現代文最新傾向LABO 斎藤隆

入試現代文の最新傾向を分析し、次年度の傾向を予測する大胆企画

直前特集・小論文・総整理ー慶大・難関大ー頻出論点・重要ポイント

(1)入試直前特集・小論文・総整理ー慶大・難関大ー頻出論点・重要ポイント

 

 小論文対策・入試直前特集として、小論文の重要ポイント・頻出論点を、慶応大の過去問などを通して、提示していきます。

 最近の記事の重要部分を一部抜粋を列挙していきますが、一部抜粋の部分にも省略があります。全文を読みたい方は、リンク画像から、当該記事を、お読みください。

 

 なお、前回の記事も、合わせて、お読みください。

  


 

 

(2)小論文答案における「要約・記述」の重要性

 

 

 

 上記の記事の中で、「小論文答案における『要約』記述の重要性」について記述しました。

 合格答案を書く上で、必要不可欠なポイントなので、ここに再掲します。

 ……………………………

 

 〈小論文問題の「要約」について〉

 本番の小論文問題で、課題文が出題された時には、必ず、「課題文の要約」を書くようにしてください。

 この「要約」に、課題文のポイントを書くことによって、「受験生の理解度」を示すことが出来ると共に、「答案の方向性」を予告することが出来ます。

 答案のレベル(受験生の理解度)、方向性が、採点者にわかりやすくなるのです。

 「小論文の採点基準」の一つに、「理解度の項目」があります。

 この「理解度の項目」のポイントを、確実に獲得することが可能になるのです。

 このことは、あまり知られていないようです。

 が、過去に、難関大の講師として入試小論文の採点経験のある予備校講師は、例外なく、このことを教えているようです。

 「要約提示による理解度のアピールが、いかに重要か」を示す参考資料を、以下に引用します。

 慶應大法学部・小論文の問題文の前に、毎年度、付加されている注意事項です。

「この試験では、広い意味での社会科学・人文科学の領域から読解資料が与えられ、問いに対して論述形式の解答が求められる。(中略)その目的は受験生の理解、構成、発想、表現などの能力を評価することにある。そこでは、読解資料をどの程度理解しているか(理解力)(←太字は、当ブログによる強調)、理解に基づく自己の所見をどのように論理的に構成するか(構成力)、論述の中にどのように個性的・独創的発想が盛り込まれているか(発想力)、表現がどの程度正解かつ豊かであるか(表現力)が評価の対象となる。」 

 難関国公立大の小論文試験も、同様の採点基準のはずです。

 

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(3)異文化理解(国際化・グローバル化)ー1999慶応大・文学部の問題を通して解説

 


 

 上の記事(一部抜粋。しかも、省略あり)を通して、「異文化理解」(「国際化」・「グローバル化」)のポイントを解説をします。

 

……………………………

 

  「異文化理解の困難性あるいは不可能性」について説明します。

 1999年度の慶応大(文学部)小論文に出題された、川田順造氏の『サバンナの博物史』を紹介します。

 川田氏は、最近でも、大阪大、早稲田大、上智大の現代文(国語)に出題されている入試頻出著者(→トップレベルの文化人類学者)です。

 

 以下に、問題文本文の、キーセンテンス部分の概要を記述します。

 (なお、赤字緑字は、当ブログによる強調です)

 

(問題文本文の冒頭部分)

「近年になって私は、サバンナに生きるモシ族の人たちの、自然に対するあの強靭さ、一切の感傷を払拭した即物性とでもいうべきものを、幾分かは理解できると思うようになった。かつては私はそれを単に、自然に対するこの人たちの感動の欠如というふうにとっていたのだったが。」

 (問題文本文の最終部分)

「『自然』という、モシ語にもない概念によって、たとえば『モシ族における自然の利用』といった形でこのサバンナの文化を論んじることが、一方的な枠組みによる対象の切りとりになりやすいことはあきらかだ。

 私自身しばしば行ってきたこのような切りとりは、彼らの思考の枠組みだけをとりいれることによって、『正しい』ものとなるわけでは勿論ない。彼らの枠組みと私の枠組みとの、葛藤ないし相互作用のうちに、世界像ないしイデオロギーと、技術・物質文化とが、相互にもっているはずのかかわりを、具体的にあきらかにしてゆくこと。私が将来に向かって、未解決のままにかかえている課題の一つだ。」 

 

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(当ブログによる解説)

 

 設問は、以下のようになっています。

「問1 モシ族における「もの」と「ひと」の関係を要約して述べなさい。(300字以内)

問2 自分たちと異なる文化を理解するための心構えを、筆者の見方をとり入れながら、具体的な事例をまじえて述べなさい。(400字以内)」

 

 問2は、まさに、「異文化理解のための心構え」を聞いてきています。

 この問題については、「異文化理解の困難性ないし不可能性」(赤字部分)を前提に、それでも、真の異文化理解を目指すべきである(緑色部分)、という方向で論じて下さい。

 お、「世界像ないしイデオロギー」とは「モシ族の文化の価値観」を、「技術・物質文化」とは「現代文明」を、意味しています。

 また、「相互にもっているはずのかかわり」とは、「モシ族の文化の価値観」と「現代文明の価値観」の「重なり合う部分」・「共通点」を意味しています。

 僅かな「共通点」を手掛かりに、 真に異文化を理解していこうとする、慎重で客観的な態度を表明しているのです。

 

 ところで、問2の「具体的な事例」については、「日本と韓国」、または、「日本と西欧」の「食文化の違い」に言及するとよいと思います。

 

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 (4)「国家の自律性・アイデンティティ」ーグローバル化・国際化ー福沢諭吉『文明論之概略』(頻出出典)

 

さらば、資本主義 (新潮新書)

 

 

 

 

 


 以下は、上記の記事の一部抜粋です。省略も、かなりあります。全文を読みたい方は、上のリンク画像をクリックしてください。

 

……………………………

 

(1)現代文・小論文・オリジナル予想論点解説ー「福沢諭吉から考える『独立と文明』の思想」(『さらば、資本主義』第6章・佐伯啓思・新潮新書)を題材として作成

 

 【なぜ、この論考に注目したのか?】

① 第一の理由は、福沢諭吉の論考、特に、『文明論之概略』は、最近では、慶応大・小論文(総合政策)(商学部)、早稲田大・現代文(文化構想)などで出題されている頻出出典だからです。

 

② 第二の理由は、日本社会で論点化している「集団的自衛権」・「憲法改正問題」などを契機として、最近では、難関大の入試現代文(国語)・小論文でも、「国家論」・「国家と国民の関係論」・「民主主義論」・「愛国心」が、流行になりつつあるからです。

 

 (2)「福沢諭吉から考える『独立と文明』の思想」の解説(概要の解説)

 

 以下に、第6章の「見出し」(→【】で表示)毎に、「佐伯氏の論考の概要」を示しつつ、「当ブログの解説」を記述していきます。

 (なお、①・②・③・・・・は、「当ブログで付記した段落番号」です)

 (また、青字は「当ブログによるフリガナ・注」です)

 (赤字は「当ブログによる強調」です)

 

【1】「明治日本で最高の書物」

 (佐伯氏の論考の概要)

 「『文明論之概略』は、明治日本が生み出した最高の書物の一つでしょう。今日読んでも実に教えられることが多いからです。」

 

【2】「目的は独立維持」

(佐伯氏の論考の概要)

「① 近代の入り口にあって、福沢が、西洋をモデルとして日本を文明化すべしと説いたことは誰もが知っている。

② しかし、福沢は、決して単純な文明主義者でも、西洋主義者でも、進歩主義者でもありません。

③ 『文明論之概略』を材料にして、今日われわれが直面している問題の所在を論じてみたいのです。

④ そのために、この書物の結論であり、その主張のエッセンスがつまっている最終章(第10章)「自国の独立を論ず」をざっとみてみましょう。

⑤ この章の結論は、日本にとって緊急かつ枢要なことは「国の独立」の一点にある、ということです。福沢は、この書物で「文明とは何か」を論じた後に、最後に、文明化とは、端的にいえば独立を確保するための手段だという。

⑥ ここには、かなり大事な問題があるのです。」

 ーーーーーー

 (当ブログの解説)

 ⑤段落は、明治維新期の世界情勢、つまり、「帝国主義」、「植民地主義」の説明です。

 しかし、この説明部分は、「単なる過去」の解説ではありません。

 「現在」にも通ずる問題なのです。

 それが、佐伯氏の問題意識です。

  ーーーーーー

  (佐伯氏の論考の概要)

「⑦ 明治時代の日本に対して、福沢は実は、大変な危機感を持っていたのです。それを概略、次のように述べています。

⑧ 世の識者は、維新という大改革によって古習を一掃しようとした。

⑨ 確かに、改革は進んだ。そこで、どうなったか。人々はいう。学問も仕官もただただカネのため。

⑩ 確かに、これは人々にとって実に気楽な時代である。しかし、ここにこそ、この時代の危機がある、と福沢はいうのです。

⑪ 確かに文明は広まっているが、人々の品行は一向に向上せず、また、そもそも学芸に身を委ねるものも、その学芸に本心から命も(なげう)つような覚悟など持ってはいない。これでは、ただの安楽世界で楽に生きようとしているだけだ。

⑫ これが福沢の時代認識だったのです。」

  ーーーーーー

 (当ブログによる解説)

(1)福沢諭吉の時代認識・危機感は、「安楽世界」という表現に集約されています。

 まさに、「反知性主義」の蔓延です。 

(2)問題は、「学芸に身を委ねるもの」の怠慢です(⑪段落)。

 

【3】「ナショナリティの正体」 

(佐伯氏の論考の概要)

「① どこに問題があったのでしょうか。そもそも、どうして文明化が重要かというと、それは国の独立を保つためではなかったのか。西洋文明を取り入れること自体が目的ではない。福沢は、こう言うのです。

② 考えてみれば、国の独立が課題となるのは、まさにグローバリズムの時代になったからではないのでしょうか。鎖国政策のままでは、西洋列強に侵略されることは時間の問題だったのです。

③ では、このグローバルな世界の中で独立を保つとは、どういうことなのか。

④ そこで、福沢は次のようなことを述べる。

⑤ 独立を保つということは、このグローバル世界において「」をもつ、ということである。「」とは、軍事力や経済力もありますが、何より「国体(→当ブログによる注→①国家の状態。国柄。②国のあり方。国家の根本体制)」、つまり「ナショナリティ(→①国民性。民族性。②国情。国風。)」の堅固さのことなのです。ここで「国体」あるいは「ナショナリティ」とは、禍福をともにして寄り集まった人々であり、他国のことより自国のことにいっそう関心を注ぎ、自国民のために力を尽くす独立した人たちだ、というのです(第2章)。必要なのは「報国心(→「愛国心」という意味)」です。「報国心」は国に対する公の意識ですが、それはまた、自国中心主義で、「偏頗心(へんぱしん)(→一方に偏った不公平な心)」です。「立国」とは確かにある意味では国家的エゴイズムなのです。しかし、それでよい。」

 ーーーーーーー

 (当ブログによる解説)

(1)開明的な民主主義者として著名な福沢諭吉が、「力」・「国体」・「ナショナリティ」・「偏頗心」を強調していることに、違和感を感じる人もいるかもしれません。

 しかし、この時代の世界情勢を意識してください。

 当時、東南アジアの国々は欧米諸国に植民地化されていました。

 (2)⑤段落における、「『報国心(愛国心)』は自国中心主義で『偏頗心』です。『立国』とは確かにある意味で国家的エゴイズムなのです。「しかし、それでよい」の部分は、現在の日本人には、理解しにくいかもしれませんが、世界的常識です。

  ーーーーーーー

 (佐伯氏の論考の概要)

「⑥ では、どうして西洋諸国は強固な国を作ったのか。それは、西洋では「人間交際」がきわめて活発に行われ、「人民は智力活発」であるがゆえに、科学が発達し、産業を進展させ、強力な軍事力をもつにいたったからだ。この場合、もっとも根底にあるものは、精神の活発な働きなのです。そして、この精神を活発に働かせるような「人民の気風」こそが福沢のいう「文明」にほかならないのです。

⑦ それゆえ、文明とは、外的なものではなく、何よりも精神の働きだった。そして、この精神の働きを活性化させるものは、その国の民衆がもっている「智恵」と「徳義」なのです。智徳」を向上させることこそが文明の基礎になるわけで、いってみれば、「民度(→市民の政治的・社会的・文化的意識のレベル。市民社会としての成熟度のこと)」あるいは「国民のレベル」を高める以外にない、ということなのです。

⑧ 西洋には、精神の働きを活発にするような「人民の気風」がありました。それがゆえに西洋は文明国になった。

⑨ かくて、西洋の侵攻から国を守り、独立を保つには、西洋並みの「文明化」を図るほかないのです。人民の気風を高め、智徳を向上させるほかないのです。

⑩ しかし、西洋的な学術や技術を学べば、自動的に人民の気風が高まり、智徳が向上するのでしょうか。

⑪「報国心」などといっても容易ではありません。」

 ーーーーーー

 (当方ブログの解説)

(1)この部分では、⑥段落の、「人間交際」→「人民は智力活発」→「精神の活発な働き」→「人民の気風」→「文明」という、キーワードの流れを把握してください。

(2)⑦段落における「智徳」は、福沢諭吉のキーワードです。

(3)⑦段落の「民度」は、難関大学の入試現代文(国語)・小論文のキーワードです。

 ーーーーーー

 (佐伯氏の論考の概要)

「⑫ 問題は、識者、つまり、知識人なのです。しかし、大半の知識人は、ヨーロッパ模倣の欧化主義者か、平等にして皆兄弟だ、などと理想を唱える。

⑬ それらは、すべて間違っています。いかなる国も富と力を蓄えようとしている。「戦争」と「貿易」こそが今日の世界の現実だ、というのです。」

  ーーーーーー

  (当ブログによる解説)

 福沢諭吉は、「『戦争』と『貿易』こそが今日の世界の現実だ」』と断言しています。

 いつの時代の世界にも、確かに、このような冷徹な一面があるのです。

 

 【4】「貿易も戦争も国力の発動である」

 (佐伯氏の論考の概要)

「① こうなると、福沢の論は、この21世紀のグローバリズムの時代とそれほど変わらないのではないでしょうか。グローバリズムとは、世界的規模での競争や戦争の時代を生み出してしまうのです。

③④→今回の「直前特集」では省略します。 

⑤ 国とは、あくまで偏頗心、つまり、「私情」によって支えられており、「市場」ができれば偏頗心報国心もなくなるというものではない。「貿易」も国力の発動であり、また、国力の原因だというのです。

⑥ 自由貿易や自由競争が「天下の公道(→「公道」は「正しい道理」という意味)」である、などという「結構人(けっこうじん)(→①好人物。お人よし。②馬鹿正直な人物)の議論」を鵜呑みにしてはならない、と戒めているのです。

⑦ 西洋諸国は、いかにも「天下の公道」に則ったかのようなことをいっているが、実際には自らの利を求めているだけだ。偏頗心、つまり「私情」によって動いている、という。 」

 ーーーーーー

 (当ブログの解説)

 ここでは、福沢諭吉の「自由貿易」・「自由競争」批判を取り上げています。

 「自由競争」・「自由貿易」とは、大国が「私情」、つまり、「自国の利益」のために推進する政策だ、と主張しているのです。

 ーーーーーー

(佐伯氏の論考の概要)

「⑧ もしも、独立を忘れて文明だけを強調するとどういうことになるのか。福沢は次のようなことをいいます。

⑨ わが国では、今日、港の様相は、ほとんど西洋と変わらなくなった。しかし、そんなことは日本の独立文明とは何の関係もないことだ。

⑩ このような文明の外観は、結局、国を貧しくして、長い年月の後に必ず自国の独立を害するであろう。

⑪ まさに今日と、さして変わらない状況ではないでしょうか。」

 ーーーーーー

(当ブログの解説)

(1)福沢諭吉は、明治期における「反知性主義」的現象を批判しています。

 文明の外観のみの重視。 

 国家の独立の軽視、あるいは、独立精神についての無自覚。

 これらを、福沢諭吉は、危機感とともに、鋭く批判しているのです。 

 ーーーーーー

 (佐伯氏の論考の概要)

「⑫ ためしに今日われわれの見ている状況を、これに倣(なら)って述べてみましょう。 

⑬ わが国では、現在、空港には外国資本のホテルや商店ができている。だが、外国資本が日本に入ってきて、いくらビジネスをしようが、利益はもっていかれるだけで、「独立日本」とは何の関係もない。

⑭ さらに、自由貿易だとかTPPだとかいっているが、日本国内では職がなくなり、利益をあげているのは外国なのだ。これでは、日本は本当の文明の生まれる国ではないだろう。」

 ーーーーーー

(当ブログの解説)

 難関大の現代文(国語)・小論文においては、このような「グローバル化を鋭く批判する論考」は、頻出です。 

 国家の独立」、つまり、「国家のアイデンティティ」・「国家の自律性」・「国家の主体性」を重視・確立しないと、長期的にみて、国家は没落してしまいます。

 「本当の文明」を保持していない国家は、必ず没落することは歴史が証明しています。

 

【5】「『かざりじゃないのよ、文明は』」

(佐伯氏の論考の概要)

「① 福沢は、文明化よりも、独立の方を重視したのです。今日でいえば、グローバル化するよりも、独立の方が大事だ、ということです。

(②~⑥は省略)

⑦ 今回の記事では省略

⑧ 福沢の「文明」の定義は、人間精神の活発化であり、それは「智徳」に支えられたものでした。しかし、グローバリズムの受容が、逆に精神をきわめて一方向へ偏ったものにしてしまったのです。

⑪ 独立こそが目的で、文明はその手段である、という『文明論之概略』のもっとも重要な主題が再び、たち現れてくるのです。

 ⑫ グローバル化を前提に、自国をどのようにするのか、それを自らの意志で決めるという態度が必要になります。今日、「独立」とは何より「独立しようとする意志」であり、それは矜持(きょうじ)(→「自負。プライド」という意味)であり、ディグニティ(「威厳。高潔さ。品位」という意味)というものでしょう。

⑬ それは、一人ひとりの「」であり、その「」によってたつところに「一身独立」が生まれるのです。そして、「一身独立」の気風が国民に広がったとき初めて「一国独立」が達成されるのです。」

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(当ブログによる解説)

 ⑫段落の「グローバル化を前提にして、そのなかで、自国をどのようにするのか、それを自らの意志で決める、という態度が必要になります」の部分は、第6章全体のキーセンテンスです

 このキーセンテンスの言い換えが、「独立しようとする意志」・「矜持」・「ディグニティ」・「 」になっていることを確認してください。

 

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 (5)「生物多様性」ー2015慶応大・法学部の小論文問題を通して解説

 


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【1】「生物多様性」という言葉に、一定の価値を認める見解もあります。

 以下は、2015年度の慶応大法学部・小論文に出題された、阿部健一氏の論考(「生物多様性という関係価値ー利用と保全と地域社会」)の「キー」の部分(概要)です。

 

(見出し)『生物多様性』という言葉の創出

 生物学者は、生物のかけがいのない価値を認め、しかもその多くが危機的状態にあることを実感している。しかし、地球上の多くの種が消滅の危機にある。わかりやすく一般社会に訴え、社会的関心を巻き起こすようなメッセージ性の強い言葉の必要性を痛感していたことだろう。

 『生物多様性』は、その意味で待望されていた言葉であったに違いない。実際この言葉をきっかけに、生物の保全の必要性と重要性を想起させることができ、社会に関心を呼び起こすことに成功した」

 

 一方で、阿部健一氏も、養老孟司氏と同様に、「『生きとし生けるもの』全体が巨大なシステムをなしている」という側面を認めているようです。

 以下に引用します。(概要です)

 

(見出し) つながることの価値

 生物学者は生物相互のつながりに価値を見出した。多様なことだけが重要なのでなくて、それが相互につながっていることが大事なのである」

(阿部健一「生物多様性という関係価値ー利用と保全と地域社会」『科学』2010年10月号所収) 

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 「生物多様性」という用語には問題がある、という説(養老孟司の見解)もあります。詳しくは、上のリンク画像の記事を参照してください。

 

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(6)「個性崇拝」の問題性ー2005慶応大・文学部の問題を通して解説

以下は、上の記事の一部抜粋です。省略も、あります。

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 〔1〕【「近代・現代と個性の関係」についてー「個性崇拝」批判】

この論点については、2005年に慶応大文学部・小論文で出題された土井隆義氏(→土井氏の別の論考(『キャラ化する/される子供たち』)は、2016年度のセンター試験・国語(現代文)に出題されています。この問題の解説については、このブログで、センター試験直後に記事化しました)の論考(『個性を煽られる子どもたち』)が、最近の入試現代文(国語)・小論文の頻出出典になっているので、ここで紹介します。

 

(問題文本文の一部の概要)

(以下の「本文の一部」は、本文全体の「キー」なので、熟読してください)

(なお、①・②・③・・・・は、当ブログで付記した段落番号)

「① 若者たちが切望する個性とは、社会のなかで創り上げていくものではなく、あらかじめ持って生まれてくるものです。人間関係のなかで切磋琢磨(せっさたくま)しながら培っていくものではなく、自分の内面へと奥ぶかく分け入っていくことで発見されるものです。

② 本来、自らの個性を見極めるためには、他者との比較が必要不可欠のはずです。他者と異なった側面を自覚できてはじめて、そこに独自性の認識も生まれうるからです。このように、本来の個性とは相対的なものであり、社会的な関数です。

③ しかし、現代の若者たちにとっての個性とは、他者との比較のなかで自らの独自性に気づき、その人間関係のなかで培っていくものではありません。あたかも自己の深淵に発見される実体であるかのように、そして大切に研磨されるべきダイヤの原石であるかのように感受され、さしたる根拠もなく誰もが信じているのです。彼らがめざしているのは、これから自己を構築していくことではなく、元来あるはずの自己を探索していくことなのです。」

 

 記事の都合上、設問1(要約問題)は、省略します。ちなみに、この大問は設問は2つです。

設問2 次に掲げるのは、この文章のすぐ後に筆者が引用している、ある少女の投書です。この投書が仮に新聞の相談コーナーに寄せられたものであって、あなたが、その回答者ならば、この相談に対してどのように回答しますか。360字以上400字以内で書きなさい

「私は、自分らしさというのが、まったくわかりません。付き合う友達によって変わってしまう自分、気分によって変わってしまう自分を考えると、いったい何が本当の私なのか、わからなくなります。自分には個性がないんじゃないかと、ずっと悩んでいます。」

 

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(当ブログによる解説)

〈1〉【「難関・国公立私立大学小論文対策のポイント」→筆者の意見に賛成の方向で書くべき】  

 難関大の小論文の答案を書く時には、なるべく(設問で「本文に対する反対意見を書きなさい」という指定がある時は別として)、本文の筆者に「賛成の方向」で書くことが大切です。 

 これが、「合格答案を書くポイント」です。

 問題文本文は、一流の学者・評論家が長時間をかけて、じっくり考察したものです。

 それに対して、受験生が短時間で、説得力のある反対意見を書くことは、そもそも「無理」なのです。

 大学側も、そのような「無茶なこと」は要求していないと思います。

 大学側が見たいことは、受験生の、問題文本文の「読解力」と「論述力」です。 

〈2〉【本問の解答・解説】

 問題文本文のキーセンテンスは、③段落第1文の「個性とは、他者との比較のなかで自らの独自性に気づき(→②段落を前提としていることに注意してください)、その人間関係のなかで培っていくもの(→①段落を前提にしています)」です。

 従って、

第一に、「個性」とは、他者との比較の中で見極めていく必要があること、

第二に、「個性」とは、人間関係・社会の中で培っていくべきこと、

を教えるとよいでしょう。

 

 

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 (7)「情報化社会」の問題点ー1997慶応大・環境情報学部の問題を通して解説

 

 

 


下の記述は、上の記事の一部抜粋です。省略があります。

 

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情報化社会(IT化社会)における「人間の思考の弱点」

 情報化社会の「人間の思考の弱点」については、1997年の慶応大・環境情報学部(いわゆる慶応大SFC )に出題された問題が良問なので、ここで紹介します。

(設問文)

「以下の資料1~4は、すべて『知識』と『情報』について論じたものであるが、これらの資料のそれぞれに必ず言及しながら、来たるべき二十一世紀の社会における『知識』と『情報』の関係について1000字以内で論じなさい。」

〔資料1〕~〔資料4〕の文字数の比率は、「1:1:2:4」になっています。

 出題者の出題意図としては、受験生に〔資料3〕〔資料4〕を重視してもらいたいことは明白です。

 そこで、この記事においては、〔資料3〕〔資料4〕を中心に検討していきます。

 なお、〔資料1〕・〔資料2〕は、それぞれ、「デジタルテクノロジー」、「ネットワーク」をプラス評価しています。

 

 〔資料3〕知(智)について

(問題文本文の結論・主張部分の概要を記述)

(赤字は当ブログによる強調)

 「智恵について、私は一応こういうふうにレヴェルを区別してみます。いわば知の建築上の構造です。

information (情報) 

knowledge(知識)

intelligence(知性)

wisdom(叡智)(えいち)

 上記の構造の下半分の作用に重きが置かれているように思われます。その一段上のノレッジ(知識)というのは、叡智と知性を土台として、いろいろな情報を組合せたものです。個々の学問は、大体このノレッジのレヴェルに位置します。一番上の情報というのは、無限に細分化されうるもので、簡単にいうと真偽がイエス・ノーで答えられる性質のものです。クイズの質問になりうるのは、この情報だけです。

 現代の「情報社会」の問題性は、このように底辺に叡智があり、頂点に情報がくる三角形の構造が、逆三角形になって、情報最大・叡智最小の形をなしていることにあるのではないでしょうか。叡智と知性とが知識にとって代わられ、知識がますます情報にとって代わられようとしています。「秀才バカ」というのは、情報最大・叡智最小の人のことで、クイズには最も向いていますが、複雑な事態に対する判断力は最低です。」(丸山真男著『「文明論之概略」を読む』より抜粋・編集)

……………………

(内容解説)

 現代の「情報社会」の問題性→情報最大・叡智最小→「秀才バカ」→クイズ向きの人→複雑な事態に対する判断力は最低、という論理の流れは、極めて分かりやすくなっています。

 「情報社会」においては、情報摂取に時間・労力を奪われ、じっくり考える余裕も気力も体力もなくなり、思考力が衰えるということでしょう。

 対策としては、「情報社会に内在する危険性を知ること」、そして、「意識して情報から離れて、思考する時間を作ること」が、考えられます。

……………………

 (慶応大・環境情報学部の問題本文)

〔資料4〕「情報」と「知識」

(結論部分の概要を記述)

「コンピューター・ネットワークは情報処理や情報伝達を迅速かつ大量に行い、知識の生産と普及を助けますけれども、はたして知識の生産そのものを行っているのかどうか疑問です。知識の生産そのものは、依然として個々人の主観的内面の世界で行われているのかではないでしょうか。

 これから、出生いらいパソコンとともに育った「新々人類」がふえていきます。私が心配していることは、彼らがコンピューターに強いが本を読まない、情報には詳しいが、ものを考えない人になっていくことです。彼らが「ポスト工業社会」の制度的担い手たる大学や研究所の主役になったとき、その大学や研究所そのものが知識を生産する能力を失っていくことを心配するのは、私だけの単なる杞憂(きゆう)でしょうか。」(富永健一著『近代化の理論ー近代化における西洋と東洋』)

……………………

(内容解説)

 ここで指摘されている「コンピューターには強いが本を読まない、情報には詳しいが、ものを考えない人種」というのは、〔資料3〕の「情報最大・叡智最小の人」と同一でしょう。

 となると、〔資料3〕・〔資料4〕は、同一内容の主張をしていることになります。

 このことを読み取れるか否かが、本問のポイントということになるのです。

 

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編集

(8)2016早稲田大・スポーツ科学部の変わった問題についてー難関・小論文で頻出の「珍問・奇問」対策

 

  

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以上で、今回の記事は終わりです。

次回の記事は、約1週間後に発表の予定です。

 

 

 以下の2冊は、私が書いた本です。小論文の論点整理にも役立ちます。

頻出難関私大の現代文 (αプラス入試突破)

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5週間入試突破問題集頻出私大の現代文―30日間スーパーゼミ (アルファプラス)

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 私は、ツイッタ-も、やっています。こちらの方も、よろしくお願いします。

https://twitter.com/gensairyu 

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