現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

予想問題・共謀罪(テロ等準備罪)ー賛成説・反対説のそれぞれの理由

(1)なぜ、この記事を書くのか?

 

  「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を設ける「改正組織犯罪処罰法」は、与野党の激しい駆け引きの末、2017年6月15日に成立しました。安倍晋三首相は「テロを未然に防ぐために、国際社会としっかり連携したい」と意義を強調しました。しかし、「特定秘密保護法」、「安全保障関連法」に続き、世論の賛否が分かれた中で、この法案を強引に成立させた安倍政権の手法に、野党側は「民主主義軽視」と主張しています。

 それ以外に、有力な憲法学者、刑法学者、国際法学者、危機管理学者、政治哲学者、法哲学者、文学者等も、この法案に関して、多くの反対説、賛成説の論考・見解を発表しています。

 この共謀罪(テロ等準備罪)は、内心の自由、思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー、監視社会、グローバル化のマイナス面、テロ、安心・安全、危機管理という重大な論点に関連しているからです。

 このようにな状況をみると、まさに、来年度の難関大学の入試現代文(国語)・小論文に出題される可能性が高いと予想されます。そこで、今回は入試現代文(国語)・小論文対策の視点から、共謀罪(テロ等準備罪)の問題点の解説をしていきます。

 

 なお、このような「政治的問題」は、政治的思想調査、政治的踏み絵になりかねないので、大学入試現代文(国語)・小論文に出題されない、と考えている人がいるようです。

 しかし、そうしたことは、ありません。

 最近でも、 慶応大学法学部・小論文で、「政治的問題」と言える「日本の戦後補償問題」が出題されています。

 

 以下では、次の項目を解説します。

(2)「共謀罪」と「テロ等準備罪」の違いは何か?

(3) 賛成説・反対説のそれぞれの理由・対立点

(4) まとめー賛成説・反対説の調和は可能か?

 

 

(2)「共謀罪」と「テロ等準備罪」の違いは何か?

 

  「共謀罪法」が国会で成立した翌日のほとんどの新聞は、この法案成立が一面トップ記事になりました。しかし、一部には「テロ等準備罪」と書いている新聞もありました。この違いは、「政府の提案理由」を認めるか否かの違いです。

 安倍政権は、以前に「共謀罪」を提出しても成立しなかったので、「テロ対策」を強調することで、成立を目指そうとしました。「オリンピックを控え、テロ対策が必要です」と国民に働きかけたのです。

 この手法を疑問視したメディアは、法案の根本的性質は変化していない評価して、「共謀罪」と表現しました。一方、政権支持派のメディアは、「テロ等準備罪」と表記しました。

 どのような呼び方をするかで、そのメディアの政治立場が鮮明になっています。

 

 

共謀罪の何が問題か (岩波ブックレット)

  

 

(3)賛成説・反対説のそれぞれの理由・対立点

 

①共謀罪・賛成説の理由

 

 政府側の説明、賛成説の理由は、主に、以下の二つです。

① 2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、国際的なテロを取り締まるために必要である

② 国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結するために必要である。

 

 たとえば、賛成派の『産経新聞』(産経抄・「共謀罪は世界の常識」2017年1月17日)は以下のように主張しています。

 

(概要です)

(赤字は当ブログによる「強調」です)

(青字は当ブログによる「注」です)

(以下、同様です)

「テロ組織に対応する国際組織犯罪防止条約は、共謀罪を盛り込んだ国内法の整備を締結の条件としている。締結していないのは、先進7カ国では日本だけだ。それどころか、国連加盟国のなかでも11カ国にすぎない。テロの事前情報がやりとりされるネットワークからはずれ、蚊帳の外に置かれたままでいいはずがない。共謀罪を敵視する政党やメディアは、日本が孤立を深めテロの標的となるのを座視せよ、とでもいうのか。」(産経抄・「共謀罪は世界の常識」『産経新聞』2017年1月17日)

 

 また、賛成説の宮家邦彦氏 (立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)は、以下のように主張しています。

「  今回は立法に関する日本と欧米諸国との考え方の違いについて考えてみたい。

 共謀とは英語でコンスピラシー、つまり「徒党による謀議、合意」を意味する。英米法では「反社会的な目的を達成するため秘密行動を決意する」行為自体に刑事責任が問われる。英国の共謀罪は「コモンロー」、すなわち中世以来イングランドで発展した伝統、慣習、先例に基づく判例法の一部として確立したそうだ。これに対し共謀罪が成文法上の犯罪である米国でも、その定義は英国のコモンローに基づくという。法案に反対する識者は英米で共謀罪が労働運動や反戦運動に適用されたことを批判している。

 では、英米以外はどうか。欧州大陸諸国は英米的「判例法」ではなく「成文法」主義だ。興味深いことに、大陸諸国の多くは組織犯罪に対して「徒党による合意」ではなく、「犯罪組織への参加」自体の刑事責任を問う。つまり、具体的行為に関する共謀がなくても、その種の組織に参加するだけでアウトなのだ。

 OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国をみると、上記のような英米法的「合意罪」を採用する国が7カ国、大陸法的「参加罪」採用が13カ国、両者を併用する国が14カ国となっている。もうお分かりだろう。最後の1カ国、すなわち「合意罪」も「参加罪」も採用していない唯一の国が、わが日本なのだ。

(→当ブログによる「注」→グローバルスタンダード(国際基準)と日本の、大きなズレを指摘しているのです。日本のマスメディアの大半が、この点を報道しないのは、不思議です。自分達の主張に不都合なグローバルスタンダードは無視する、日本のマスメディアの手法、ご都合主義が、この論点にも、見られます)

 日本の刑法体系は「法益侵害行為」のみを罰する古典的建前が基本だから、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)が求めるような「合意罪」または「参加罪」のいずれも刑事責任を問えない。しかし、IT技術の発達により情報の処理伝達速度が飛躍的に向上した21世紀に侵害行為の発生を待っている余裕はない。

 テロ等準備罪は対象が組織的犯罪集団に限られる。一般人は調査対象とはなっても、捜査対象になる可能性は極めて低い。TOC条約は既に世界の187カ国・地域が締結した。世界のテロリストがネット技術を駆使し、ネット上で重大テロ事件を計画・実行する現実に鑑みれば、オリンピックなどのスポーツイベントの有無にかかわらず、日本が新たに立法措置をとるのは至極当然であろう。

 277もの犯罪が対象で冤罪(えんざい)を生む恐れがあるとの批判には、運用の厳格化で対処すればよい。そのためのプロ・専門家による国会審議ではないのか。やはり、客観的に見て、テロ等準備罪創設の機は熟していると考える。(宮家邦彦の World Watch ー「テロ等準備罪審議は『反対のための反対』そのものではないか」『産経ニュース』2017年4月27日)

 

 さらに、危機管理学の専門家である福田充氏(日本大学危機管理学部次長・ 教授 )は、賛成説の立場から、以下のような見解を述べています。 

「  テロ対策は国際協調が原則となる。国際的なネットワークに参加してはじめてインテリジェンス(→「インテリジェンス」→日本語では「情報活動・諜報活動」とも訳される「インテリジェンス」活動は、政策立案のために要求される情報を収集・分析・評価・共有して、政策化するために、たんなる寄せ集めのインフォメーション(情報)を、インテリジェンス(知恵)に変える活動」)の機能が発揮され、テロ情報を得ることができる。テロ等準備罪には賛成だ。国際協調路線を歩む先進国として必要不可欠な法体系だからだ。」 (福田充「テロ等準備罪を考える 国際協調へ法制度構築を」 『産経ニュース』2017年4月3日 )

 

 (共謀罪・反対説からの反論)

 一方で、以上の賛成説に対して、高山佳奈子氏は、『共謀罪の何が問題か』(岩波ブックレット)の中で、以下のように反対説を主張しています。

「  一言で断じれば、政府側の説明は、『全くのウソ』である。そして、『テロ対策』という面に局限すると、これまで日本はテロ対策として、国際条約や安保理決議ができる度に、比較的迅速に国内立法を行ってこれらを実施してきており、国連体制が要求するテロ対策は完備している。それ故、共謀罪法案は、テロ対策立法の内実を含んでいない。」(『共謀罪の何が問題か』高山佳奈子・岩波ブックレット)

 すなわち、高山氏は、「『国際組織犯罪防止条約』の主旨は、マフィア対策を目的として、『組織的な経済犯罪』をターゲットとしており、テロ対策を目的としていない。この観点から法案に挙げられた277の対象犯罪を眺めると、必要なもの(所得税法等)が除外されている。一方、テロ関係の犯罪は条約を批准するためには不要である。」と主張するのです。

 

 この点について、さらに、詳説します。

 これは、「立法理由」への疑問の提示です。政府や法案賛成派の有識者は、上記のように、この法案が、「マフィアなどによる犯罪の防止を目的とした、国際組織犯罪防止条約を参加するために必要だ」と主張します。

 このことについて、木村草太氏(首都大学東京大学院教授)は、以下のように述べています。

 「確かに、同条約は、加盟国の義務として、共謀罪か犯罪組織参加罪を法定することを要求しています(条約5条)。しかし、多くの専門家は、現行法のままでも、日本は条約を締結できるはずだと指摘するのです。なぜなら、条約全体の体系からは、必ずしも共謀罪・参加罪を法定せずとも、マフィアや暴力団などの犯罪組織による重大犯罪を効果的に防止する措置が取られていれば、加盟国の義務は果たせると解釈できるからです。

 実際、2004年に出された同条約についての『立法ガイド』では、共謀罪・参加罪の法定は必須ではないとされており、いずれも設けないで条約を批准した国も多いようです。また、2012年の国連文書でも、必ずしも条約の文言通りの法制をとらないカナダやフランスなどの立法例が紹介されています。条約の認める選択肢は広く、批准後に、問題が指摘されてから対応することもできよう。」 (木村草太「木村草太の憲法の新手(56)  テロ等準備罪法案 問題山積、いったん廃案に」『沖縄タイムス』2017年5月21日)

 

 また、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の専門家からも、安倍政権の手法を批判する意見があります。TOC条約締結に関し各国の指針となる国連の「立法ガイド」を執筆したニコス・パッサス氏(刑事司法学者)が、東京新聞のインタビューに答えて、以下のように語っています

「英国は長年TOC条約のメンバーだが、テロが起きた。条約を締結したからといってテロを止めることにはならない。」

条約そのものは、プライバシーの侵害につながる捜査手法の導入を求めていない。何を導入するかは国内で話し合って決める問題だ。新たな法案などの導入を正当化するために条約が利用されてはならない」(『東京新聞』2017年6月5日)

 要するに、「五輪のテロ対策でTOC条約を結ぶために、共謀罪法案が必要不可欠」という政府の説明に、疑問を提示しているのです。

 

→この論点は、少々、専門的・技術的なので、細かい点は、大学入試に出題される可能性は低いと思われます。しかし、予備知識として、概要は知っておく価値は、あります。「立法理由」が不十分であれば、「人権・自由」を制限する法律を制定する必要はないからです。

 

②共謀罪・反対派の意見

 

反対派の理由としては、主に、以下の4点があげられます。

①「テロは、現行法で対策できる」

 この点については、既述しました。

 なお、「現行法」とは、組織犯罪処罰法や暴対法、予備段階で爆発物や化学兵器を取り締まる法律などを指しています。なおハイジャックや、サリンなどを使用した毒物テロについては、現行法(前者は「航空機の強取等の処罰に関する法律第3条」、後者は「サリン等による人身被害の防止に関する法律第5条第3項」)でも「予備」の段階で処罰が可能です。

 「さらに、日本ではすでに、国連の主要なテロ防止条約13本を締結しており、国内法整備も整っている」と、反対説は説明しています。

 

②「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)に対して、国内法を整備することは、条約を締約した国に任せられている」

   「条約を締約した国に任せられている」点については、既述しました。TOC条約の第34条第1項、国連「立法ガイド」の第51項を参照してください。

 国際組織犯罪防止条約(TOC条約。「パレルモ条約」とも言われています)は、そもそもテロ対策の条約ではなく、マフィアや暴力団対策のためのものです。

 そして、日本は暴力団対策も進んでいるうえに、重大犯罪については予備罪で処罰されます。

 しかも、日本では、「予備罪の共謀共同正犯」が判例で認められ、予備行為に関わった人は、みんな逮捕できます。従って、共謀罪法案がなくてもTOC条約を批准できるだろうというのは、多くの専門家の意見です。

 

③「一般人も、捜査の対象になり得る曖昧性があるので、問題である」

④「プライバシー、内心の自由、表現の自由、の重大な侵害という観点から、違憲である」

→これらの論点は、出題可能性が、かなり高いと予想されます。よく理解するようにしてください。

 2017年4月21日、この法案の審議中、盛山正仁法務副大臣は「一般の人が(捜査の)対象にならないということはないが、ボリュームは大変限られている」と述べました。しかし、2017年4月28日には「通常の団体に属し、通常の社会生活を送っている一般の方々は捜査の対象にならず、処罰されることはない」とも答弁しました。

 

 この点に関して、高山佳奈子氏は、『共謀罪の何が問題か』の中で、

「『共謀罪法案』が、

(1)対象を『犯罪組織集団』に限定すること、

(2)重大犯罪の『計画』を要件とすること、

(3)『実行準備行為』を要件とすること、

は、どれも実は限定になっていない」と述べています。

 

つまり、高山氏は、同書の中で、以下のような内容を述べています。概要を引用します。

(1)「組織的犯罪集団」について→「法案の条文における『組織的犯罪集団』には何の要件もつけられていません。つまり、事前の認定や指定がいらないばかりか、過去に違法行為を行ったこと等も要件とされていません。つまり、集団であれば、ある時点からこれに該当すると判断されてしまうのです(最高裁平成27年9月15日)。したがって、一般人の集団が突然、本法案の対象となってしまう危険性があります。」

(2)「計画」について→「法案の条文における『計画』にも何の要件もつけられていません。そのため、目配せはもちろんのこと、LINEや電子メールなど、どのような方法でも該当してしまいます。」

(3)「実行準備行為」について→「これまで、日本の裁判所は、ある行為を危険犯や予備罪として処罰するためには、それに値するだけの実際的な危険がなければならないとしてきました。これは憲法31条の適正手続の保障の要請でした。しかし、新設されようとしている『実行準備行為』は『関係場所の下見』などを例として『その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為』と無制限に規定しています。ですからどのような行為も該当してしまうことになります。

 ある場所にいくことが、散歩なのか、犯罪の準備行為なのか、客観的には指標は何もありません。両者の違いは内心の目的のみです。『共謀罪は内心を処罰するものだ』と批判されるのはこのためです。内心を処罰される可能性があるということは、『思想・内心の自由』を侵すことを禁止する憲法19条に反している、と判断できるのです。」(『共謀罪の何が問題か』51頁)

 

 この法案には、高山氏の述べるような危険性が、確かに、あります。

 従って、国際社会からも次々と批判が出ています。

 たとえば、世界の約2万6000人の作家達が参加する国際組織「国際ペン」(本部・ロンドン)は6月5日、ジェニファー・クレメント会長の名前で、共謀罪法案に反対する声明を発表しました。「同法が成立すれば、日本における表現の自由とプライバシーの権利を脅かすものとなるであろう」として、「日本国民の基本的な自由を深く侵害することとなる立法に反対するよう、国会に対し強く求める」としています。

 国際ペンが、日本の国内法案について反対声明を出すのは2013年の特定秘密保護法案以来で、異例のことです。

 すでに2月に反対声明を出している日本ペンクラブ会長の浅田次郎も「国際ペンの反対声明を心強く思う。その半面、恥ずかしい。本来は、外国の方からこれは本当はこうだろうというようなことを言わせてはならない。どう考えても、この法律は必要だとは思えない」と語りました。

 

 (共謀罪・賛成説からの反論)

 以上の点について、共謀罪賛成説は、前記のように、「テロの効果的防止のためには、ある程度、『内心の自由』の侵害が発生しても仕方がない」という見解を主張しているのです。 

 言い換えれば、「内心のチェック」こそ、「テロの効果的防止」の重要ポイントと考えているのです。

 この記事の前半で、共謀罪賛成説の宮家邦彦氏の見解を既述しましたが、見解のポイントを再掲します。

「  日本の刑法体系は「法益侵害行為」のみを罰する古典的建前が基本だから、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)が求めるような「合意罪」または「参加罪」のいずれも刑事責任を問えない。しかし、IT技術の発達により情報の処理伝達速度が飛躍的に向上した21世紀に侵害行為の発生を待っている余裕はない。」(宮家邦彦の World Watch ー「テロ等準備罪審議は『反対のための反対』そのものではないか」『産経ニュース』2017年4月27日)

 

 同様の趣旨を、井田良氏(中央大大学院教授・刑法)も主張しています。以下に引用します。

「  組織的犯罪集団や準備行為などが明文化されたことで、立証のハードルは高く、頻繁には適用されない。処罰対象が大幅に広がる懸念については、慎重な検討を必要とする。しかし、いま止めないと、取り返しが付かない危険をはらんだ犯罪の容疑者を捕まえようという場合、内心を見るのは当然である。」(「『共謀罪』参考人質疑 反対派『監視を危惧』 賛成派『乱用の危険ない』」・『東京新聞・夕刊』2017年4月25日)

 

テロとインテリジェンス―覇権国家アメリカのジレンマ

 

 

(4)まとめー賛成説・反対説の調和は可能か?

 以上のように、「安心・安全のためのテロ対策」を重視するか、「自由・人権」を重視するか、によって、共謀罪法案に対する評価は、大きく対立しています。

 しかし、「安心・安全」と「自由・人権」のいずれも、人間の生存・存立に必要不可欠な「価値・利益」です。

 従って、以上の賛成説と反対説を調和させることを考慮する必要があります。

 この点については、福田充氏の、以下の見解が、とても参考になります。 

「  危機管理の要はインテリジェンス

 現代的リスクの特徴はグローバル化であるである。グローバリゼーションにより、現代のリスクはグローバル化し、危機管理も国際協調が求められる時代となった。ウルリッヒ・ベックが指摘したグローバル・リスクには、(1)環境問題、(2)金融危機、(3)国際テロリズムの3つがあるが、現代においては食品の安全・安心から、原子力問題、海外旅行、戦争・紛争まで幅広くあらゆるリスクがグローバル化しているといえる。(福田充『リスク・コミュニケーションとメディア』北樹出版 )

 こうしたグローバルなリスクに対して、危機を未然に防ぐためのリスク・マネジメントに求められている能力は「インテリジェンス」である。日本語では情報活動、諜報活動とも訳されるインテリジェンス活動は、政策立案のために要求される情報を収集し、分析し、評価し、共有して、政策化するために、たんなる寄せ集めのインフォメーション(情報)を、インテリジェンス(知恵)に変える活動である。(福田充『テロとインテリジェンス』慶應義塾大学出版会)

 世界中でそして日本中で発生している事案について、幅広く情報収集し、それを他人事とするのではなく、自分事として活かして、自分の組織の危機を未然に防ぐための知恵とするインテリジェンス的思考が現代の日本人に求められている。

 

   「安全・安心」と「自由・人権」

 インテリジェンス能力の強化を伴う危機管理には、さまざまな方法、手段による情報収集、監視活動が伴うことになる。その監視の対象が火山であったり河川であったりする自然災害対策における監視活動、情報収集では、政治的価値をめぐる問題は発生してこなかった。しかしながら、その監視活動や情報収集が人や組織、国を対象としたものとなるとき、イデオロギーや政治的価値をめぐる根本的な問題が発生する。

 防犯対策やテロ対策のために街頭や駅、空港などの公共施設に監視カメラを設置する場合、または戦争を防ぐための外交、テロ対策のために実施される通信傍受において電話やメールなどが傍受される場合、個人のプライバシーなどの人権や自由が損なわれる事態が発生する可能性がある。アメリカで発生したスノーデン事件は、国家安全保障局(NSA)による世界中での通信傍受の実態が暴露された典型的な事件であった。

 テロや戦争を未然に防ぐためには、こうしたインテリジェンス活動は不可欠であり、それにより国民の「安全・安心」は守られるが、そのインテリジェンス活動が行きすぎると、国民の「自由・人権」が損なわれるという政治的価値をめぐるトレードオフ(→「両立しない関係」という意味)の問題が発生する。危機管理をめぐって、この「安全・安心」と「自由・人権」のバランスを取るための国民的な議論と合意形成こそ、現代の日本に必要である。

( 「危機管理学とは何か」福田充(日本大学危機管理学部教授)『PHPオンライン  衆知』2016年12月20日)

 

 さらに、福田充氏は、「リベラル(→「自由主義的」という意味)で民主的な危機管理の構築」について、言及しています。この論考は、秀逸な発想に充ちています。この論考の方向性が、現状では、理想的な方向性でしょう。実現は、かなり困難でしょうが、検討するべき重要な提案です。 

 以下に、引用します。

「  共謀罪・バランスが大切

 テロリズムのための道具の準備、資金の準備を把握するためには、準備行為を監視し、実行準備行為を捕捉しなくてはならない。そのためには通信傍受によるシギント(SIGINT)、情報衛星や監視カメラなどによるイミント(IMINT)などのインテリジェンス活動の強化が求められる。そこで課題となるのは、テロリズムを防止するための「安全・安心」の価値と、テロ対策によって影響を受ける「自由・人権」の価値のバランスをどうとるかという問題である。国民の「自由・人権」を守りながら、テロ対策を実行するために、リベラルで民主的な危機管理をどう構築していくか、これが最も重要な課題である。

(「テロを知らない日本人でもよく分かる『共謀罪』議論の核心」福田充『 iRONNA・産経デジタル』)

 

 「安心・安全」、「自由・人権」の論点は、世界的に問題化している、緊急かつ重大な論点です。日本人も、自分達の問題として、真剣に考察するべきです。

 大学入試においても重要ですが、受験生は、自分の人生の重要問題として、国民主権の当事者として、この問題を考え続けるべきでしょう。

 この論点については、当ブログにおいても、さらに取り上げていく予定です。

 

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 今回の記事は、これで終わりです。

 次回の記事は、約1週間後に発表の予定です。

 ご期待ください。

 

    

 

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