事、つまり、「小林氏の問題意識」・「現在の科学哲学の問題意識」を前もって知っていれば、このセンター試験の問題は、かなり楽に読めたのでした。

 最新の教養・予備知識がいかに入試に役立つか、よく分かる適例です。 

 

 なお、「科学コミュニケーション(サイエンス・コミュニケーション)」とは、「科学について、科学者が科学者ではない一般市民と対話すること」を言います。「科学コミュニケーション」自体がひとつの研究分野にもなっています。「科学社会学」・「科学哲学」・「科学技術社会論」・「社会学」の研究者などがこの分野の研究を行っています。

 今日では、「科学コミュニケーション」に関連する様々な用語が発生しています。「大衆の科学理解 」・「科学技術への公衆関与 」・「科学に対する公衆の意識」・「科学リテラシー」などです。

 

 神里氏に関する前掲の記事(「国語予想問題『プロの裏切り・プライドと教養の復権を』神里達博」)は、現在の「科学社会学・科学哲学・科学技術社会論などの問題意識」を知るのに役立ちます。

 

(2)2017センター試験国語[1](小林傳司(こばやし  ただし)・「科学コミュニケーション」)の解説

 

 2017センター試験国語(現代文・評論)についてさらに、詳しく説明します。

 ただし、今回の論点は、「東日本大震災」・「人工知能」等に関連しているので、これからも、現代文(国語・評論)・小論文に出題される可能性が高いと言えます。従って、これからのセンター試験・国公立大学二次試験・難関私立大学入試の、現代文(国語・評論)・小論文対策に役立つように説明したいので、「ハイレベルな内容面」を中心に解説していきます。

 従って、基礎的な設問(問1・2)の解説、各設問の選択肢の絞り方などについては、省略します。これらについては、各種解説書などを、参照してください。

 

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(問題文本文)(概要です)(【1】【2】【3】・・・・は段落番号です。センター試験の問題でも段落番号は付加されていました)

(赤字は当ブログによる「強調」です。青字は当ブログによる「注」です) 

1】現代社会は科学技術に依存した社会である。19世紀以降に科学が社会の中に組み込まれていき、戦争により、重要性を増した。

2】第二次世界大戦以後、科学技術は膨張を続ける。現代の科学技術は、かつてのような思弁的、宇宙論的伝統に基づく自然哲学的性格を失い、先進国の社会体制を維持する重要な装置となってきている。

3】十九世から二十世紀前半にかけて、既に「科学」は社会の諸問題を解決する能力を持っていた。「もっと科学を」というスローガンが説得力を持ち得た所以(ゆえん)である。しかし、二十世紀後半の科学ー技術は両面価値的存在になり始める。現代の科学ー技術は、自然に介入し、操作する能力を入手開発するようになっており、その結果、自然の脅威を制御できるようになってきた。同時にその科学ー技術の作り出した人工物が人類にさまざまな災いをもたらし始めてもいる。B こうして「もっと科学を」というスローガンの説得力は低下し始め、「科学が問題ではないか」という新たな意識が社会に生まれ始めているのである。

 

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(設問)(解説・解答)


問3 傍線部B「こうして『もっと科学を』というスローガンの説得力は低下し始め、『科学が問題ではないか』という新たな意識が社会に生まれ始めているのである。」とあるが、それはどういうことか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

 

 正解は④です。④は、以下のような記述です。

 

 20世紀前半までの科学は、その理論を応用する技術と強く結びついて日常生活に役立つものを数多く作り出したが、現代における技術と結びついた科学は、その作り出した人工物が各種の予想外の災いをもたらすこともあり、その成果に対する全的な信頼感が揺らぎつつあるということ。

 

 【3】段落の、「科学ー技術」の「両面価値的存在」(→プラス面とマイナス面を同時に持つということ)(→入試における頻出キーワードです)の内容を把握すれば、よいでしょう。

 ④以外の選択肢は、「科学ー技術」の両面価値的価値」の内容の説明が出来ていません。

 

ーーーーーーーー

 

 (問題文本文)(概要です) 

【4】しかし、科学者は依然として「もっと科学を」という発想になじんでおり、このような「科学が問題ではないか」という問いかけを、科学に対する無知・誤解からの反発とみなしがちである。

5】 このような状況に一石を投じたのが科学社会学者のコリンズとピンチの『ゴレム』である。ゴレムは魔術的力を備え、日々その力を増加させつつ成長する。人間の命令に従い、人間の代わりに仕事をし、外的から守ってくれる。しかし、この怪物は不器用で危険な存在でもあり、適切に制御しなければ主人を破壊する威力を持っている。つまり、科学は全面的に善なる存在ではないし、無謬の知識でもないという。現実の科学は新知識の探求を通じて人類に寄与する一方で、社会制御困難な問題も引き起こす存在であると主張した。 

6】コリンズとピンチは『ゴレム』の中で、科学者が振りまいた「科学の神のイメージ」を、「不確実で失敗しがちな向こう見ずでへまをする巨人」のイメージ、つまり C  ゴレムのイメージに取りかえることを主張したのである。 そして、科学上の論争の終結が論理的な決着にならないことを具体例で説明した。

 

ーーーーーーーー

 

(設問)(解説・解答)

 

 傍線部C「ゴレムのイメージに取りかえることを主張したのである」とあるが、それはどういうことか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

 

正解は③です。③は、以下のような記述です。

 

③ 全面的に善なる存在という科学に対する認識を、魔術的力とともに日々成長して人間の役に立つが欠陥が多く危険な面も備える怪物ゴレムのイメージで捉えなおすことで、現実の科学は新知識の探求を通じて人類に寄与する一方で制御困難な問題も引き起こす存在であると主張したということ。

 

  5】段落の内容を把握することが必要です。つまり、「ゴレム」が「善悪両面を持っていること」を読み取る必要があります。この点は、問3と同じです。「ゴレム」は「科学ー技術」の喩え(たとえ)だからです。

 

ーーーーーーーー 

 

 (問題文本文)(概要です)

「【7】~【9】の「重力波の論争」は具体例。→設問を本文より先に見ておけば、この部分は、スルーするべきだと分かります。「設問を本文より先に見ると、設問に引きずられるから、見ない方がよい。本文の要約を終わらせてから設問を見てください」という、時間制限を考慮しない不思議な指導法があるようです。しかし、それはそれとして、つまり、指導法に関する当否は別として、時間制限のある受験生としては、効率的に、賢明に、やるようにしてください。【10 】で本質論に戻っていることに、注意してください。

【10 】コリンズとピンチは、このようなケーススタディーをもとに、「もっと科学を」路線を批判するのである。民主主義国家の一般市民は確かに、「科学ー技術」の様々な問題に対して意思表明をし、決定を下さねばならない。ただ、科学社会学は、一般市民に伝えるべきことは、科学の内容ではなく、専門家と政治家やメディア、そしてわれわれとの関係についてなのだ、と言う。

【11】科学を「実在と直結した無謬の知識という神のイメージ」から「ゴレムのイメージ」(=「ほんとうの」姿)に変えようという主張は、「科学を一枚岩とみなす発想」を切り崩す効果を持っている。(→筆者は、この点について、二人の主張に賛成しています。)

12】 D にもかかわらず、この議論の仕方には問題がある。コリンズとピンチは、一般市民の科学観が「実在と直結した無謬の知識という神のイメージ」であり、それを「ゴレム」に取り替えよ、それが科学の「ほんとうの」姿であり、これを認識すれば、科学至上主義の裏返しの反科学主義という病理は癒やされるという。しかし、「ゴレム」という科学イメージは、なにも科学社会学者が初めて発見したものではない。

【13】結局のところ、コリンズとピンチはは科学者の一枚岩という「神話」を堀り崩すのに成功したが、その作業のために、「一枚岩の」一般市民という描像を前提にしてしまっている。言いかえれば、科学者も一般市民も科学の「ほんとうの」科学を知らないという前提である。その「ほんとうの」姿を知っているのは(コリンズとピンチのような)科学社会学者であると答える構造の議論をしてしまっているのである。(→科学社会学は、科学を正当に語る資格があるのは自分たちだけとしている、傲慢な点に限界があるのです→この点が問5の正解が④である根拠です)」 (小林傳司「科学コミュニケーション」)

 

ーーーーーーーー

 

(設問)(解説・解答)

 

問5 傍線部D「にもかかわらず、この議論の仕方には問題がある。」とあるが、それはなぜか。その理由として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

 

正解は④です。④は、以下のような記述です。

 

④ コリンズとピンチは、歴史的にポピュラーな「ゴレム」という科学イメージを使って科学は無謬の知識だという発想を批判したが、専門家科学者と政治家やメディア、そして一般市民との関係について人々に伝えるべきだという二人の主張も、一般市民は科学の「ほんとうの」姿を知らない存在だと決めつける点において、科学者と似た見方であるから。

 

 「理由」は、文脈的に傍線部の後ろにあることを読み取るべきです。【13】段落の「結局のところ」、「言いかえれば」以下を熟読すればよいでしょう。

 

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(設問)(解説・解答) 


問6 この文章の表現と構成・展開について、次の(1)・(2)の問いに答えよ。→他の設問もそうですが、この設問こそ、本文より先に設問を見ておけば、ラクな問題です。本文を読みながら、一つ一つの選択肢をチェックしていくようにしてください。


(1)この文章の第1~8段落の表現に関する説明として適当でないものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

 

 正解は③です。③は、以下のような記述です。

 

③ 第6段落の「コリンズとピンチの処方箋」という表現は、筆者が当時の状況を病理と捉えたうえで、二人の主張が極端な対症療法であるとみなされていたということを、医療に関わる用語を用いたたとえによって示している。

 

 ③は、「極端な対症療法(→患者の症状に対応して行う療法)であると見なされた」という部分が不適当です。本文に、このような記述はありません。

 

…………………………… 

 

(設問)(解説・解答)

問6  この文章の表現と構成・展開について、次の(2)の問いに答えよ。

 

(2)この文章の構成・展開に関する説明として適当でないものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

 

 正解は①です。①は、以下のような記述です。


① 第1~第3段落では十六世紀から二十世紀にかけての科学に関する諸状況を時系列的に述べ、第4段落ではその諸状況が科学者の高慢な認識を招いたと結論づけてここまでを総括している。

 

 ①の「第1~第3段落では十六世紀から二十世紀にかけての科学に関する諸状況を時系列的に述べ」の部分は3】段落冒頭文より、誤りです。

 また、「第4段落ではその諸状況が科学者の高慢な認識を招いたと結論づけて」の部分は、4】段落にこのような記述は、ありません。

 

ーーーーーーー

 

(解説→当ブログによる総まとめ)

 

(1)本文の内容説明

 

前述しましたが、小林氏の本文における主張は以下の2点でした。

 

①「科学社会学者(コリンズ、ピンチ)が科学の両面価値的性格を認めている点」は賛成していますが、

 

「『科学と一般市民の関係』についての科学社会学者の主張」については、厳しく批判しています。そして、その批判で終わっています。

 この点について、「では、どうしたら良いのか」という小林氏の筆者の主張・結論は、まさに、朝日新聞のインタビュー記事の小林氏の見解でしょう。 

 

(2)設問を、本文よりも先に見ることの重要牲

 

 今回のセンター試験の問題は、設問を本文より先に見て解いていけば、20分程度で完了する問題でした。上記の説明で、「【7】~【9】の「重力波の論争」は具体例」と説明しましたが、「重力波の論争」の部分の内容面については、特に問われることなく、設問は終わっています。以下のように、問題6(1)④・(2)②で、「形式的な論理構造」を聞いてきただけです!

 

6(1)この文章の第1~8段落の表現に関する説明として適当でないものを、次の1~4のうちから一つ選べ。


④ 第8段落の「優れた検出装置を~。しかし~わからない。しかし~わからない……」という表現は、思考が循環してしまっているということを、逆接の言葉の繰り返しと末尾の記号によって示している。

 

(2)この文章の構成・展開に関する説明として適当でないものを、次の1~4のうちから一つ選べ。

② 第5~第6段落ではコリンズとピンチの共著『ゴレム』の趣旨と主張をこの文章の論点として提示し、第7~9段落で彼らの取り上げたケーススタディーの一例を紹介している。

 

 つまり、設問を先に見ていないと、難解な「重力波の論争」の内容面まで理解しようとする無駄な労力・時間を使ってしまうのです。ぜひとも、本文より先に、設問を見るようにしてください。

 

 

(3)科学社会学・科学哲学・科学技術社会論、小林傳司氏の、最近の問題意識

 

 

以下は、「公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)代表   小林傳司氏(大阪大学)」のWeb 上の発言です。概要を引用します。

 

(赤字は当ブログによる「強調」です)


「われわれが提案したのは、ELSIというものを中心としたプログラムです。ELSIとは、 “Ethical、Legal、Social Issues”のことで、倫理的法的、そして社会的な論点ということです。科学技術がこれだけ発展してきますと、社会のいたるところに浸透していますので、自動的に科学技術の成果が社会に対して利益とか善なる効果プラスの効果を生むというふうにはならなくなってきていて、予想しがたいようなマイナスの効果も出てきていますし、さまざまな問題も出てくる。だからそういうことをきちっと考えないと、科学技術をわれわれの社会はうまく使えないだろうと。これは最近だとライフサイエンスなどで非常に話題になっている問題群で、人間の遺伝情報を扱う、あるいは人間の身体そのものを実験的な研究によって改変する、そういうことが技術的にも理論的にも可能になってきているわけですが、やはり対象は人間ですので、その人間をいじるときにはさまざまな倫理的な配慮というものが要ります。」

 

「考えてみれば、科学技術のための予算というのは税金をどんどん投入しているわけですから、その税金を使った研究というのがどのぐらい社会にとって価値を生んでいるのかという観点から、説明を求められる時代というのが来ているわけですね。国家財政がこれほど厳しくても、日本はずっと科学技術予算というのは頑張ってきたわけです。あまり減らさずに、逆に少しずつ増やすということを行ってきたわけですから、それが何のためかということが問われるという、そういう時代になっています

 今までは、科学技術政策というと、重点的にこの分野の振興をしましょうとか、この分野を発展させましょうという形で分野を決めていた。その分野は科学技術の専門分野という形で決めてきたわけですが、この第四期の計画ではそうではなくて、今われわれの社会が抱えている課題というものがあって、その課題を解決するにはどういうような分野の科学技術が動員されるべきか、そういう問題の立て方に切り替えたわけですね。

 その中で、では科学技術政策をどうやって人々が納得する形で、理論的に整合的な政策が組めるのかということから、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』」というプログラムが考えられてきたという背景があります。」(公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)代表として 小林傳司・大阪大学)

 

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(当ブログによる解説) 

 上記の発言を読むと、小林氏は、目指すべき「科学コミュニケーション」のあり方を真摯に考えていることが分かります。

 今年のセンター試験国語(現代文)で重要なポイントになっている科学技術の両面価値的な側面を強く意識して、望ましい「科学と人類の望ましい関係」を模索しているのです。

 今年のセンター試験に出題された小林氏の論考の先に、この小林氏の発言があるのです。

 逆に言えば、センター試験の前に、この小林氏の問題意識を知っておけば、センター試験の問題をラクに解けたでしょう。 

 

 「科学への市民の積極的関与」「民主的コントロール」、そこには様々な可能性と困難があるようです。

 科学社会学、科学哲学は、新しい学問分野ですが、「人類・現代文明の発展と存続」のために、重要な学問分野として、これからも、注目していくべきでしょう。

 「科学と人類の望ましい関係」をいかに構築していくか。

 この問題は、まさに、科学社会学、科学哲学の学者だけではなく、人類の知恵の働かせ所なのです。

 その際には、前述した、「『専門家主義』からの脱却」が強く求められることは、言うまでもありません。 

 

 

 (4)小林傳司氏の紹介

 

なお、ここで小林傳司氏の紹介をします。

小林傳司(こばやし ただし)

1954年生まれ。科学哲学者、大阪大学教授。1978年京都大学理学部生物学科卒、1983年東京大学大学院理学系研究科博士課程単位取得退学。1987年福岡教育大学講師、助教授、1990年南山大学人文学部助教授、教授、2005年大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授、副センター長を歴任。現在は、大阪大学理事(教育担当)、副学長。専門は、科学哲学・科学技術社会論。

主な著書・共編著として、

『誰が科学技術について考えるのか コンセンサス会議という実験』(名古屋大学出版会・2004)
『トランス・サイエンスの時代 科学技術と社会をつなぐ』(NTT出版ライブラリーレゾナント・2007)
『科学とは何だろうか 科学観の転換』(中島秀人、中山伸樹共編著・木鐸社・科学見直し叢書・1991)
『公共のための科学技術』(編 玉川大学出版部・2002)
『社会技術概論』(小林信一,藤垣裕子共編著・放送大学教育振興会・2007)
『シリーズ大学』(7巻 ・広田照幸,吉田文,上山隆大,濱中淳子と編集委員 ・岩波書店 ・2013~14)、
等があります。

 

 

(5)なぜ、2017年度センター試験で「科学論・科学批判」が出題されたのかー「科学論・科学批判」が最近の流行論点である理由

 

 「科学論・科学批判」は、東日本大震災以後、激増し、現在に続いています。その背景は、以下の通りです。

 以下は、2016・6・10に発表した「東大現代文対策ー3・11後の最新傾向分析①ー2012河野哲也」の記事の一部引用です。重要なポイントなので、再掲します。

 

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 「難関大学・センター試験の入試現代文(国語)・小論文に出題される「科学批判」(科学論)の論点・テーマは、3・11東日本大震災・福島原発事故以降、より先鋭化し、明らかに出題率も増加しています。
 3・11以前も、環境汚染・地球温暖化・チェルノブイリ原発事故等により、「科学批判」の論点・テーマは、一定の多くの出題がみられました。
 しかし、3・11以降は、「科学」に対する批判は明白に先鋭化し、「科学批判」の論点・テーマは出題率が増加しています。


 これは、考えてみれば、当然のことです。

 福島原発事故の際の、原子力村の学者達、地震学者達の無責任な「想定外」の連呼。

 崩壊した「安全神話」。

 今だに完全には収束していない福島原発の処理。

 これらをみれば、「科学」に対する厳しい批判的論考は、増えこそすれ、減ることはないでしょう。

 大学における現代文(国語)・国語入試問題作成者の「問題意識」も同じでしょう。

 たとえ、問題作成者の「問題意識」がそうでないとしても、入試現代文(国語)・小論文の世界は、「出典」の関係で論壇・言論界・出版界の影響を受けるのです」

(再掲終わりです)

 

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(今回の記事の、本来の記述に戻ります)


 以上の理由に加えて、最近では、人工知能・ドローン・最先端医療等により、科学技術のマイナス面への社会的関心がますます高まっています。従って、2017年度の入試現代文(国語)・小論文においても、「科学論・科学批判」は、最も注目するべき論点・テーマです。

 

 以下の記事に、最近、当ブログに発表した「科学論・科学批判」記事(4記事)の一覧があります。興味のある方は、参照してください。 

 

gensairyu.hatenablog.com

  

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今回の記事は、これで終わりです。

次回の記事は、約1週間後に発表の予定です。

 

 

  

 

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 小林傳司氏の最近の著書です。

トランス・サイエンスの時代―科学技術と社会をつなぐ (NTT出版ライブラリーレゾナント)

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公共のための科学技術

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朝日新聞デジタル

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↓本書は私の最新の参考書です。「科学批判・科学論」を重視しています。

頻出難関私大の現代文 (αプラス入試突破)

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