現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

予想問題/「人生はアルゴリズムか」池澤夏樹『朝日新聞』/科学論

(1)なぜ、この記事を書くのか?

 

 最近、「未来予測」、「人工知能((AI)」、「情報化社会」に関連して話題になっている『サピエンス全史』・『ホモデウス』についての、秀逸な論考(「『神なるヒト』の衝撃 人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹《終わりと始まり》2018年9月5日『朝日新聞(夕刊)』)が発表されましたので、今回の記事で、詳細に解説します。

 池澤夏樹氏は、入試頻出著者であり、「AI (人工知能)」、「未来予測」、「情報化社会」関連の論点は、入試頻出論点です。

 来年度以降の現代文(国語)・小論文対策として、今回の記事を熟読してください。

 

 

朝日新聞デジタル

朝日新聞デジタル

 

 

 

(2)予想問題/「『神なるヒト』の衝撃 人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹 《終わりと始まり》2018年9月5日『朝日新聞(夕刊)』

 

 

終わりと始まり 2.0

終わりと始まり 2.0

 

  

 

(本文)

(概要です)

(【1】・【2】・【3】・・・・は当ブログで付記した段落番号です)

(赤字は当ブログによる「強調」です)

(青字は当ブログによる「注」です) 

 

(序論は省略します)


【1】未来はどうなるか?

【2】これは常に人間の心を領している問題である。他の生物は個体としても種としてもそんなことは考えない。

【3】しかし、我々凡人が悩むのはせいぜい明日のことなのだ。この国を率いる人々の頭にあるのも日銀短観の範囲内。遠い先などまるで見えていない。だから時代遅れの原発にしがみつく。

【4】ここに一人、おそろしく遠くを見ている男がいる。ユヴァル・ノア・ハラリ、イスラエルの若い歴史家で、『サピエンス全史』という本で世界中を感嘆させた。

 

 

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

 

 

  

(「人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹)

【5】大所高所からものを見る。対象との間に距離を置いて客観視を試みる,それがこの人の場合、過去数万年から未来(少なくとも)数百年に及ぶ。

【6】冷静にして沈着、あるいは冷酷と言われるかもしれない。なにしろ、ずっと人類を悩ませてきた、飢餓と疫病と戦争という課題は解決されたと言うのだ。これら相手の戦いは決着を見た。残るは敗残兵を駆逐する局地戦のみ。

【7】そう言われて改めて考えてみる。そうなのかもしれない。ぼくなどは近未来の危機を言いつのる偽の予言者かもしれない。

【8】数万年前、ホモ・サピエンス(→当ブログによる「注」→「ホモ・サピエンス」とは、ラテン語で「知恵ある人」の意。一般に動物分類学上の学名としての「現生人類」。本来は、人間を英知をもつ存在として規定する哲学上の言葉として用いられた。しかし、18世紀中頃、スウェーデンの生物学者 C.リンネは,生物の体系的分類を行うにあたり、この語をもって人間を表わす学名とした)がネアンデルタール人などに対して優位に立った理由を、ハラリはこう説明するーーネアンデルタール人が「川の近くにライオンがいる」と言えたとしても、「ライオンはわが部族の守護霊だ」と宣言することはサピエンスにしかできなかった。つまり「存在しないものについての情報を伝達する能力」だ。抽象思考力によってせいぜい百五十個体の群れが数億の信徒集団に変わった。これを認知革命と呼ぶ。

 

 

(当ブログによる解説)

 サピエンスは、現在の唯一の人類種です。

 しかし、遥か以前はそうではありませんでした。

 

 この事情を、ハラリは以下のように説明しています。

「  実は、約200万年前から1万年前ごろまで、この世界にはいくつかの人類種が同時に存在していたのだ。

 10万年前の地球には、少なくとも6つの異なるヒトの種が暮らしていた。

 複数の種が存在した過去ではなく、私たちしかいない現在が特異なのであり、ことによると、私たちが犯した罪の証なのかもしれない。ほどなく見るように、私たちサピエンスには、自らの兄弟たちの記憶を抑え込むだけの十分な理由があるからだ。」(『サピエンス全史』)

 

 では、なぜ、ネアンデタール人等が滅び、サピエンスのみが生き残り発展したのでしょうか?

 ハラリは、「認知革命」とも言える「新しい思考と意思疎通の方法」の獲得が理由と説明しています。

 おそらく、4万年~7万年前にこのような大変革が起こったと推定されるのです。

 サピエンスは、現代人に匹敵する高度な知能によって、舟、ランプ、弓矢などを発明しました。

 さらに、言葉の使用とコミュニケーションの発達は、架空のもの(神話等、共同幻想とも表現されるもの)を語る能力まで獲得し、共通の目標下での集団活動が可能になったのです

 

 強力で強大な「共同幻想」、つまり、「虚構」なくしては、大きなコミュニティを維持することができないのです。

 ヒト以外の動物も、一定の群れを作って生活することがあります。

 しかし、「共同幻想」がない状態で、組織として協力し合えるのは、約150個体が限界とされています。

 

 狩猟採集時代には人口爆発は起こりませんでした。

 しかし、狩猟採集集団から農耕集団に移行することで、人口が急激に拡大します。

 すると、共同体統治に関連する諸問題が発生しました。

 ヒトは、貨幣、宗教や帝国といった「共同幻想」を集団全体で信じこむことで、数万人単位、数十万人単位、さらに現代国家では1億人以上の集団行動を可能としました。

 全てのものは、人類が長い歴史の中で作り上げてきた「虚構」であるという指摘は、過激で、興味深い視点です。


 国家も貨幣も資本主義経済も、さらには、全てが虚構なのです。

 ヒトの進化において、文字の発明が、かなり大きな契機になりました。

 文字の発明の後、宗教、貨幣、制度、国家といった、共同幻想を背景として、人類は急速に発展していくのです。

 

  このことに関して、ハラリは以下のように述べています。

「  アフリカで、細々と暮らしていたホモ・サピエンスが食物連鎖の頂点に立ち、文明を築いたのはなぜか。

 その答えを解く鍵は「虚構」にある。

 我々が当たり前のように信じている国家や国民、企業や法律、さらには人権や平等といった考えまでもが虚構であり、虚構こそが見知らぬ人同士が協力することを可能にしたのだ。

 やがて人類は農耕を始めたが、農業革命は狩猟採集社会よりも過酷な生活を人類に強いた、史上最大の詐欺だった。

 そして、歴史は統一と向かう。その原動力の一つが、究極の虚構であり、最も効率的な相互信頼の制度である貨幣だった。

「  私達の言語が持つ真に比類ない特徴は、人間やライオンについての情報を伝達する能力ではない。

 むしろそれは、まったく存在しないものについての情報を伝達する能力だ。見たことも、触れたことも、匂いを嗅いだこともない、ありとあらゆる種類の存在について話す能力があるのは、私たちの知るかぎりではサピエンスだけだ。

 虚構、すなわち架空の事物について語るこの能力こそが、サピエンスの言語の特徴として異彩を放っている。」

「  サピエンスはこのように、認知革命以後ずっと二重の現実の中に暮らしてきた。一方には、川や木やライオンといった客観的事実が存在し、もう一方には、神や国民や法人といった想像上の現実が存在する。

 時が流れるうちに、想像上の現実は果てしなく力を増し、今日では、あらゆる川や木やライオンの存続そのものが、神や国民や法人といった想像上の存在物あってこそになっているほどだ。」(『サピエンス全史』)

 


(「人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹)

【9】その一方でテクノロジーの罠があった。農業革命を例に取ろう。始まりは狩猟採集の偶然の副産物だっただろう。こぼれた種が芽を出す。獲った獲物の仔を連れ帰って餌をやったら成獣になった。遠出しなくとも食料が手に入る。子供たちの暮らしが楽になるとみなが思ったから普及した。気がついてみるととんでもないところへ来ていた。

 

 

 (当ブログによる解説)

「小麦により家畜化された、私たちサピエンス」について

 「私たちサピエンスが、小麦により家畜化されている」という指摘は、かなり衝撃的です。

 しかし、言われてみると、確かに、一部に真理を含んでいるようです。

 「農業革命」により、サピエンスには、「新たな面倒な義務」が発生したとも言えるからです。

 

 このことについて、ハラリは以下のように記述しています。 

「  農業革命は、安楽に暮らせる新しい時代の到来を告げるにはほど遠く、農耕民は狩猟採集民よりも一般に困難で、満足度の低い生活を余儀なくされた。狩猟採集民は、もっと刺激的で多様な時間を送り、餓えや病気の危険が小さかった。」

「  人類は農業革命によって、手に入る食糧の総量をたしかに増やすことはできたが、食糧の増加は、より良い食生活や、より長い休暇には結びつかなかった。むしろ、人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。」

「  農業革命は、安楽に暮らせる新しい時代の到来を告げるにはほど遠く、農耕民は狩猟採集民よりも一般に困難で、満足度の低い生活を余儀なくされた。狩猟採集民は、もっと刺激的で多様な時間を送り、飢えや病気の危険が小さかった。人類は農業革命によって、手に入る食糧の総量をたしかに増やすことはできたが、食糧の増加は、より良い食生活や、より長い余暇には結びつかなかった。むしろ、人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ。」(『サピエンス全史』)


 「史上最大の詐欺」とはずいぶんとショッキングな表現です。

 しかし、それは誰の責任だったのでしょうか。

 

 著者ハラリは、「王のせいでもなければ、聖職者や商人のせいでもない。犯人は、小麦、稲、ジャガイモなどの、一握りの植物種だった。ホモ・サピエンスがそれらを栽培化したのではなく、逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化されたのだ」と述べています。

 

 さらに、以下のように述べています。

「  10000年前、小麦はただの野生の草にすぎず、中東の狭い範囲に生える、多くの植物の一つだった。ところがほんの数千年のうちに、突然小麦は世界中で生育するまでになった。生存と繁殖という、進化の基本的基準に照らすと、小麦は植物のうちでも地球の歴史上で指折りの成功を収めた。

「  それでは、いったいぜんたい、小麦は農民に何を提供したのか?
 じつは、個々の人々には何も提供しなかった。だが、ホモ・サピエンスという種全体には、授けたものがあった。小麦を栽培すれば、単位面積当たりの土地からはるかに多くの食物が得られ、そのおかげでホモ・サピエンスは指数関数的に数を増やせたのだ。」(『サピエンス全史』)

 

 つまり、個々人には、小麦栽培農業は何のメリットもないのです。

 だが、ホモ・サピエンスという種全体で見ると、個体数増加と、種の繁殖という、最高のメリットがあったということです。

 

 

(「人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹)

【10】かつて不運な者は餓死したかもしれないが、過労死する者はいなかった。今から見れば狩猟採集生活はほとんど遊んで暮らす日々だった。安定した食料供給に支えられた文明が人間の99%を奴隷にした。

 

 

(当ブログによる解説) 

 太古の狩猟採集時代の実相については、『サピエンス全史』に詳しい説明があります。

 労働時間としては、狩猟は3日に1回、採集も1日3~6時間程度。

 定住する家もないから家事は不要。

 食物も多様で、穀物など限定された品種しか食べていなかった農耕民より、健康だった。

 災害や飢饉や疫病も、移動生活のため影響は少なかったようです。


 どうして、こんな豊かな生活なのでしょうか?

 それはホモ・サピエンスが地球上で数百万人程度しかいなかったためなのです。

 そのために、食糧は豊富でした。

 その地域で取り尽くせば、次の豊かな場所へと移動すれば、よかったのです。💙

 

 このことに関しては、『 暇と退屈の倫理学』(国分功一郎)でも引用されている『人類史のなかの定住革命』 (西田 正規)が参考になるので、以下に引用します。

「生態人類学的な研究からは、すでにいちおうの結論が出されているかもしれない。アフリカ大陸の狩猟採集民、ブッシュマンやハッザ、ピグミーは、半砂漠、サバンナ、森林に住みながら、いずれもが、野生する植物性食料の採集により多く頼り、狩で得た肉は彼らの食料の30パーセント以下を占めるにすぎないことが明らかにされてきた。熱帯での生活は、地域的な環境のちがいにもかかわらず、採集活動に重点を置く狩猟採集民としての共通性が指摘されたのである。

 彼らは、数家族からなる小さなキャンプをつぎつぎに移動させる遊動生活者である。

 成人男女は平均して1日2~4時間を狩や採集のために使い、それによってキャンプ成員の毎日の食料をまかなっている。不毛の土地に思えるカラハリ砂漠においてさえ、このていどの時間で必要な食料が調達されていたという事実が、われわれ文明人に与えたショックはじつに大きかった。

 彼らは、多くの時間を、おしゃべりや歌、ダンス、昼寝に使うが、たとえばピグミーは、古代エジプトにおいて、すでに歌と踊りの天才として知られていたし、16ビートにのせたポリフォニーを子どもでさえも自在にあやつる彼らの豊かな音楽性は、芸能山城組の山城祥二をして驚嘆せしめたということである。」 (『人類史のなかの定住革命』 西田 正規)

「  先史時代の人類史は、歴史時代の歴史にくらべて、変化の速度がきわめてゆっくりしている。これについて歴史的変化を発展と考える文明人は、先史時代の人類の創造性の欠如を予想しがちである。しかしピグミーは、われわれにもまして、だれもが豊かに音楽やダンスを楽しんでいるし、動物や植物について深い知識をもち、それを利用する技術を身につけている。 採集や狩に出かける彼らは、もてる知識や技術、体力、好奇心、洞察力を駆使するのである。彼らの創造性は、技術革新や支配の策略や歴史的モニュメントをつくることにではなく、狩やダンスやおしゃべりのなかにじゅうぶんに発揮されているのであろう。

 文明以前の生活をそのように考えなければ、高い知的能力をもった人類が先史時代の素朴な生活のなかで生まれてきたことを理解するのは不可能である。われわれからみれば素朴な先史時代の生活こそ、人類の高い知的能力を育てあげたのである。人類は、文明以前も文明以後も、つねに豊かな創造力に富んだ存在なのである。ただ、その向かうところが大きく変化したのである。」(『人類史のなかの定住革命』 西田 正規)

 

 

人類史のなかの定住革命 (講談社学術文庫)

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gensairyu.hatenablog.com

 

 

(「人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹)

【11】我々は個体の幸福しか考えない。その一歩ずつの蓄積が全人類のコースを決める。すべてがエゴイズムに奉仕する。第一次世界大戦で顔面に負傷した兵士を救うために始まった形成外科はあっという間に美容に転用された。今、新規の医療技術は難病の治療という名目で開発され、すぐにもデザイナーベビー(→当ブログによる「注」→「デザイナーベビー」とは、受精卵の段階で遺伝子操作を施し、親が望む外見・体力・知的能力等を持たせた子供。親がその子供の特徴をデザインするかのようであるためそう呼ばれています。デザイナーチャイルド、ドナーベビーとも呼ばれています。デザイナーベビーは、遺伝子を選択して、目や髪の色といった特定の身体的特徴を持つ子供の生まれる確率を上げる技術的アイデアです。1990年代から受精卵の遺伝子操作は遺伝的疾病を回避することを主目的に論じられてきました。親の「より優れた子供を」等という欲求に従い、外見・知力・体力に関する遺伝子操作も論じられるようになってきました。他方で、子どもが特定の性質を持つように事前に遺伝子を設計することは、技術的にも倫理的にも、かなり問題視されています)に応用される。

【12】ハラリの新著『ホモ・デウス』を読んだ。彼は、生命活動はアルゴリズム(→当ブログによる「注」→アルゴリズムとは、数学、コンピューティング、言語学、あるいは関連する分野において、問題を解くための手順を定式化した形で表現したものを言います。「算法」と訳されることもあります)であるとあっさり言う。

 

 

ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来 (上)(下)巻セット

ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来 (上)(下)巻セット

 

 

 

(当ブログによる解説)

 定型的行動とは、遺伝的に決定された固定的行動類型を最小単位として構成された、生物の画一的活動のことです。

 一般に、生物の食料探索、危険回避のための行動は、複数の定型的行動の組合せから成立しています。

 そして、その行動の多くは、味覚や嗅覚等の感覚により誘発されます。

 生物における感覚の受容から定型的行動の指令・実行に至る手順は、基本的には遺伝的にプログラムされたアルゴリズムの組合せであると言ってよいのです。

 その点で、確かに、「生命活動はアルゴリズム」という側面があります。

 とはいっても、生物はこれを画一的に実行するのではなく、試行錯誤、学習を経て柔軟に遂行することができるのです。

 つまり、「生命活動」は、そのすべてが「アルゴリズム」とは言い切れないのではないでしょうか。

 

 

(「人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹)

【13】問題解決のための手続きの連鎖。例えばレシピはアルゴリズムであり、柔軟性があるから素材が変わってもほぱ目的を達成できる。生命は自己保存、目前の快楽と、子孫の確保を目的とするアルゴリズムにすぎない。人間の意識は脳内のニューロンが一定の手順に従って信号を処理してゆく過程でしかない。心はこれに付随して生まれるだけで、自己は虚構である。

【14】多くの宗教が力を失った今、我々は人間至上主義の基礎としている。その前提にあるのは自由意志だが、しかし自己が虚構である以上、自由意志も虚構となる。

 【15】人間が行うことの多くはコンピューターの方がずっと速く確実に行われる。ドローンは人間の兵士より効率がいい。世界を動かすのはデータであり、その処理能力において人間は機械に劣っている。感情というアルゴリズムを捨ててコンピューターとデータベースに任せた方が有利。

【16】やがて人間は全世界的なインターネットに組み込まれたチップの一つと化す。そういう形で人間は、ヒトは、サピエンスは心と身体をアップグレードし、不死と幸福と神性を手に入れ、ホモ・デウス(神なるヒト)になる。心そのものが変わってしまう以上、その世界は我々には想像のしようがない。

【17】ハラリの言うことは今ここで我々が直面している問題をすべて飛び越えてしまうような展開である。このまま行けばこういう方向へ事態は進むだろうという予測である。

 

 

 (当ブログによる解説)

 著者ハラリは以下のように述べています。

「  今後1、2世紀のうちに人類は姿を消すと思います。

 でもそれは、人間が絶滅するということではなく、バイオテクノロジーや人口知能で、人間の体や脳や心のあり方が変わるだろうということです。」

 

 このような未来の人間のことを、この本の中では、超ホモ・サピエンスと呼んでいます。

 ハラリは、本書の最後で「未来を切り開く鍵は、私たち人間が欲望をコントロールできるかどうかだ」と主張しています。

 


(「人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹)

【18】このショックはリチヤード・ドーキンスが個体は利己的な遺伝子の乗り物でしかない、と言った時に似ている。自分が主役ではないと知る空虚感。

 

 

(当ブログによる解説)

 リチャード・ドーキンスは『利己的な遺伝子』において「利己的遺伝子論」を主張しました。

 「利己的遺伝子論」とは、進化学における理論の一つです。

 自然選択や生物進化を、遺伝子中心の視点で理解する発想です。

 1970年代の血縁選択説、社会生物学の発展を受け、ジョージ・ウィリアムズ、ウィルソンらによって提唱されました。

 イギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』により、一般的に向けに広く受け入れられるようになりました。


 ここでは「利己的」とは「自己の生存・繁殖率を他者よりも高めること」という意味です。

 「利他的」とは「自己の成功率を損なってでも他者の成功率を高めること」と定義されます。

 この用語は日常語の「利己」のように行為者の意図を表現する言葉ではなく、行動自体をその結果のみに基づいて分類するための用語です。

 行為者がどのような意図を持っていようとも、行為の結果が自己の成功率を高めるのであれば、それは「姿を変えた利己主義」と考えることができるのです。

 

 現実の自然界では、子育て行為や群れの中での役割分担など多くの利他的行動と考えられる例も見られます。

 遺伝子選択論者は、選択や淘汰は実質的には遺伝子に対して働くものと考え、利他的行動が自然界に存在しうる理由を以下のように説明しました。

 ある遺伝子Aに促された行動は、自ら損害を被っても同じ遺伝子Aを持つ他の個体を助ける性質があると仮定します。これは個体レベルで見れば利他的行動です。

 その行動による個体の損失より、遺伝子Aを持つ個体全体が受ける利益が大きいなら、遺伝子Aは淘汰を勝ち抜き、遺伝子プール中での頻度を増していくと考えられます。
 その結果として、遺伝子Aに促された「利他的行動」も広く見られるようになるのです。

 

 

(「人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹)

【19】【最終段落】さて、これを受け入れていいものかどうか、抽象思考者としてのぽくの中のアルゴリズムが考え込んでいる。

(「人生はアルゴリズムか」 池澤夏樹)

 

 

終わりと始まり 2.0

終わりと始まり 2.0

 

 

 

 (当ブログによる解説)

 最終段落の【19】段落「さて、これを受け入れていいものかどうか、抽象思考者としてのぽくの中のアルゴリズムが考え込んでいる」における「これ」とは、【18】段落の「このショック」です。

 そして、「このショック」とは、その直前の以下のような「未来予測」です。

 

【14】段落「多くの宗教が力を失った今、我々は人間至上主義の基礎としている。その前提にあるのは自由意志だが、しかし自己が虚構である以上、自由意志も虚構となる。」

【15】段落「人間が行うことの多くはコンピューターの方がずっと速く確実に行われる。ドローンは人間の兵士より効率がいい。世界を動かすのはデータであり、その処理能力において人間は機械に劣っている。感情というアルゴリズムを捨ててコンピューターとデータベースに任せた方が有利。

【16】段落「やがて人間は全世界的なインターネットに組み込まれたチップの一つと化す。そういう形で人間は、ヒトは、サピエンスは心と身体をアップグレードし、不死と幸福と神性を手に入れ、ホモ・デウス(神なるヒト)になる。心そのものが変わってしまう以上、その世界は我々には想像のしようがない。」

【17】段落「ハラリの言うことは今ここで我々が直面している問題をすべて飛びてしまうような展開である。このまま行けばこういう方向へ事態は進むだろうという予測である。」

 

 これは、想像を絶する未来です。

 人間がロボット化してしまう未来です。

 考えたくないような未来です。

 ロボット化した自分に、人間は満足できるのでしょか?

 

 この点に関して、山極寿一氏は、最近の論考(「科学技術発展のリスク AI社会、新たな世界観を 山極寿一」「科学季評」『朝日新聞』2018年08月08日)の中で、以下のように述べています。

 かなり参考になる見解です。

 私の最近の記事で、この見解を解説しています。

 

 

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(「科学技術発展のリスク AI社会 新たな世界観を」 山極寿一)

「  科学技術は今、情報によって人間や社会を作り替えようとしている。世界的なベストセラー「サピエンス全史」の著者ユヴァル・ノア・ハラリは、新作「ホモ・デウス」で、人間が超人となり神の領域に手を出そうとする未来を警告している。

 現代の科学は、人間の感覚や情動も、生化学データを処理するアルゴリズムであることを証明した。興奮とは、脳内の伝達物質アドレナリンが大量に放出されることと同義だといったように。だから、不安や苦痛、不快や恐怖は人為的に生化学的な処置をすることで取りのぞける。人類を悩ましてきた病気や戦争による被害はこの1世紀、特効薬の開発や、情報技術による世界的なルールの徹底によって激減した。

 次に人間が望むのは寿命の延長、不死の身体で、AIを含む科学技術の発展により生まれたゲノム編集や人体の工学的な改良によって実現する。今や人間は超人類を生み出す神の手を持とうとしていると、ハラリは主張する。

 その時、人間は生きる目的を何に求めたらいいのだろう。一部の人間が人類を超越し、神のごとき能力を持つホモ・デウスになれば、人種差別どころか、人と家畜に匹敵するような大きな差別が生まれるかもしれない。もはやこの世界の外にいる神は存在しない。不死の世界に天国も地獄も影響力を持ちえないからだ。

 こうなると、科学技術という“宗教”に対抗する世界観が必要だ。

(「科学技術発展のリスク AI社会、新たな世界観を 山極寿一」「科学季評」『朝日新聞』2018年08月08日)

 

 

 (3)当ブログにおける「人工知能」・「AI社会」・「情報化社会」関連記事の紹介

 

 「人工知能」・「AI社会」・「情報化社会」は、最近の入試頻出論点です。

 

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ーーーーーーーー

 

 今回の記事はこれで終わりです。

 次回の記事は、約1週間後に発表の予定です。

 ご期待ください。

 

  

 

 

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スティル・ライフ (中公文庫)

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頻出難関私大の現代文 (αプラス入試突破)

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5週間入試突破問題集頻出私大の現代文―30日間スーパーゼミ (アルファプラス)

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