予想問題/『陰翳礼讃』谷崎潤一郎/2014早大政経過去問
(1)なぜ、この記事を書くのか?→擬古文・文語文を得意分野にしよう。
大学入試現代文(国語)・小論文における、擬古文(および、擬古文的な、一時代前の読みにくい文章、文語文)の出題率は、決して低下していません。
むしろ、最近では、じわじわ増加しています。
入試頻出分野と言えます。
最近では、2013年のセンター試験で、小林秀雄氏の「鐔」が出題され、この問題に対して、「一時代前の文章で読みにくく、問題として不適切ではないか」という批判がありました。
この種の意見は、難関国公立・私立大の入試の実態を知らない人々から出された、ある意味で無責任なものです。
受験生としては、冷静に、正確な入試の情報を入手して、合理的で、賢明な対応をとるべきです。
【 最近の、擬古文・文語文の出題状況 】
① センター試験
1991ー夏目漱石「道草」
1997ー島崎藤村「夜明け前」
2004ー森鴎外「護持院原の敵討」
2008ー夏目漱石「彼岸過迄」
2013ー小林秀雄「鐔」
② 難関国公立・私立大(一部です)
東北大ー岡本かの子、横光利一、
一橋大ー中江兆民、福沢諭吉、津田左右吉、
京都大ー岡倉天心、福地桜痴、西田幾多郎、福沢諭吉、永井荷風、
大阪大ー柳田国雄、永井荷風、岡本かの子、中島敦、
広島大ー久米正雄、
早稲田大(政経)ー高村光太郎、夏目漱石、木下杢太郎、岡本綺堂、正岡子規、
早稲田大(文化構想)ー北村透谷、南方熊楠、
早稲田大(国際)ー夏目漱石、森鴎外、二葉亭四迷、
上智大(法)ー津田左右吉、夏目漱石、
上智大(経済)ー坪内逍遙、福沢諭吉、夏目漱石、徳富蘆花、中江兆民、
上智大(文)ー幸田露伴、
中央大(法)ー穂積陳重、夏目漱石、吉野作造、
明治大(法)ー安部磯雄、幸田露伴、穂積陳重、
立教大(文)ー安部次郎、葉山嘉樹、
法政大ー梶井基次郎、柳宗悦、
立命館大ー長谷川如是閑、
以上は、最近、出題された例の、ほんの一部です。
上記の、東北大、一橋大、京都大、大阪大、広島大、早稲田大(政経)(文化構想)(国際)、上智大(法)(経済)(文)、中央大(法)、明治大(法)、立教大(文)、法政大、立命館大などを目指す受験生が、擬古文・文語文問題対策をするべきなのは当然です。
また、それまで擬古文・文語文を出題しなかった大学・学部が、突然、擬古文を出題することも、よくあります。
従って、油断は禁物です。
いかにも読みにくい擬古文・文語文は、頻繁に出題されているのです。
現代文の引用文が擬古文・文語文という問題も、頻出です。
よって、なるべく早く、擬古文・文語文対策をとることが大切だと思います。
なお、擬古文・文語文対策をやっておくと、漢文・古文(特に、江戸時代)の文章読解、古文・漢文の漢字・単語問題(読み問題・意味問題)にも、かなり、役に立ちます。
なお、今回の項目は以下の通りです。
今回の記事は、約1万字です。
(2)予想問題/『陰翳礼讃』谷崎潤一郎/2014年早稲田大政経・過去問
(3)補充解説
(4)擬古文・文語文対策ー擬古文・文語文解法のポイント・注意点
(5)当ブログにおける「擬古文・文語文」関連記事
(2)予想問題/『陰翳礼讃』谷崎潤一郎/2014年早稲田大政経・過去問
(問題文本文)
(赤字は当ブログによる「強調」です)
(青字は当ブログによる「注」です)
(問)次の文章は、谷崎潤一郎が自宅を新築したときの体験をふまえて1933(昭和8年)に書いた『陰翳礼讃』の一節である。現在から判断すると、時代的な制約をもった記述も含まれるが、日本建築の独自性を厠(かわや)(便所)に見いだして論じたユニークな文章である。これ読んで、あとの問いに答えよ。
私は、京都や奈良の寺院へ行って、昔風の、うすぐらい、そうしてしかも掃除の行き届いた厠へ案内される毎に、つくづく 1 日本建築の有難みを感じる。茶の間もいいにはいいけれども、日本の厠は実に精神が安まるように出来ている。それらは必ず母屋(おもや)から離れて、青葉の匂や苔の匂のして来るような植え込みの蔭に設けてあり、廊下を伝わって行くのであるが、そのうすぐらい光線の中にうずくまって、ほんのり明るい障子の反射を受けながら瞑想に〔 A 〕り、または窓外の庭のけしきを眺める気持は、何とも云えない。漱石先生は毎朝便通に行かれることを一つの楽しみに数えられ、それは寧(むし)ろ生理的快感であると云われたそうだが、その快感を味わう上にも、閑寂な壁と、清楚な木目に囲まれて、眼に青空や青葉の色を見ることの出来る日本の厠ほど、恰好な場所はあるまい。そうしてそれには、繰り返して云うが、或る程度の薄暗さと、徹底的に清潔であることと、蚊の呻うなりさえ耳につくような静かさとが、必須の条件なのである。私はそう云う厠にあって、しとしとと降る雨の音を聴くのを好む。殊に関東の厠には、床に細長い掃き出し窓がついているので、2 軒端 や木の葉からしたたゝり落ちる点滴が、石燈籠の根を洗い飛び石の苔を湿おしつゝ土に沁み入るしめやかな音を、3 ひとしお 身に近く聴くことが出来る。まことに厠は虫の音によく、鳥の声によく、月夜にもまたふさわしく、四季おりおりの物のあわれを味わうのに最も適した場所であって、恐らく古来の俳人は此処から無数の題材を得ているであろう。されば日本の建築の中で、一番風流に出来ているのは厠であるとも云えなくはない。総(す)べてのものを詩化してしまう我等の祖先は、住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を、〔 B 〕、雅致のある場所に変え、花鳥〔 C 〕月と結び付けて、なつかしい連想の中へ包むようにした。これを西洋人が頭から不浄扱いにし、公衆の前で口にすることをさえ忌むのに比べれば、我等の方が遙かに賢明であり、真に4 風雅の骨髄を得ている。強いて缺点を云うならば、母屋から離れているために、夜中に通うには便利が悪く、冬は殊に風邪を引く憂いがあることだけれども、「風流は寒きものなり」と云う斎藤緑雨の言の如く、ああいう場所は外気と同じ冷たさの方が気持がよい。ホテルの西洋便所で、スチームの温気がして来るなどは、まことにイヤなものである。ところで、数寄屋普請を好む人は、誰しもこう云う日本流の厠を理想とするであろうが、寺院のように家の廣い割りに人数が少く、しかも掃除の手が揃っている所はいいが、普通の住宅で、ああいう風に常に清潔を保つことは容易でない。取り分け床を板!張りや畳にすると、礼儀作法をやかましく云い、雑巾がけを 5 レイコウ しても、つい汚れが目立つのである。で、これも結局はタイルを張り詰め、水洗式のタンクや便器を取り附けて、浄化装置にするのが、衛生的でもあれば、手数も省けると云うことになるが、その代り「風雅」や「花鳥〔 C 〕 月」とは全く縁が切れてしまう。彼処がそんな風にぱっと明るくて、おまけに四方が真っ白な壁だらけでは、漱石先生のいわゆる生理的快感を、心ゆく限り享楽する気分になりにくい。〔 D 〕、隅から隅まで純白に見え渡るのだから確かに清潔違いないが、自分の体から出る物の落ち着き先について、そうまで念を押さずとものことである。いくら美人の玉の肌でも、お臀や足を人前へ出しては失礼であると同じように、ああムキ出しに明るくするのはあまりと云えば無躾(ぶしつけ)〔 E 〕、見える部分が清潔であるだけ見えない部分の連想を挑発させるようにもなる。やはりああいう場所は、もやもやとした薄暗がりの光線で包んで、何処から清浄になり、何処から不浄になるとも、けじめを朦朧(もうろう)とぼかして置いた方がよい。まあそんな訳で、私も自分の家を建てる時、浄化装置にはしたものの、タイルだけは一切使わぬようにして、床には楠(くすのき)の板を張り詰め、日本風の感じを出すようにしてみた。(『陰翳礼讃』谷崎潤一郎)
ーーーーーーーー
(設問)
問1 傍線部 1 「日本建築の有難みを感じる」の説明として最適なものを次の中から選べ。
イ 日本建築のすばらしさは厠においてきわまり、物のあわれを基本とする日本文化の美点がそこにすべて集約しているということ。
ロ 日本建築の魅力は寺院などの広い家において最もよく発揮されるものであり、普通の住宅でその魅力を取り入れられるのは厠くらいものだということ。
ハ 日本建築のよさを感ずるためには薄暗さと静寂さとを必要とするが、西洋の近代文明においては、いずれも求めがたい価値観だということ。
ニ 日本建築は薄暗くて不便で使い勝手がよいとはいえないが、その暗さにも精神のやすらぎと落ち着きとを与えてくれるものがあるということ。
ホ 日本建築の美しさは自然の中で森羅万象と融和のうちにあり、その最もよい例が厠のもたらす生理的快感であるということ。
問2 空欄Aには漢字1字が入る。次のイ~ホのカタカナ部分の中から、その漢字を含むものを一つ選べ。
イ 屋根からツイラクする。
ロ 飛行機が降下する。
ハ 趣味にタンノウする。
ニ 勉強にボットウする。
ホ 泥がチンデンする。
問3 傍線部 2 の漢字の読みをひらがなで、傍線部5のカタカナを漢字で、それぞれ記せ。
問4 傍線部 3 「ひとしお」の意味として最適なものを次の中から一つ選べ。
イ 一向 ロ 一興 ハ 一方 ニ 一度 ホ 一段
問5 空欄B・Dに入る最適な語句を、次の中から、それぞれ選べ。ただし、同じ語句は入らない。
イ ところで ロ だから ハ なるほど ニ かえって ホ したがって
問6 空欄C・Eに入る最適な漢字一字を、それぞれ記せ。
問7 傍線部 4 「風雅の骨髄」を筆者はどのようなものと考えているのか。最適なものを次の中から一つ選べ。
イ 不潔であるべきところを徹底的に美化して清潔にすること。
ロ すべてのものを詩化して現実の不浄から眼をそらせること。
ハ 公衆の前で口にするのもはばかれることを包み隠さないこと。
ニ 強いて欠点をも押し隠さずに痩せ我慢をして堪えること。
ホ 直接性をきらって何ごとも朦朧とぼかしてはっきりさせないこと。
問8 本文の趣旨と一致しないものを、次の中から一つ選べ。
イ 日本の近代化は西洋化でもあったけれど、建築においてもわが国独自のいいところがたくさんあるにもかかわらず、それらを十分に活かしきれておらず、もっとそうしたものを取り入れるようにすれば、私たちの感性に活かします適したものとなってゆくはずである。
ロ それぞれの国の文化は各国で培われてきた伝統的な背景があるので、それらをまったく無視して西洋文化をやみくもに模倣することで近代化を押し進めていったとしても、私たちの感覚になじまない白々しいものとなってしまうだけである。
ハ 厠といったものは最も人の眼から隠しておきたいもので、母屋から遠く離してつくるのが理想だが、寺院などの広い家ならばいざ知らず、普通の住宅ではそうもゆかないので、その代わりに浄化装置が取りつけられるようになった。
ニ 私たちは西洋から近代的な文明の利器を取り入れて、生活に物質的なゆとりと豊かさと利便性とを獲得してきたが、その代償として祖先から育まれてきた精神にやすらぎを与えるような伝統的な感性を失ってしまったといえる。
ホ 私たちの伝統的な文化においては最も人前をはばかる不浄なものを極力人前から遠ざけると同時に、自然のうちにそれを調和させるように心がけてきたが、清潔さを第一に求めるあまりに、近代以降そうした配慮も次第に失われてきている。
問9 谷崎潤一郎の作品を次の中から一つ選べ。
イ 刺青 ロ 草枕 ハ 或る女 ニ 夜明け前 ホ 暗夜行路
ーーーーーーーー
(解答・解説)
問1(傍線部説明問題)
以下の部分がポイントになります。
傍線部を含む一文 「私は、京都や奈良の寺院へ行って、昔風の、うすぐらい、そうしてしかも掃除の行き届いた厠へ案内される毎に、つくづく 1 日本建築の有難みを感じる」
本文中央部 「まことに厠は虫の音によく、鳥の声によく、月夜にもまたふさわしく、四季おりおりの物のあわれを味わうのに最も適した場所であって、恐らく古来の俳人は此処から無数の題材を得ているであろう。されば日本の建築の中で、一番風流に出来ているのは厠であるとも云えなくはない。総(す)べてのものを詩化してしまう我等の祖先は、住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を、〔B=かえって〕、雅致のある場所に変え、花鳥〔C=風〕月と結び付けて、なつかしい連想の中へ包むようにした。」
以上を総合的に考えれば、「厠」と「日本の文化の美点」の密接な関係に留意しているイが正解となります。
ロとハは、「厠」と「日本の文化の美点」に注目していないので、誤りです。
二とホは、「日本の文化の美点」についての記述が曖昧で誤りです。
また、ホの「生理的快感」は、夏目漱石の例で出されているだけです。
(解答) イ
問2(空欄補充問題・漢字問題)
空欄直前の「瞑想に」に注目すると、「耽る(ふける)」が入ります。
よって、「耽溺」のハが正解になります。
他の選択肢は、イ=墜落、ロ=降下、二=没頭、ホ=沈殿(沈澱)
(解答) ハ
問題3(漢字問題)
2の「軒端」(のきば)とは、 「軒の先端。 軒に近い所」という意味。
(解答) 2=のきば 5=励行
問4 (語彙問題)
「ひとしお」は「一入」と書きます。
「ひとしお」の類語として、「一段と。更(さら)に。一層。一際(ひときわ)。以前にも増して」があります。
(解答) ホ
問5(空欄補充問題・接続語)
空欄Bの直前は「住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を」であり、直後は「雅致のある場所に変え、花鳥〔C=風〕月と結び付けて、なつかしい連想の中へ包むようにした」雅致のある場所」です。
従って、正反対の結論を導く「かえって」が入ります。
空欄Dは、直後の文が「隅から隅まで純白に見え渡るのだから確かに清潔には違いないが」と、逆接の「が」で終わる譲歩文になっていることに着目してください。
Dには、譲歩文を導く「なるほど」が入ります。
(解答) B=ニ D=ハ
【「譲歩表現(譲歩構文)」の重要性・「譲歩表現(譲歩構文)」をマスターするポイント】
「譲歩表現(譲歩構文)」については、現代文の参考書よりも、「英文法」、「英語構文」、あるいは、「英語長文読解」の、(厚い)参考書に詳しく解説してあるので、それらを参照する方が賢明です。
現代文(国語)・小論文の読解においては、この「譲歩表現(譲歩構文)」を、いかにマスターするかが、大ポイントになります。
「譲歩表現(譲歩構文)」のパターンは、かなり多いのです。
つまり、「なるほど・・・・しかし」と同内容の「譲歩表現(譲歩構文)」と同様のパターンは、日本語の接続語が多彩である上に、著者がアバウトに使用することもあるので、かなり多いのです。
現代文の参考書などでは(過失か故意か不明ですが)、「『譲歩表現(譲歩構文)』のパターンは、20、または、30」と書いてあるようです。
が、それは、明らかに少なすぎます。
それを見て、油断しない方がよいと思います。
かなり多いので、完全マスターは困難ですが、なるべく多く覚えるようにしてください。
その姿勢を持てば、入試には対応できます。
問6(空欄補充問題・四字熟語)
C→「花鳥風月」
E→「不躾千万」
いずれも基礎的な問題です。
(解答) C=風 E=千
本文は読みにくいですが、全設問の半分以上が語彙力・単語力、文学史を問う問題です。
難解な本文を見ただけで簡単に諦めないことが大切です。
本文よりも、設問から先に見ることを勧めていることの理由の一つは、設問のレベルや内容を前もって知ることにより、ヤル気が違ってくることがあります。
入試合格・勝負のポイントは「粘り」です。
擬古文、文語文問題は、このような知識重視型の問題が多いのです。
単語力・語彙力をアップするようにしてください。
本問をやることにより、大学側の教養重視、語彙力重視の姿勢が、よく分かると思います。
模擬試験とは、違います。
入試過去問をやることの必要性を実感してください。
(私は、本来、キーワードのマスターや語彙力・単語力の増強をしないで、現代文・小論文で、数多くの問題を解いていくこと(問題演習)は、無意味であると思っています。
キーワードや語彙・単語の知識が不充分なまま、現代文・小論文の問題を解いてみても、結局は、それらの不足を痛感するだけです。)
問7(傍線部説明問題)
傍線部の直前部分に着目してください。
傍線部の「風雅の骨髄」が、「西洋人のトイレに対する考え方」との対比で論じられている点に注目してください。
筆者は文章の最終部分で、「清潔さ」を重視するあまり「ムキ出しに明るくした」西洋風のトイレを批判しています。
つまり、「いくら美人の玉の肌でも、お臀や足を人前へ出しては失礼であると同じように、ああムキ出しに明るくするのはあまりと云えば無躾(ぶしつけ)〔E=千万〕、見える部分が清潔であるだけ見えない部分の連想を挑発させるようにもなる。やはりああいう場所は、もやもやとした薄暗がりの光線で包んで、何処から清浄になり、何処から不浄になるとも、けじめを朦朧(もうろう)とぼかして置いた方がよい。」と記述しています。
この内容に合致するのは、ホです。
イは、「総(す)べてのものを詩化してしまう我等の祖先は、住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を、〔B=かえって〕、雅致のある場所に変え、花鳥〔C=風〕月と結び付けて、なつかしい連想の中へ包むようにした。」に反しています。
ロは、「現実の不浄から眼をそらさせること」の部分が誤りです。
ハは、「西洋式トイレ」の特徴と言えます。
二は、「痩せ我慢をして堪えること」の部分が誤りです。
(解答) ホ
問8(趣旨合致問題)
問題文本文を熟読する前に、この問8に注目すると、戦いを有利に進めることが出来ます。
ハの「厠といったものは最も人の眼から隠しておきたいもので、母屋から遠く離してつくるのが理想」という「厠」の存在を否定的にとらえる部分が、筆者の主張に反しています。
(解答) ハ
問9 (文学史問題)
「文学史問題」は、貴重な得点源です。
マメに暗記するようにしてください。
ロ 『草枕』 は、夏目漱石、
ハ 『或る女』は、有島武郎、
二 『夜明け前』は、島崎藤村、
ホ 『暗夜行路』は、志賀直哉。
(解答) イ
ーーーーーーーー
(3)補充解説
問題文本文の最終部分は、少々、改変があります。
原文では以下のようになっています。
「 そんな訳で、私も自分の家を建てる時、浄化装置にはしたものの、タイルだけは一切使わぬようにして、床には楠の板を張り詰め、日本風の感じを出すようにしてみたが、さて困ったのは便器であった。と云うのは、御承知の如く、水洗式のものは皆真っ白な磁器で出来ていて、ピカピカ光る金属製の把手などが附いている。ぜんたい私の注文を云えば、あの器は、男子用のも、女子用のも、木製の奴が一番いい。蝋塗りにしたのは最も結構だが、木地のままでも、年月を経るうちには適当に黒ずんで来て、木目が魅力を持つようになり、不思議に神経を落ち着かせる。分けてもあの、木製の朝顔に青々とした杉の葉を詰めたのは、眼に快いばかりでなく些の音響をも立てない点で理想的と云うべきである。私はああいう贅沢な真似は出来ないまでも、せめて自分の好みに叶(かな)った器を造り、それへ水洗式を応用するようにしてみたいと思ったのだが、そう云うものを特別に誂(あつら)えると、よほどの手間と費用が懸るのであきらめるより外はなかった。そしてその時に感じたのは、照明にしろ、煖房にしろ、便器にしろ、文明の利器を取り入れるのに勿論異議はないけれども、それならそれで、なぜもう少しわれわれの習慣や趣味生活を重んじ、それに順応するように改良を加えないのであろうか、と云う一事であった。」
また、今回の問題文本文の前には、次のような文章があります。
この文章を読んでから、今回の問題文本文を熟読すると、内容がより良く理解できるでしょう。
「 今日、普請道楽の人が純日本風の家屋を建てて住まおうとすると、電気や瓦斯ガスや水道等の取附け方に苦心を払い、何とかしてそれらの施設が日本座敷と調和するように工夫を凝らす風があるのは、自分で家を建てた経験のない者でも、待合、料理屋、旅館等の座敷へ這入ってみれば常に気が付くことであろう。独りよがりの茶人などが科学文明の恩沢を度外視して、辺鄙(へんぴ)な田舎にでも草庵を営むなら格別、いやしくも相当の家族を擁して都会に住居する以上、いくら日本風にするからと云って、近代生活に必要な煖房や照明や衛生の設備を斥ける訳には行かない。で、凝り性の人は電話一つ取り附けるにも頭を悩まして、梯子段の裏とか、廊下の隅とか、出来るだけ目障りにならない場所に持って行く。その他庭の電線は地下線にし、部屋のスイッチは押入れや地袋の中に隠し、コードは屏風(びょうぶ)の蔭を這わす等、いろいろ考えた揚句、中には神経質に作為をし過ぎて、却(かえ)ってうるさく感ぜられるような場合もある。実際電燈などはもうわれわれの眼の方が馴れッこになってしまっているから、なまじなことをするよりは、あの在来の乳白ガラスの浅いシェードを附けて、球をムキ出しに見せて置く方が、自然で、素朴な気持もする。夕方、汽車の窓などから田舎の景色を眺めている時、茅葺きの百姓家の障子の蔭に、今では時代おくれのしたあの浅いシェードを附けた電球がぽつんと燈っているのを見ると、風流にさえ思えるのである。しかし煽風器などと云うものになると、あの音響と云い形態と云い、未だに日本座敷とは調和しにくい。それも普通の家庭なら、イヤなら使わないでも済むが、夏向き、客商売の家などでは、主人の趣味にばかり媚びる訳に行かない。私の友人の偕楽園主人は随分普請に凝る方であるが、煽風器を嫌って久しい間客間に取り附けずにいたところ、毎年夏になると客から苦情が出るために、結局我を折って使うようになってしまった。かく云う私なぞも、先年身分不相応な大金を投じて家を建てた時、それに似たような経験を持っているが、細かい建具や器具の末まで気にし出したら、種々な困難に行きあたる。たとえば障子一枚にしても、趣味から云えばガラスを篏(は)めたくないけれども、そうかと云って、徹底的に紙ばかりを使おうとすれば、採光や戸締まり等の点で差支えが起る。よんどころなく内側を紙貼りにして、外側をガラス張りにする。そうするためには表と裏と桟を二重にする必要があり、従って費用も嵩(かさ)むのであるが、さてそんなにまでしてみても、外から見ればただのガラス戸であり、内から見れば紙のうしろにガラスがあるので、やはり本当の紙障子のようなふっくらした柔かみがなく、イヤ味なものになりがちである。そのくらいならただのガラス戸にした方がよかったと、やっとその時に後悔するが、他人の場合は笑えても、自分の場合は、そこまでやってみないことには中々あきらめが付きにくい。近来電燈の器具などは、行燈式のもの、提燈式のもの、八方式のもの、燭台式のもの等、日本座敷に調和するものがいろいろ売り出されているが、私はそれでも気に入らないで、昔の石油ランプや有明行燈や枕行燈を古道具屋から捜して来て、それへ電球を取り附けたりした。分けても苦心したのは煖房の設計であった。と云うのは、およそストーヴと名のつくもので日本座敷に調和するような形態のものは一つもない。その上瓦斯(ガス)ストーヴはぼうぼう燃える音がするし、また煙突でも付けないことにはじきに頭痛がして来るし、そう云う点では理想的だと云われる電気ストーヴにしても、形態の面白くないことは同様である。電車で使っているようなヒーターを地袋の中へ取り附けるのは一策だけれども、やはり赤い火が見えないと、冬らしい気分にならないし、家族の団欒(だんらん)にも不便である。私はいろいろ智慧を絞って、百姓家にあるような大きな炉を造り、中へ電気炭を仕込んでみたが、これは湯を沸かすにも部屋を温めるにも都合がよく、費用が嵩むと云う点を除けば、様式としてはまず成功の部類であった。で、煖房の方はそれでどうやら巧く行くけれども、次に困るのは、浴室と厠である。偕楽園主人は浴槽や流しにタイルを張ることを嫌がって、お客用の風呂場を純然たる木造にしているが、経済や実用の点からは、タイルの方が万々優っていることは云うまでもない。ただ、天井、柱、羽目板等に結構な日本材を使った場合、一部分をあのケバケバしいタイルにしては、いかにも全体との映りが悪い。出来たてのうちはまだいいが、追い追い年数が経って、板や柱に木目もくめの味が出て来た時分、タイルばかりが白くつるつるに光っていられたら、それこそ木に竹を接いだようである。でも浴室は、趣味のために実用の方を幾分犠牲に供しても済むけれども、厠になると、一層厄介な問題が起るのである。」(『陰翳礼讃』)
(4)擬古文・文語文対策ー擬古文・文語文解法のポイント・注意点
以下に、擬古文・文語文対策として、すぐに役立つ、擬古文・文語文解法のポイント・コツ・注意点を、簡潔に述べます。
① 古文・漢文の基礎を固める
擬古文は、古文と現代文の過渡期 (明治時代・大正時代) の文章であることを、意識してください。
② 慣れる
過去問(他大学、他学部の過去問も含む)を多くやることにより、擬古文・文語文に慣れるようにしてください。
模擬問題 (模擬試験・問題集など)は、作成者のレベルに問題があることが多いので、つまり、入試問題のように洗練されていないので、おすすめできません。
③ 粘る。諦めない
最初 (通読の第一回目) は飛ばし読みも可→早く全体像を把握する→過去問を演習することにより、「粘ること」や「諦めないこと」、「早く全体像を把握すること」の有用性・重要性を実感してください。
④ 早く問題文本文に付加されている「注」に着目する
「注」には、難読語の読み・意味や、難解部分の現代語訳が、記述されていることが多いのです。
従って、早く着目すること、つまり、本文を精読・熟読する前に着目することが、必要です。
入試問題は、案外、受験生に親切です。
得点分布曲線を理想型にするためです。
⑤ 設問をヒントにする
本番の問題では、本文が難解な時には、設問に様々なヒントがあることが多いのです。
設問を精密にチェックして、ヒントを発見することを、心掛けてください。
予想以上に、ヒントがあることに驚くと思います。
従って、「注」と同じように、早く注目すること、つまり、本文を精読・熟読する前に注目することが、必要です。
以上に気をつけて、擬古文・文語文問題に、チャレンジしてください。
入試直前期以外では、時間制限を設定しないで、じっくり考えてください。
(5)当ブログにおける「擬古文・文語文」関連記事
ーーーーーーーー
今回の記事は、これで終わりです。
次回の記事は、約1週間後に発表の予定です。
ご期待ください。
5週間入試突破問題集頻出私大の現代文―30日間スーパーゼミ (アルファプラス)
- 作者: 斎藤隆
- 出版社/メーカー: 開拓社
- 発売日: 1997/10/01
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログを見る
私は、ツイッタ-も、やっています。こちらの方も、よろしくお願いします。
https://twitter.com/gensairyu2