2014明大国語(現代文)解説『本は、これから』内田樹・電子書籍
(1)「電子書籍の問題点」、「電子書籍の未来への展望」、「紙の本の影響力・恩恵」は、入試現代文(国語)・(小論文)の最近の流行論点・テーマです
最近の一例を挙げます。小論文の場合は、その旨を表記します。現代文(国語)は、表記しません。
・千葉大学-港千尋『書物の変・グーグルベルクの時代』
・慶応大学(文学部)(小論文)-紀田順一郎「電子書籍の彼方ヘ」、中野三敏「和本リテラシーの回復のために」(『本は、これから』所収)
・立命館大学(文A)-「大量発話時代と本の幸せについて」(『本は、これから』所収)
・岩手大学(小論文)-「活字中毒患者は電子書籍で本を読むか?」(『本は、これから』所収)
・島根大学(小論文)-「活字中毒患者は電子書籍で本を読むか?」(『本は、これから』所収)
・立教大学(全学部)-港千尋『書物の変・グーグルベルクの時代』
・明治大学(全学部)ー「活字中毒患者は電子書籍で本を読むか?」(『本は、これから』所収)
・茨城大学(小論文)-内田樹『街場の文体論』
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(2)「電子書籍」について、最近、流行が始まった入試頻出出典-
①『本は、これから』(池澤夏樹編)
②『書物の変・グーグルベルクの変』(港千尋)
【1】最近、流行の論考・出典
上記の(1)の「最近の一例」を見ると、内田樹氏の「活字中毒患者は電子書籍で本を読むか?」(『本は、これから』所収)が、かなりの大学で出題されていることが、分かります。
出典としては、『本は、これから』(池澤夏樹編、岩波新書)、『書物の変・『グーグルベルクの時代』(港千尋)から、多数の大学で出題されています。
【2】内田樹氏について
内田樹氏は、現代文(国語)・小論文における、最近のトップレベルの入試頻出著者です。
内田樹氏の人物紹介、著作等については、下の記事に詳しく記述しました。リンクして、参照して下さい。
今回は、最近、明治大学(全学部入試)の現代文(国語)問題として出題された問題(内田樹「活字中毒患者は電子書籍で本を読むか?」)を、一部抜粋して、予想問題としました。
カットした問題は、基礎的な問題です。
今回の、内田樹氏の論考は、これからも、難関国公立私立大学入試の現代文(国語)・小論文問題として、出題される可能性が高いと思われます。
ぜひ、問題に対応する時には、制限時間を設定せずに、じっくりと取り組んでください。
そして、解説を丁寧に読んでください。
(3)予想問題・内田樹氏の論考「活字中毒患者は電子書籍で本を読むのか?」-明治大学(全学部統一入試問題の一部抜粋)
問題 次の文章を読んで、後の問に答えよ。(基礎的な問題は省略しています。各段落の概要を以下に記述します。実際の問題は縦書きです。右に「、」がある字については太字にしています。)
【1】新しい*デバイスが出るとすぐに買ってしまう。電子書籍の出現によって紙の本の命脈が尽きるのではないかという論の当否を身を以て吟味してみようというのである。結論はすぐに出た。
【2】 紙の本はなくならない。というか、紙の本という確固とした基盤ぬきには、そもそも電子書籍というものは存立することができないというのが私の結論である。理由を以下に述べる。
【3】電子書籍の第一の難点は「どこを読んでいるかわからない」ことである。
【4】電子書籍は、紙の本を読んでいる状態を疑似的には経験できる。だが、残り何頁であるかがわからない。
【5】自分が全体のどの部分を読んでいるかを鳥瞰的に絶えず点検することは読書する場合に必須の作業である。というのは、それによって、その文章の解釈可能性に大きな差異が生じるからである。
【6】グラウンドレベルで読み進んでいる自分を「読み始めから読み終わりまでの全行程を上空から鳥瞰している仮想的視座」からスキャンする力がなければ、そもそも読書を享受するということは不可能なのである。1 その消息は音楽を聴く場合と変わらない。
【7】私たちはまるで当たり前のように「旋律」とか「リズム」とかいう言葉を口にしているが、これは「もう聞こえない音」を記憶によって、「まだ聞こえない音」を先駆的直感によって、現在に引き寄せることで経験しているから言えることなのである。
【8】私はその能力を「マッピング(地図上に自分の位置を記すこと)」と呼ぶのであるが、これは単に読書や音楽鑑賞に止まらず、人間が生きてゆく上で必須の能力なのである。
【9】「おのれ自身を含む風景を鳥瞰する力」。ヘーゲルだったらそれを「自己意識」と呼ぶだろうし、フッサールだったら「超越論的主観性」と呼ぶだろう。それは人間が生きる上での不可欠の能力である。そして、読書はその力を涵養するための好個の機会なのである。
【10】読書とは、「読みつつある私」と、物語を最後まで読み終え、すべての人物のすべての言動の、すべての謎めいた伏線の「ほんとうの意味」を理解した「読み終えた私」との共同作業なのである。紙の本では頁をめくるごとに、「読みつつある私」と「読み終えた私」の距離が縮まる。そして、最後の一頁の最後の一行を読み終えた瞬間に、「読みつつある私」は「読み終えた私」に出会う。読書とは、そのような[ X ]プロセスなのである。
【11】電子書籍はこの「読み終えた私」への小刻みな接近感を読書にもたらすことができない。紙の本を相手にしているときには、「物語の終わりの接近」は指先が抑えている残りの頁の厚みがしだいに減じてゆくという身体実感によって連続的に告知されている。だが 、2 電子書籍ではそれがない。
【12】第二の難点は、電子書籍では「宿命的な出会い」が起こらないということである。
【13】その本の予備知識がないにもかかわらず、その本の死活的重要性が先駆的にわかるということはなぜ起きるのであろう。説明は二つある。
【14】一つは、本の送り手がその本に敬意と愛情を込めている本には固有のオーラがある、ということである。それは物質的にわかる。
【15】もう一つは「こじつけ」である。「なんとなく」手に取った本のどうでもいいような一行が「自分の人生を決定づける宿命の一行」であったというのは、実は「あとぢえ」である。そう思い込めば、その本との出会いは、宿命との出会いになる。
【16】[ Y ]。ただし、「宿命と出会う」ためには、そこに偶然がなければならない。
【17】どの本を手に取ってもよかったのだが、他ならぬその本を「たまたま」手に取ってしまったという偶有性が保証されていなければ、「宿命」という言葉は出てこない。
【18】「宿命の本」との出会いのためには、「独特のオーラに反応して、引き寄せられるように手に取った」という「物語」がどうしても必要である。そして、それは紙の本でしかなしえない。「いつかこの本が私にとって死活的に重要なものとなるかもしれない」という種類の先駆的直感は電子書籍については起動しないからである。欲望も宿命も自己同一性も、そのようなロマネスクなものに電子書籍は用事がない。
【19】3 紙の本から電子書籍に媒体が移るとき、書物と出会い、書物を読み進むために、私たちが必要としていた機能の「何か」が失われる。紙の本はなくならないと思っているが、それはコストや*アクセシビリティや携帯利便性とはまったく無関係な次元の、人間の本然的な生きる力の死活にかかわっている。
注 *デバイス・・・・コンピューターの特定の機能を果たす周辺装置
*アクセシビリティ・・・・入手しやすさ
問2 傍線1「その消息は音楽を聴く場合と変わらない」とあるが、それはなぜか。理由として最も適切なものを次の中から一つ選べ。
A 結末や犯人を予想しながら読む推理小説は、フィナーレを予期しながら聴く交響楽と芸術性において等価であるから。
B 全体を鳥瞰しその中における自分の位置を確認する能力が必要とされる点で、読書と音楽を聴くことは共通するから。
C 高い読解能力を有する読者は熟練した音楽の聴き手と同様に、作品から無限の快楽を引き出す方法を心得ているから。
D 人間が生きていく上で必要不可欠とされる能力の大半は、書籍を読むことと音楽を聴くことによって習得されるから。
問3 空欄Xに当てはまる言葉として、最も適切なものを次の中から一つ選べ。
A 偶然的な B 先駆的な
C 死活的な D 力動的な
問4 傍線2「電子書籍ではそれがない」とあるが、それはどういうことか。説明として最も適切なものを次の中から一つ選べ。
A 電子書籍では、「読み終えた私」は仮想的存在であり、パーティの招待状が郵送されることは非現実的だということ。
B 電子書籍読書によってもたらされる愉悦は、読者の自己満足の上に成り立つ明らかな虚構だということ。
C 電子書籍を読む場合、「マッピング」の能力が発揮されないまま、読書が終わってしまうこと。
D 電子書籍は身体実感を疎外するため、読者が物語の「ほんとうの意味」を理解することは不可能に近いということ。
問5 空欄Yに入る文として、最も適切なものを次の中から一つ選べ。
A 「こじつけ」なのだが、それでよいのである
B 「宿命との出会い」など滅多に起こらない
C 「なんとなく」は、「必然」の言い換えなのである
D 「あとぢえ」だと自分で気づいていれば問題はない
問7 傍線3「紙の本から電子書籍に媒体が移るとき、書物と出会い、書物を読み進むために、私たちが必要としていた『何か』が失われる」とあるが、この説明として最も適切なものを次の中から一つ選べ。
A 電子書籍では人間が書物と宿命的な出会いをしたという物語が生まれにくく、また生きていくうえで絶対に必要な地図上に自分の位置を記す能力も育てることができないということ。
B 電子書籍では固有のオーラがないために出会いの「あとぢえ」を得る機会が生まれにくく、また「読みつつある私」と「読み終えた私」との真贋判定能力を育てることができないということ。
C 電子書籍ではタイムラグなしにアクセスできるために暗誦する能力が育ちにくく、また「自己意識」や「超越論的主観性」という認識を育てることができないということ。
D 電子書籍では口承文芸のような耳からの出会いが生まれにくく、また「どこを読んでいるかわからない」ことが多いのでマッピングの能力を育てることができないということ。
問8 次の中から本文の内容として最もふさわしいものを一つ選べ。
A たしかに紙の本はなくならないであろうと思われるが、しかし電子書籍はコスト面や携帯利便性などで優れており、今後は若者を中心にもっと普及していくだろう。
B 紙の本の場合、題名も作者も内容も知らないのに何となく惹きつけられ手にとってしまうことがあるが、電子書籍ではそのような宿命的な出会いは起こりにくい。
C 電子書籍は紙の本を読んでいるのと同じように頁がたわんだり、反対側の活字が透けて見えるような様々な工夫がされており、今後は全行程を上空から俯瞰するような機能ができれば紙の本をしのぐであろう。
D 電子書籍は読みたい本をすぐに読めるというメリットがあり、持ち運びも便利だが、しかし人間の最も大切な生きる力を育てるような機能がないのでこれからの社会ではあまり普及しないだろう。
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【出典】内田樹「活字中毒患者は電子書籍で本を読むか?」(池澤夏樹編『本は、これから』所収)
【要約】紙の本はなくならない。というか、紙の本という確固とした基盤ぬきには、そもそも電子書籍というものは存立することができない。電子書籍の第一の難点は「どこを読んでいるかわからない」ことである。頁の残りを体感できないため、自分が全体のどの部分を読んでいるかが、わからない。そのために、自分自身を含む風景を鳥瞰する能力が涵養されない。第二の難点は、電子書籍では「宿命的な出会い」が起こらないということである。「宿命の本」との出会いのためには、「独特のオーラに反応して、引き寄せられるように手に取った」という「物語」がどうしても必要である。そして、それは紙の本でしかなしえない。紙の本から電子書籍に媒体が移るとき、書物と出会い、書物を読み進むために、私たちが必要としていた機能の「何か」が失われる。紙の本はなくならいと私は思っているが、それは人間の本然的な生きる力の死活にかかわっている。
【解答】
問2 B 問3 D
問4 C 問5 A
問7 A 問8 B
【解説】
問2 本文のテーマに関する重要な問題→しっかり、マスターしてください。
傍線の「その消息」(「事情」という意味)が何を指しているか、を考える。これは、直前の1文の、「グランドレベルで読み進んでいる自分を『読み始めから読み終わりまでの全行程を上空から鳥瞰している仮想的視座』からスキャンする力がなければ、そもそも読書を享受するということは不可能」ということである。
その上で、第7・8段落に注目する。「マッピング」を必要とする点で「読書」と「音楽鑑賞」は共通しているということである。
なお、「マッピングが必須」ということは、「人生」の全ての場面でいえることである。
問3 空欄直前の「そのような」に着目する。紙の本の頁をめくるごとに「読みつつある私」と「読み終えた私」の距離が縮まり、そして、最後の一行を読み終えた瞬間に、「読みつつある私」と「読み終えた私」が出会う「プロセス」を、いかに形容するかが、問題になる。
問4 本文のテーマに関する重要な問題→しっかり、マスターしてください。
傍線部の段落の冒頭に注目する。「電子書籍」は、『読み終えた私』への小刻みな接近感を読者にもたらすことができない」のである。
問5 空欄は、直前の段落の「まとめ」。
直前段落では、「あとぢえ」の「こじつけ」を肯定的に評価している。
「あとぢえ」の「こじつけ」でも、本人が幸福であれば、それでよいのである。
言葉の一般的・常識的なイメージにこだわらずに、読解するようにしよう。
問7 本文のテーマに関する重要な問題→しっかり、マスターしてください。
設問文の「書物と出会い、書物を読み進むために、私たちが必要としていた機能の『何か』」を、本文では、どのように説明しているか、を読み取る。
「書物と出会」うためには、「『独特のオーラに反応して、引き寄せられるように手に取った』という『物語』」(第18段落)が必要である。
「書物を読み進むため」には、「マッピング」(第8段落)の能力が必要である。
問8 本文のテーマに関する重要な問題→しっかり、マスターしてください。
Aは、電子書籍のマイナス面の記述がないので不適切。
Cは、後半部の「今後は全行程」以下が、本文にこのような記述がないので不適切。
Dは、「あまり普及しないだろう」の部分が、本文にこのような記述がないので不適切。
Bは、第12段落(「第二の難点は、電子書籍では『宿命的な出会い』が起こらないということである。」)以下より、適切。
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(4)本問において、注意するべき現代文(国語)・小論文キーワード
【1】自己意識
「自己意識」は、入試現代文(国語)・小論文の最重要キーワードです。
本問では、「自己意識」についての、内田樹氏の、分かりやすい説明が、設問の重要なポイントになっています。
問2のB(正解の選択肢)の、「全体を鳥瞰しその中における自分の位置を確認する能力」は、「自己意識」の、とても分かりやすい説明です。
問4では、「自己意識」の同類語の「『マッピング』の能力」を含んでいるCが、正解です。
「グランドレベルで読み進んでいる自分を『読み始めから読み終わりまでの全行程を上空から鳥瞰している仮想的視座』からスキャンする力」(第6段落)
「『もう聞こえない音』を記憶によって、『まだ聞こえない音』を先駆的直感によって、現在に引き寄せること」(第7段落)
「マッピング(地図上に自分の位置を記すこと)」
「人間が生きてゆく上で必須の能力」(第8段落)
「『おのれ自身を含む風景を鳥瞰する力』」
「ヘーゲルだったらそれを『自己意識』と呼ぶだろうし、フッサールだったら『超越論的主観性』と呼ぶ」
「人間が生きる上での不可欠の能力」(第9段落)
以上は、全て、「自己意識」の説明です。
これらの説明は、よく理解してから暗記することが、必要になります。
そうすれば、他の問題にも対応できるようになります。
【2】「偶然性」(Not 必然性)、「宿命的」( Not 計画的)の人間的な素晴らしさ
内田氏は、第12段落以下で、「本」との「宿命的な出会い」の素晴らしさについても、記述しています。
現代社会は、「合理性」、「計画性」、「論理性」、「科学性」、「必然性」が支配する無味乾燥の、ある意味で馬鹿馬鹿しい世界です。
その息苦しい現代社会において、「本」との「宿命的な出会い」によって、「自分の人生を決定づける宿命の一行」に巡り会うことは、何と「幸福」で「幸運」なことでしょう。
偶然に出会った「紙の本」によって、無味乾燥の、馬鹿馬鹿しい、息苦しい世界に風穴をあけることができるのです。
内田氏は、このことを、「ロマネスク」と形容しています(第18段落)。
この「ロマネスク」は、「人間的」と言い換えることができます。
人間は、全てを、機械のように、合理的に、計画的に、論理的に、生きることに、圧迫感や虚しさを感じる生き物なのでは、ないのでしょうか。
人間は本来、「人生」の様々な場面において、「遊び」を必要とする「気まぐれな生き物」なのです。
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次回も、ハイレベルな予想問題記事を書く予定です。
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