現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

予想問題「擬似群衆の時代」『書物の変』港千尋/早大・千葉大過去問

(1)はじめに

 港千尋氏は、入試国語(現代文)・小論文におけるトップレベルの頻出著者です。
 特に、『書物の変 グーグルベルクの時代』は、最近の頻出著書になっています。


 以下に、主な出題例を挙げます。小論文の場合は、その旨を表記します。現代文(国語)は、表記しません。

 早稲田大学(スポーツ科学部)、
 千葉大学、
 島根大学(小論文)、
 立教大学(全学部)、

 以上のうち、早稲田大学(スポーツ科学部)と千葉大学では、同一箇所(「疑似群衆の時代」)から出題されました。
 この問題は、これからも出題の可能性があるので、この記事で解説します。


 今回の記事の項目は、以下の通りです。

(2)予想問題解説/「疑似群衆の時代」港千尋/早稲田大学スポーツ科学部・千葉大学過去問

 (3)港千尋氏の紹介

 (4)当ブログにおける「情報化社会」関連記事の紹介

 (5)当ブログにおける「早大現代文・小論文」関連記事の紹介

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書物の変―グーグルベルグの時代

 

 

(2)予想問題解説/「疑似群衆の時代」港千尋/早稲田大学スポーツ科学部・千葉大学過去問

 

(問題文本文)(概要です)

(【1】・【2】・【3】・・・・は当ブログで付記した段落番号です)

(赤字は当ブログによる「強調」です)

(青字は当ブログによる「注」です) 


(問)次の文章を読み、後の問いに答えよ。


【1】ヨーロ ッパで写真が発明されたのは 19世紀の前半だが、 その発明直後から複製メディアとして大きな成功を収めたのは、まさしくそれが大衆社会の到来に重なっていたからである。それ以来レンズは多くの人間の集団を写してきた。人間は生まれてから死ぬまで、その人生の節目ごとに写真に撮られてきた。家族写真にはじまり、学校や会社、あるいは村や町などの祭や〔A〕行事には必ず記念写真が付き物であり、集団はイメージによって記録されてきた。

 

ーーーーーーーー


(設問)

 問1 空欄Aに入る2字の語句を次の中から1つ選べ。(早大・スポーツ科学部)

イ 葬礼 ロ 集団 ハ 重要 ニ 年中 ホ 協賛

 

……………………………


(解説・解答)

問1(空欄補充問題)

 「家族写真にはじまり、学校や会社、あるいは村や町などの祭や〔A〕行事には必ず記念写真が付き物であり、集団はイメージによって記録されてきた」の文脈を押さえてください。

 

(解答) ニ

 

ーーーーーーーー

 

(問題文本文)(概要です)

【2】19世紀後半には南北戦争やクリミア戦争にも写真家が駆けつけて、写真が報道の分野に大きな一歩を踏み出してゆく。おそらく人類は、この170年に限ってみても、それ以前に生産されたイメージよりも多くの映像を残してきただろう。わたしたちが1日の間に目にすることの映像の量が、中世に生きた人間が一生の間に出会う絵の量をはるかに超えているとしても、なんら不思議はない。
【3】時代が動く時、それはしばしば大きな群衆現象を伴う。1989年代の秋から冬にかけて、旧ソ連と東ヨーロッパで起きた一連の革命は、日増しに大きくなるテモや集会が雪崩のようにして、当時の政権を倒していった。わたし自身それらのデモや集会、あるいはその後に続く内戦などを見つめてきたが、21世紀も最初の10年を過ぎようとする今、時代を動かしてゆく群衆のあり方が、少し変わってきているようにみえる。その変化は当然、社会の変化と連携しているはずである。
【4】少なくともベルリンの壁が崩壊するまで、単なる1  群衆現象はマスメディアと切り離すことの出来ない関係にあった。権力は群衆の中から生まれ、また群衆は権力との緊張関係の中に存在するが、その関係をとりもつものとしてマスメディアが、大きな影響力をもってきたことは改めて言うまでもない。その役割自体にそれほどの変化はないが、個人の側から見ると、わたしたちが現在手にしている 2  新しい種類のメディアには驚くべきものがある。言うまでもなく、小型の情報通信端末と、それに向けたさまざまなサービスである。メディアの小型化と複合化とともに、情報の配信技術も高度化し、映像や音楽をどこでも受信するだけでなく、個人がさまざまな情報を配信することも日常的な活動となっている。

 

ーーーーーーーー

 

(設問)

問2 傍線部1「群衆現象はマスメディアと切り離すことの出来ない関係にあった」は、具体的にはどういうことか。その説明として最適なものを次の中から1つ選べ。

(早大・スポーツ科学部)

イ 新聞や雑誌のようなマスメディアが、多くの人々によって購入されることで利益をあげ、部数を伸ばして発展してきたということ。

ロ 大衆社会においては、ことあるごとに写真を撮ることが当然のこととなっていったため、群衆もその中で記録され、マスメディアの中にイメージとして残されていくこと。

ハ マスメディアは、多くの読者、視聴者を対象としており、集団に影響を与えるため、偏りのない情報を流すことが求められてきたこと。

ニ テレビや新聞の情報によって人々が集まって行動したり、群衆の行動を、それらメディアが報じることで、より大きな行動を引き起こしたりすること。


……………………………

 

(解説・解答)

問2(傍線部説明問題)

 傍線部直後の一文「権力は群衆の中から生まれ、また群衆は権力との緊張関係の中に存在するが、その関係をとりもつものとしてマスメディアが、大きな影響力をもってきたことは改めて言うまでもない。」に注目してください。

 傍線部1の説明になっています。

 

(解答) ニ


ーーーーーーーー

 

(設問)

問3 傍線部2「新しい種類のメディア」とあるが、本文では、これらがどのような変化をもたらしたとしているか。その説明として最適なものを次の中から選べ。

(早大・スポーツ科学部)

イ 情報通信端末の普及により、職場や学校といった場所にとらわれず、どこでも映像が見られるようになった。

ロ 誰でも、どこからでも、多くの人に向けた文章や映像を気軽に送受信することができるようになった。

ハ 新たな映像技術によって、実際には存在しない人物や事物が細部まで細かく映像化できるようになった。

ニ 遠くで起こった出来事が多くの人々に知らされることによって、誰しもが情報を共有できるようになった。


……………………………


(解説・解答)

問3(傍線部説明問題)

 傍線部直後の2文で傍線部を説明しています。
「言うまでもなく、小型の情報通信端末と、それに向けたさまざまなサービスである。メディアの小型化と複合化とともに、情報の配信技術も高度化し、映像や音楽をどこでも受信するだけでなく、個人がさまざまな情報を配信することも日常的な活動となっている。」

 イは、「情報の配信」の説明が、ありません。

 

(解答) ロ

 

ーーーーーーーー

 

(問題文本文)(概要です)

【5】この変化の特徴のひとつは、メディアが家や家庭といった、特定の場所に固定されることから完全に解放された点にある。モバイルという言葉が端的に示しているように、受信と発信の核となる移動型のパーソナルメディアが爆発的に拡大している。その一方で、超小型化したコンピューターが、人間社会のいたるところに入り込み、今やわたしたちは朝目覚めてから夜寝るまで、いや寝ている間さえ、コンピューターの存在から逃れることはできない。電子マネーを例にとるまでもなく、情報化社会は人間の社会活動のすべてがコンピューターを介して執り行われる方向へと、つき進んでいる。

【6】3  そのことがもたらす効率や安全の旗印と引き換えに、私たちが非常に厳しい管理と監視の社会に生きなければならないことも、なかば事実である。情報管理が行き届いた現在は、20世紀の群衆がマスメディアと取り持っていた関係とは、質的に違う状態へ入りつつあることは、誰もが肌で感じることではないだろうか。ポスト産業社会ならぬ、ポスト情報化社会に、この地球全体が入りつつあることを、群衆を眺めてきた者のひとりとして実感するのだ。そして、このことが今日の群衆に、新たな性格を与え始めているように思える。それは互いに関係している。ふたつの増大によって特徴づけられる。


ーーーーーーーー

 

(設問)

問4 傍線部3「そのことがもたらす効率や安全の旗印と引き換えに、私たちが非常に厳しい管理と監視の社会に生きなければならない」の具体的な事例として適切でないものを次の中から1つ選べ。(早大・スポーツ科学部)

イ 匿名、別名で意見を述べたり、コミュニケーションを行う機会が増えることで、無責任で一方的な情報が流される危険性が生じる。

ロ 容易に買い物や取引ができる一方で、自分の買い物の傾向や好みについての情報が、別の企業に売り渡される危険性も生まれる。

ハ 携帯電話を使うことで、その通信内容や、どこで何をしていたかが記録として残されたり、誰かに見られたりする危険性が出てくる。

ニ 学校の中の色々な場所を映像で映し出すことで、不審者が入ってくることを防止できる反面、学生までもそれによって常に見張られる危険性がある。

 

……………………………

 

(解説・解答)

問4(傍線部説明問題)

 「適切でないもの」を選ぶことに注意してください。

 傍線部3「そのことがもたらす効率や安全の旗印と引き換えに、私たちが非常に厳しい管理と監視の社会に生きなければならない」自体を、熟読する必要があります。


 また、傍線部直後の記述がヒントになっています。

情報管理が行き届いた現在は、20世紀の群衆がマスメディアと取り持っていた関係とは、質的に違う状態へ入りつつあることは、誰もが肌で感じることではないだろうか。ポスト産業社会ならぬ、ポスト情報化社会に、この地球全体が入りつつあることを、群衆を眺めてきた者のひとりとして実感するのだ。そして、このことが今日の群衆に、新たな性格を与え始めているように思える。それは互いに関係している。ふたつの増大によって特徴づけられる。」

 イは、後半部分が「管理と監視」と無関係です。

 

(解答) イ


ーーーーーーーー

 

(問題文本文)(概要です)

【7】その 1 つは、X  疑似群衆の増大と名付けることが出来るだろう。インターネット上に形成されている、さまざまなコミュニティを想像すると分かりやすいかもしれない。Twitterのように言葉を介している場合もあれば、オンラインゲームのようにアクションの共有によって形成されている群衆もある。あるいは登録している数が数百万という、仮想の都市「セカンドライフ」。すでに各国の企業が出資しているばかりでなく、セカンドライフ上にギャラリーや美術館をオープンするアーティストも出てきている。

【8】こうした、実空間で互いに隔離されているのに、情報空間では互いに影響を与えられる具体的な関係をもっている擬似的な群衆が、より実在の群衆を凌駕してしまうという現実である。これはお茶の間でテレビの前に座っている間に形成されている、視聴者という名の群衆とは明らかに異なる性格のものだ。それは物理的な建築を必要としない、新しい都市であり、どこにも場所をもたないが、あらゆるところに存在しているとも言える空間である。4  わたしたちが生きる都市とは、この空間と絶え間のないイメージ交換によって成立している。

 


ーーーーーーーー

 

(設問)

問5 傍線部4「わたしたちが生きる都市とは、この空間と絶え間のないイメージ交換によって成立している」は、どういうことか。その説明として最適なものを次の中から1つ選べ。(早大・スポーツ科学部)

イ インターネット上の仮想の集団やコミュニティは、私たちが生きている実際の空間とは別であり、現実とかけ離れた意見やイメージが交換されている。

ロ 実際には、バラバラな場所にいる人々が、互いにイメージを交換しあうことにより、あたかも1つの場所に集まっているかのような認識が生まれる。

ハ 仮想空間の中で生まれた評価や意見が、そこにあたかも群衆が存在しているかのようなイメージを作り出し、そのイメージが現代の群衆を作り上げてもいる。

ニ 現代は、インターネット上の意見やコミュニケーションからの影響が大きいために、私たちの都市は、それら仮想の空間に近い形をとりはじめている。 


……………………………

 

(解説・解答)

問5(傍線部説明問題) 

 傍線部の「わたしたちが生きる都市とは、この空間と絶え間のないイメージ交換によって成立している。」に着目して、傍線部4を含む【8】段落を熟読するとよいでしょう。

 特に、下記の赤字部分に注目してください。

【8】段落「こうした、実空間で互いに隔離されているのに、情報空間では互いに影響を与えられる具体的な関係をもっている擬似的な群衆が、より実在の群衆を凌駕してしまうという現実である。これはお茶の間でテレビの前に座っている間に形成されている、視聴者という名の群衆とは明らかに異なる性格のものだ。それは物理的な建築を必要としない、新しい都市であり、どこにも場所をもたないが、あらゆるところに存在しているとも言える空間である。4  わたしたちが生きる都市とは、この空間と絶え間のないイメージ交換によって成立している。」

 

(解答) ハ

 

ーーーーーーーー

 

(問題文本文)(概要です)

【9】もう 1 つは〔 B 〕の増大と仮に呼ぶことが出来るだろう。かつてなかったほどの多くの情報チャンネルを持った個人は、意思の決定を先延ばしにする傾向がある。それは必ずしも、待ち合わせの場所をあらかじめ決めないというような、単なる習慣の変化ではない。残されている時間がある限り、より多くの情報を手にしつつ、最後の瞬間まで心を決めない。決定しない群衆が、購買から投票までさまざまな局面において、影響を増してゆくのではないか。例えば、選挙に関するアンケートで「分からない」と回答する比率が多い時、必ずしもそれは消極的な意見を表しているのではないのかもしれない。それこそが擬似群衆に特有の態度であるかもしれない。


ーーーーーーーー

 

(設問)

問6 空欄Bに当てはまる言葉を次の中から1つ選べ。(早大・スポーツ科学部)

イ 非論理性
ロ 非日常性
ハ 非決定性
ニ 非現実性
ホ 非公開性


……………………………


(解説・解答)

問6(空欄補充問題)

 空欄Bの直後の記述を熟読してください。

 →要約ではなく、熟読です。ましてや、「要約のメモ」は、入試本番では、有害無益でしかありません。

 特に、赤字部分に注目してください。

「もう 1 つは〔 B 〕の増大と仮に呼ぶことが出来るだろう。かつてなかったほどの多くの情報チャンネルを持った個人は、意思の決定を先延ばしにする傾向がある。それは必ずしも、待ち合わせの場所をあらかじめ決めないというような、単なる習慣の変化ではない。残されている時間がある限り、より多くの情報を手にしつつ、最後の瞬間まで心を決めない。決定しない群衆が、購買から投票までさまざまな局面において、影響を増してゆくのではないか。」


(解答) ハ

 

ーーーーーーーー

 

(問題文本文)(概要です)

【10】このような特徴を潜在させてレンズの前に立ち現れる人間たちは、かつてとは違った装いをしているだろうか。歴史上さまざまな群衆が記録されてきたが、ポスト情報化社会を形成する最大の群衆は,目に見えないのではないか。それをひとことで表すならば、Y  「待機する群衆」ではないかと思う。都市だけではない。地球上のどこにいても、情報システムを通じてつながっている群衆は、常に何かを待っている。たとえば労働の場において、非正規社員や移民労働者の不当解雇が世界規模の問題となっているが、それは見方を変えると、常に待機することを余儀なくされる人々が爆発的に増大しているということではないかと思うのである。

【11】彼女や彼は、掌の小さな画面を見つめながら、何かを待っている。待つ群衆がいかなる力を潜在させているのか、それが見えてくるかどうかは、芸術にとっても政治にとっても、無視の出来ないテーマになるであろう。(港千尋「擬似群衆の時代」)


ーーーーーーーー

 

(設問)

問7 本文の中で、筆者は「現在の群衆の特徴」をいかにとらえているか。最適なものを次の中から1つ選べ。(早大・スポーツ科学部)

イ 仮想空間で生まれた意見や評価は、実際に集まった群衆によるものではないが、今日では実際の群衆よりも強い影響力さえ持っている。

ロ 写真というメディアは大衆社会とともに生まれ、群衆を記録してきているので、現代の群衆もまた写真からその性質をとらえることが有効である。

ハ 厳しい管理と監視の中にある現代社会では、自分の行動を目立たせないよう、自身の決定を表明しない傾向が群衆の中に生まれている。

ニ 「待機する群衆」は、特定の思想をもって積極的に集まって行動するわけではないので、現実には社会を変えていく力となることは難しい。


……………………………

 

(解説・解答)

問7(キーワード説明問題)

 イは傍線4を含む【8】段落・第1文に一致しています。

【8】段落「こうした、実空間で互いに隔離されているのに、情報空間では互いに影響を与えられる具体的な関係をもっている擬似的な群衆が、より実在の群衆を凌駕してしまうという現実である。これはお茶の間でテレビの前に座っている間に形成されている、視聴者という名の群衆とは明らかに異なる性格のものだ。それは物理的な建築を必要としない、新しい都市であり、どこにも場所をもたないが、あらゆるところに存在しているとも言える空間である。4  わたしたちが生きる都市とは、この空間と絶え間のないイメージ交換によって成立している。

 

(解答) イ

 

ーーーーーーーー

 

(設問)

問8 傍線部X 「擬似群衆」(【7】段落)とはどのようなものか。120字程度で分かりやすく説明せよ。(千葉大)


……………………………


(解説・解答)

問8(傍線部説明問題・キーワード説明問題・記述問題)

 「疑似群衆」については、以下の段落をまとめてください。

【8】段落「こうした、実空間で互いに隔離されているのに、情報空間では互いに影響を与えられる具体的な関係をもっている擬似的な群衆」「それは物理的な建築を必要としない、新しい都市であり、どこにも場所をもたないが、あらゆるところに存在しているとも言える空間である。」

【10】段落「地球上のどこにいても、情報システムを通じてつながっている群衆」

 

(解答)
実空間では互いに隔離されているのに、情報空間では互いに影響を与えられる具体的な関係を持っていることに代表される、特定の場所に固定されることから解放されて場所を持たないが、あらゆる所に存在しているといえるもの。

 

ーーーーーーーー

 

(設問)

問9 傍線部Y 「待機する群衆」(【9】段落)を筆者はどのように評価していると考えられるか。文章全体を視野に入れながら、170字程度で説明しなさい。(千葉大)

 

……………………………

 

(解説・解答)
問9(傍線部説明問題・キーワード説明問題・記述問題)

 「待機する群衆」と、「筆者によるその評価」については、以下の段落を、まとめるとよいでしょう。

【6】段落「3  そのことがもたらす効率や安全の旗印と引き換えに、私たちが非常に厳しい管理と監視の社会に生きなければならないことも、なかば事実である。情報管理が行き届いた現在は、20世紀の群衆がマスメディアと取り持っていた関係とは、質的に違う状態へ入りつつあることは、誰もが肌で感じることではないだろうか。ポスト産業社会ならぬ、ポスト情報化社会に、この地球全体が入りつつあることを、群衆を眺めてきた者のひとりとして実感するのだ。そして、このことが今日の群衆に、新たな性格を与え始めているように思える。それは互いに関係している。ふたつの増大によって特徴づけられる。」

【7】段落「その 1 つは、A  擬似群衆の増大と名付けることが出来るだろう。インターネット上に形成されている、さまざまなコミュニティを想像すると分かりやすいかもしれない。Twitterのように言葉を介している場合もあれば、オンラインゲームのようにアクションの共有によって形成されている群衆もある。」

【9】段落「もう 1 つは〔B=非決定性〕の増大と仮に呼ぶことが出来るだろう。かつてなかったほどの多くの情報チャンネルを持った個人は、意思の決定を先延ばしにする傾向がある。残されている時間がある限り、より多くの情報を手にしつつ、最後の瞬間まで心を決めない。決定しない群衆が、購買から投票までさまざまな局面において、影響を増してゆくのではないか。」

【10】段落「歴史上さまざまな群衆が記録されてきたが、ポスト情報化社会を形成する最大の群衆は,目に見えないのではないか。それをひとことで表すならば、Y  「待機する群衆」ではないかと思う。都市だけではない。地球上のどこにいても、情報システムを通じてつながっている群衆は、常に何かを待っている。たとえば労働の場において、非正規社員や移民労働者の不当解雇が世界規模の問題となっているが、それは見方を変えると、常に待機することを余儀なくされる人々が爆発的に増大しているということではないかと思うのである。

【11】段落「彼女や彼は、掌の小さな画面を見つめながら、何かを待っている。待つ群衆がいかなる力を潜在させているのか、それが見えてくるかどうかは、芸術にとっても政治にとっても、無視の出来ないテーマになるであろう。

 

(解答)
ポスト情報化社会に移行しつつある現代社会において、「擬似性」・「非決定性」という明確な特徴を持つ「待機する群衆」が出現したのは、ある意味で、きわめて当然のことである。爆発的に増大しつつあるこのような人々がいかなるバワーを潜在させているのかは、芸術においても政治においても、無視することができない、注目するべきテーマであると評価している。

 

 

(3)港千尋氏の紹介

 

港  千尋(みなと ちひろ、1960年9月25日生まれ

写真家、映像人類学者。早稲田大学政治経済学部卒業。南米滞在後、パリを拠点に写真家として活躍。また同時に、混迷の時代をするどく射抜く独自の批評活動を展開。芸術の発生、記憶と予兆、イメージと政治などをテーマに、ラディカルな知と創造のスタイルを提示。1995年より多摩美術大学美術学部で教鞭をとり、現在は同大学情報デザイン学科教授。
 2006年〈市民の色〉で伊奈信男賞受賞。2007年第52回ヴェネチア・ビエンナーレ美術展における日本館の展示企画コミッショナーに就任。

 

【受賞歴】

1997年 『記憶 - 「創造」と「想起」の力』でサントリー学芸賞受賞(社会・風俗部門)

2006年 写真展「市民の色 chromatic citizen」で第31回 伊奈信男賞受賞(ニコンサロン)

 

【単著】 

『ブラジル宣言』(弘文堂 1988)

『太平洋の迷宮 キャプテン・クックの冒険』(リブロポート 1988)

『群衆論 20世紀ピクチャー・セオリー』(リブロポート 1991/のち、ちくま学芸文庫)

『考える皮膚 触覚文化論』(青土社 1993)

『注視者の日記』(みすず書房 1995)

『記憶 創造と想起の力』(講談社選書メチエ 1996/サントリー学芸賞)

『写真という出来事 クロニクル1988-1994』(フォトプラネット 1998)

『映像論 〈光の世紀〉から〈記憶の世紀〉へ』(NHKブックス 1998)

『自然まだ見ぬ記憶へ』(NTT出版 2000)

『遠心力 冒険者たちのコスモロジー』(白水社 2000)

『予兆としての写真 映像原論』(岩波書店 2000)

『第三の眼 デジタル時代の想像力』(廣済堂出版 2001のち新編、せりか書房 2009)

『洞窟へ 心とイメージのアルケオロジー』(せりか書房 2001)

『影絵の戦い  9・11以降のイメージ空間』(岩波書店 2005)

『レヴィ=ストロースの庭』(NTT出版 2008)

『愛の小さな歴史』(インスクリプト 2009)

『書物の変 グーグルベルグの時代』(せりか書房 2010)

『芸術回帰論』(平凡社新書 2012) 

『ヴォイドへの旅 空虚の力の想像力について』(青土社 2012) 

『ヒョウタン美術館』(WAVE 出版)

『夢みる人のクロスロード 美術と記憶の場所』(平凡社)

 など。

 

 

(4)当ブログにおける「情報化社会」関連記事の紹介

  

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 ーーーーーーーー

 

 今回の記事は、これで終わりです。

 次回の記事は約1週間後の予定です。

 ご期待ください。

 

    

 

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書物の変―グーグルベルグの時代

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芸術回帰論 (平凡社新書)

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ヒョウタン美術館 “The Gourd Museum

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夢みる人のクロスロード: 芸術と記憶の場所

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頻出難関私大の現代文 (αプラス入試突破)

 

5週間入試突破問題集頻出私大の現代文―30日間スーパーゼミ (アルファプラス)

 

 

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