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現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

予想問題・『文系学部解体』室井尚・『日本の反知性主義』(1)

(1)この記事を書く理由ー私は3月3日に、ツイッター(現代文最新傾向LABO斎藤隆、@gen said ryu )で次のようなツイートをしました。

 https://twitter.com/gensairyu 

……………………………

 【最新情報】

『日本の反知性主義』採用大学・ブログ予想記事の的中状況

東大→内田樹(的中)

大阪大→白井聡

広島大→高橋源一郎

静岡大→鷲田清一(的中)

最近にはない大流行。

来年も、この流行は続くか?

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  私は、ある意味で、驚いています。

 1冊の本から、これほどに難関大学に集中して、出題されることは、極めて珍しい出来事だからです。

 大学受験国語の世界の大事件と言ってもよいくらいの出来事だと思います。

 私は、この事件の理由を、是非とも知りたいと思っています。

 

 ここで、それぞれの著者の論考の題名を列記します。

 

内田樹氏→「反知性主義者たちの肖像」

白井聡氏→「反知性主義、その世界的文脈と日本的特徴」

高橋源一郎氏→「『反知性主義』について書くことが、なんだか『反知性主義』っぽくてイヤだな、と思ったので、じゃあなにについて書けばいいのだろう、と思って書いたこと」

鷲田清一氏→「『摩擦』の意味-知性的であるということについて」

 

 以上のように、すべての題名に「知性」が入っています。

 つまり、以上の4大学は、「知性」をテ-マ・論点とする問題を出題したことに、なります。

 

 

 

 

 そこで、「知性」に関する論考を探していたところ、室井尚氏執筆の『文系学部解体』(角川新書)(2015年12月10初版発行)が目にとまりました。

 この著作が著者の問題意識、考察の深さから見て、近いうちに、難関大学の現代文(国語)・小論文入試出典になる可能性が高いので、現代文・小論文対策として、この記事で紹介します。

 

(2)室井尚氏の紹介

 

 室井尚氏は、美学、記号学者(横浜国立大学教育人間科学部教授)です。

 

  室井氏については、『哲学問題としてのテクノロジ- ダイダロスの迷宮と翼』(講談社選書メチエ)から、ハイレベルの論考が、最近、関西学院大学、中央大学、早稲田大学(社会)の現代文(国語)に出題されたことがあるので、注目していました。

 

 

 室井氏のその他の著書は、以下の通りです。

『文学理論のポリティ-ク ポスト構造主義の戦略』(勁草書房)

『メディアの戦争機械 文化のインターフェ-ス』(ノマド叢書

『情報宇宙論』(岩波書店)

『情報と生命 脳・コンピューター・宇宙』(共著)(新曜社)

『記号論の逆襲』(共編)(東海大学出版会)

『教室を路地に! 横浜国大vs 紅テント2739日』(共著)(岩波書店)

『巨大バッタの奇蹟』(ア-トン)

『タバコ狩り』(平凡社新書)

 

 以上の著書のうち、『哲学問題としてのテクノロジ- ダイダロスの迷宮と翼』(講談社選書メチエ)が入試現代文(国語)の頻出出典であり、内容も素晴らしい名著なので、一読をお勧めします。

 

(3)『文系学部解体』の内容紹介①

 この本を手に取ると、まず、表の表紙の帯に、目を奪われます。

 

 「内田樹氏推薦!!」の上に、次のような文章があります。

 「文系学部の解体は日本の大学教育が生き死にの瀬戸際まで来たことを意味している。大学はこのまま終わるのか、まだ希望はあるのか」

 

 そのすぐ後に、大文字の、

「日本の知が崩壊する」

という衝撃的な短文があるのです。

 

 かなり過激なキャッチコピーです。

 「日本に反知性主義が蔓延する」 と同内容です。

 つまり、『日本の反知性主義』と同じ問題意識です。

 『日本の反知性主義』の内田樹氏執筆の「まえがき」には、次のような一節があります。

 

 「為政者からメディアまで、ビジネスから大学まで、社会の根幹部分に反知性主義・反教養主義が深く食い入っていることは間違いありません。それはどのような歴史的要因によってもたらされたものなのか?

 

 一方、『文系学部解体』の裏表紙の帯には、本文から引用した、次のような文章があります。

 

 「我々が育てているのは『人間』であって国家やグローバル企業に奉仕する『人材』ではない」

 「大学の役割は基本的には『無知との戦い』、あるいは『無思考との戦い』である。本当にこれでいいのかということを疑い、自分の頭で批判的に考え、行動する人々を育成し、社会に送り出していくことである」

「役に立つことだけを学ぶのが大学?」

 

  上記の「国家やグローバル企業に奉仕する『人材』」とは、「我々が育てているのは『人間』」との対比で理解すると、「反知性主義・反教養主義」的な「人間」というニュアンスがあります。

 

 まさに、『文系学部解体』は、『日本の反知性主義』と同一の問題意識に貫かれています。

 

…………………………

 

 以上を読んだだけでも、本書の内容の大筋は、把握できますが、やや抽象的なので、以下に、具体的に本書の概要を説明します。

 

 (4)『文系学部解体』の内容紹介②

 

【1】室井氏が本書を書いた背景

 2015年6月、国立大学の文系学部の縮小・廃止を「要請」する文部科学省通達が出されました。

 この「要請」という言い方は、本書によれば、「『強制するのではなく、あくまでも各大学の自主性を尊重する』ということであったが、限りなく強制に近い」と、されています。

 

 それに対して、数多くの大学関係者が「文系軽視」と反発しました。

 この問題が注目される以前より、文部科学省改革を批判してきた室井氏は、国立大学の危うい現状を、本書で声高に訴えています。

 室井氏が課程長である横浜国立大学の、教育人間科学部の「人間文化課程」も、「廃止要請」の対象になりました。

 この学科は、不人気学科ではなく、「優良学科」との自信があったので、室井氏の怒りは大きかったようです。

 2014年に、ブログに国立大学のこのような現状を問題提起する記事を書き、話題になりました。

 そのことが、本書を書くきっかけになりました。

 

 【2】「文系学部解体」の進行

 実は、この問題は1990年代以後の「大学改革」の結果である、と室井氏は、主張しています。

 この経過について、本書の「巻末資料」の「著者blog 」を引用します。

「大学審議会が91年に出した『大学設置基準の大綱化』は、各大学独自の教育・カリキュラム改革を推進させ、その結果、約5年で」教養部・一般教育部は、ほとんどの大学から姿を消した。新自由主義経済学の影響の強いこの改革は、要するに、大学教育に競争原理を持ち込むことにより、お互いに切磋琢磨することによって、教育の質や効率を高めるという効果を狙っていた。さらに、文部科学省は、2004年に国立大学法人化を実施し、国立大学は、企業の形態を取ることになった。」 

 

 しかし、短期的な数値目標の設定や、競争原理の導入は、大学教育の質の向上に結びつかなかったと、室井氏は述べています。

 この改革の背景にあるのは、大学に「民間企業の論理」を導入する考え方であると、室井氏は、結論付けています。

 

 即戦力となる人材育成の要求等の、短期的視点でしか思考しない論理が持ち込まれ、その結果として、「文系の知」が軽視されたということなのです。

 

【3】斎藤隆による補足説明

 大学とは、本来、「教養」を身につけ、「多様性」を受けとめる場です。

 その大学が、いわゆる構造改革以降、新自由主義的な効率化、合理化、競争原理の波にさらされ、目に見える具体的成果を要求されています。

 

 「教育上の成果」とは、何でしょうか。

 短期的に、成果が顕在化するものなのでしょうか。

 

 室井氏の言うように、「アカデミー」とは、「無用の知」という余裕を備えた「知性の学び」です。

 そこから、「豊かな可能性を秘めた創造的な知性」が、醸成されていくのです。

 従って、大学教育の教育上の成果は、長期的な視点で考えるべきです。

 

 ここでも、「長期的視点」のキーワードが出てきました。

 「長期的視点」は、2016年度の東大で出題された内田樹氏の論考「反知性主義者たちの肖像」の中で述べられている、「知性」の2つの条件(共同性、時間性(つまり、長期的視点))のうちの1つです。さ

 「長期的視点」については、2016年2月10日の予想問題記事において、丁寧に説明しておきました。

 来年度のためにも、ぜひとも、読んでください。

 

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 話を、『文系学部解体』に戻します。

 本書は、全般的に、著者の教育への情熱が感じられる論考です。

 私は、その情熱に感動しました。

 

 「文系学部解体・軽視」は、大学だけではなく、現代の社会や経済と密接に関連した問題だと思います。

 

 あらゆる事項を、お金、つまり、経済的効果に換算することでしか評価できない、現代日本社会の貧しい思考力を、本書を読みながら、悲しみの中で、改めて知ってしまいました。

 

 そのような悪化した状況下でも、決して挫けないで、大学教育に対して希望を捨てない室井氏の姿勢に、私は救いを感じました。

 

 この問題は、国立大学だけに限定されたことでは、ありません。

 国家から補助金を支給されている私立大学においても、同じような問題が発生しているはずです。

 

 これらの問題が、大学入試の現代文・小論文問題に、どのような影響があるのか、大いに興味があります。

 実際に、2016年度には、前述のように、国立大学のトップレベル4校に、『日本の反知性主義』から「知性」に関する論点・テーマが出題されました。

 来年度も、難関大学の現代文・小論文入試で、類似の現象が見られる可能性が大です。

 

  ここまでで、この記事の字数が、4000字を、オーバーしてしまいました。

 予想問題として、私が興味を持った部分の指摘・解説は、近日中に次回の記事に書く予定です。

 ご期待ください。

 ズバリ的中を目指します。

 

 

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