現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

予想問題ー3・11津波ビデオ(個人撮影)の影響力に関する論考

(1)なぜ、この論考に注目したのか

  

(1) 長谷正人氏は、名著『映像という神秘と快楽 〈世界〉と触れ合うためのレッスン』(以文社)で、社会的にも注目された、映像文化論を専門としている社会学者(早稲田大学教授)です。

 著書しては、『映画というテクノロジー経験』(青弓社)、『敗者たちの想像力ー脚本家 山田太一』(岩波書店)等があります。

 長谷氏の論考は、最近、北海道大学、早稲田大学(人間科学)の現代文問題として出題されたので、私は注目していました。

 

 すると、近いうちに、難関大学の現代文(国語)・小論文の出典になりそうな論考がありましたので、難関国公立私立大学の現代文(国語)・小論文対策として、このブログで紹介します。

 それは、「大量消費社会とパーソナル文化」(『世界思想』(世界思想社)(2015年春号所収)(2015年発表)という論考です。

 

 私が、まず、この文章を、難関国公立私立大学の現代文(国語)・小論文の予想出典(予想問題)として意識したのは、この論考が3・11東日本大震災について考察しているからです。

 

 東日本大震災は、入試現代文(国語)・小論文の最新傾向の大きな潮流なので、注目する必要があります。

 この点については、このブログの第1回記事「開設の言葉ー入試現代文の最新傾向ー重要な、気付きにくい2本の柱」を、ご覧ください。

 下の、冒頭記事画像から、リンクできます。

 

 

 

 東日本大震災と間接的な関連性のあるものも、チェックするべきですが、今回の論考は、3・11の巨大津波に関する内容です。

 冒頭から、「『テレビが溢れ出てくるようだ』」と、東日本大震災の、あの凄まじい「巨大津波」について論じていて、現代文・小論文の最新傾向に合致しています。

 

(2) しかも、長谷氏は、論考の最終部分で、東日本大震災をきっかけに、私たちの「世界観」が変化したことに言及しています。

  これは、卓見です。

  まさに、私の見るところ、最近の入試傾向に合致しているのです。

 

(3) また、最近の入試現代文・小論文のキーワードになっている「対抗文化」「オルタナティブ」が、この論考の「キーワード」になっているのも、この論考に注目した理由です。

 次の章で、「対抗文化」・「オルタナティブ」について説明します。

 

(2)「対抗文化」・「オルタナティブ」の意味

 

  「対抗文化」(カウンターカルチャー)(下位文化)(サブカルチャー)とは、1960年代に、欧米・日本で、支配的文化に対する対抗を目標にした若者の文化的運動であり、ライフスタイルです。

 具体的には、「管理社会」の「合理主義」、「効率主義」に反対し、既存の価値観、支配体制、大量消費社会を徹底的に批判して、ヒッピー、ヴェトナム反戦運動、エコロジー運動等の形態をとりました。

 ちなみに、長谷氏は、この論考の中で、文明的利便性を拒絶して、「自然の中で精神的に豊かに生きようとする、オルタナティブな生活を探求する運動」と言っています。

 そして、若者の文化的運動は、現行社会に代わる「代替社会(オルタナティブ ソサイティ)」を目指しました。

 こうした動きは、1970年代の「石油ショック」を前後に終息していきました。

 が、こうした文化運動を通じて、「マイノリティ」が「自己表現」のきっかけを掴んだ、そして、「多様性」が認知された、と言えるのです。

 

(3)長谷氏の論考の概要、解説

 

(1) 長谷氏の論考のポイントは、「対抗文化」「オルタナティブ」の流れを追うと、分かりやすくなります。

  また、この論考は、3部構成になっています。解説も、それに従います。

 

 (2)第1部の概要は、以下の通りです。

 高度経済成長の負の側面が、公害問題、石油危機、ドルショック等により顕在化した70年代になって、テレビ・メディアが宣伝してきた「大量消費社会」に対して、疑いの目が向けられるようになった。

 そうした「大量消費社会」を疑う「文化革命」の潮流こそが、「サブカルチャー」の発信源だったはずである。

 

 ちなみに、冒頭部分の「『テレビが溢れ出てくるようだ』」という文章は、著者によれば、「テレビの力によって作り出されてきた文明生活が、テレビを見ている自分に向かって流れ出してくるかのような恐怖」を表現したものとのことです。

 

(3)第2部の概要は、以下の通りです。

 70年代後半に、テレビ的生活が疑われ始めたが、80年代以降、「バブル経済」に踊って、私たちの社会は、「低成長時代をいかに生きるか」というオルタナティブな生活への問いかけを忘れていった。

 そして、バブル経済崩壊後も、東日本大震災後も、その流れは、変わっていない。

 

(4)第3部の概要は、以下の通りです。

 それでも、70年代的な文化革命の潮流は、細々と続き、人びとの生活感覚・意識を変化させつつあるのではないか。

 特に、取り上げたいのは、パソコンの普及により起きた生活文化の変容である。

 パソコンは、一人一人の個人が、自分の内面世界と向き合うための道具として発明された「反=テレビ文明的」側面があるからだ。

 だから、私たちの社会は、この機械の影響下で無意識のうちに、パーソナルな内面的世界を表現する文化を育てているのではないか。

 その一例が、東日本大震災の時の、あの個人撮影の津波の映像である。

 

 以上のように述べたあとで、長谷氏は、実に、素晴らしい文章を記述しています。

 

 「ホームムービーのカメラで捉えられたあの津波映像は、実は私たちの世界観にパーソナルな感覚による変化をもたらしたのではないか。それは、匿名の人びとの私的世界のありように自分の想像力を広げるようなパーソナルな欲望を育むための訓練の一歩となったのではないか」

 ここが、最大のポイントです。

 ここは、丁寧に読む必要があります。

 「ホームムービーのカメラで捉えられたあの津波映像」は、確かに、私たちの「世界観」、そして、「人生観」・「死生観」・「自然観」・「海に対する認識」を、大きく揺さぶりました。

 それは、あの個人撮影ビデオが、「パーソナルな感覚」で撮られたものだからです。

 焦点がブレ、心理的動揺に同調するようにカメラが揺れ、焦点がブレ、周囲の人びとの恐怖のうめきが、津波の音に混ざって、聞こえてきました。

 その臨場感は、凄まじいものです。

 巨大津波の想像以上の破壊力が実感できます。

 そこにいる人びとの身の安全が、気になりました。

 そして、あの現場にいる被災者の、これからの生活の多大な困難さ、を思わず想像してしまいました。

 長谷氏も指摘していますが、「映画のような俯瞰的な視点で捉えられた巨大津波」を見ているだけでは、「匿名の人びとの私的世界のありよう」に、「自分の想像力」を広げることは、できません。

 「ある地域に発生した特異な自然現象」として見るだけです。

 そこに人間がいることは、分かっていても、実感レベルでは、明確化しているとは、言い難いです。抽象的なレベルの認識です。

 

 あれは、今までにない映像体験でした。

 私たちは、幾つもの、個人撮影の巨大津波映像をテレビで見ました。

 そのたびに、私たちは、息をのみ、映像を凝視したのです。

 私たちの強烈なショック状態は、継続的な大きな余震と共に、1年間近く続きました。

 まだ、完全に、そのショック状態は、消えていないのかも、しれません。

 あの時から、私たちの「生き方」は、大きく変化したと言って良いでしょう。 

 「日々の日常」の価値の再評価が、始まりました。

 「絆」・「関係性」の重要性が再認識され、ボランティア希望者が増加し、全国から義援金・救援物資が送られました。

 

 以上のように考えると、長谷氏の主張には、共感せざるを得ません。

 確かに、「ホームムービーのカメラで捉えられたあの津波映像」は、被災地域の人びとの「ありよう」に、私たちが「自分の想像力」を広げるための、「訓練の一歩」になったのです。

 この部分は、かなりの名文だと思います。

 

 長谷氏の、この論考は、鋭い分析がなされていて、そのうちに、難関大学の現代文(国語)・小論文に出題される可能性が高いと思われます。

 

(4)追記 

 

 あの膨大な数の、津波を記録した個人撮影ビデオは、あれから、どうなったのでしょうか。

 どこかで、「ビデオライブラリー」として、まとめられているのでしょうか。

 国、各県、市町村、あるいは、国会図書館、NHKが、ビデオライブラリー開設に向けて準備しているのでしょうか。

 インターネットで調査すると、総務省が開設に向けて準備中のようですが、国家的な大プロジェクトとして、予算と人手をかけて、しっかり進めてもらいたいです。

 あの膨大なビデオは、後世に残すべき、「被災地域の重要な歴史的な記録物」です。「悲しみの記録」です。

 そして、「日本の防災科学の限界の記録」であり、「防災教育」・「哲学教育」上の、最高レベルの記録です。

 

 私たちは、被災者のことを忘れないためにも、そして、自分の「生き方」を時々振り返えるためにも、あのビデオの重要性を忘れては、ならないのです。

 

 

 

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